60,寄生させてレベル上げたんだが、育てすぎたかもしれない
森から出てきたモンスターは多方面から同時に侵攻を始めた。
考えている猶予はない、俺は剣を構える。
「ああくそ、とにかく一つどこか潰すしかない! やりながら何か案を考えていくしか――」
決意し、まずは北へ向かって行こうと体の向きを変えたその瞬間だった。
俺の耳に雄叫びが飛び込んできた。そして俺の目には、杖を持った男女が放った魔力の矢が幾本も連なり魔獣を貫く光景が、飛び込んできた。
直後、今度は南から断末魔の叫び声が聞こえてきた。
振り返ると、オーガをはじめ複数のモンスターが倒れるところを目撃する。
その正面には、剣や斧を持った者達が構えている。
「なんとか間に合ったようだ」
そして、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返った俺の目には――。
「コールさん! それに、アリー、ヴェール、他にも大勢――」
冒険者達がやってきていた。
冒険者ギルドの中で何度も顔を見たことのある顔が。
パラサイトしたおぼえのある者達が。
コールが口を開く。
「神殿に行って話を聞いたら、君の言ったとおりだったよ。そして問い詰めたら、神官が危険性を話してくれた。彼はリスクを認識していたようだ。おそらく大丈夫なはずと言っていたが、万一のことを考えわしは冒険者ギルドに行き、人を集めた。偵察に出していた者が君の戦う姿を見たという報告を受け、集めた人員を幅広く配置したんだ」
「そう、なんですか。はは、助かりました」
思わぬ援軍に安心しかけた俺だが、すぐにはっとする。
召喚されているモンスターには、コキュトスウルフやレッサーデーモンみたいな強敵までいる。オーガや大グモも単体じゃなく群れをなしてる。
俺の知ってる限り、そのレベルを相手に出来る冒険者なんてほとんどいなかったはず。オーガや大グモを一対一で相手できるくらいで。
相手をしても大怪我をしかねない。
「もっと厚く守らないとまずいですよ、召喚されてるモンスターはかなり強力です、迷宮の三層クラスもいるし――」
「大丈夫ですよ、エイシさん!」
そう言ったのは、スノリ村での依頼を報告したときも話しかけてきた、俺が一緒に依頼をして、モンスターのとどめを刺させることでレベルを上げさせたローブの冒険者だ。
「今の自分達は、結構強くなったんです。エイシさんの言う強敵にだって負けないくらいに」
「たしかにあの時に結構レベル上がったとは思うけど、さすがにコキュトスウルフクラスのモンスターが複数いる状況じゃ壊滅しかねないですよ」
俺は戦力を集中することを提案するが、その冒険者は首を振った。
「大丈夫ですよ、僕らはエイシさんに教えてもらったんです。他の人を導くということを。冒険者ギルド自体のレベルを上げる、それも大事だってことを。エイシさんに鍛えられた僕は、自分も鍛え続けたし、エイシさんがやったように、かつての僕のように燻っている人に協力させていただき、そんな人も鍛えたんです。彼らも強くなりました。そして彼らと一緒に鍛えた僕も」
それはつまり、俺が自分に寄生させてレベル上げした人以外も、ということか。
ヴェールがそれを引き継ぐように言う。
「そうよ。エイシが直接関わってない人も、エイシが関わった人が鍛えたおかげで強くなった。これまでより強力なモンスターを倒せるようになり、難度の高い依頼をこなせるようになり、装備や道具もいいものを手に入れることができた。結果として、ローレルの冒険者ギルドにいる大勢が力をつけた。だから、今の私たちなら、あそこにいるモンスター達を倒すことも十分出来る」
***
襲いかかるオーガや大グモの群れを魔道師の矢が射貫いていく。
かなりの威力のそれは硬質な大グモの体を傷つけ、動きを止める。
その隙に近接戦闘を戦士が挑み、斧で脚を切り落とす。
オーガの攻撃を盾で受け止める者もいる。
その中には、エイシがかつて一緒に依頼をこなした者もいる。その時は、上級のモンスターに手も足も出なかった者もいる。
だが今は十分に戦えていた。優位以上に。
別の方面にはコキュトスウルフと戦っている冒険者達がいた。
二匹のコキュトスウルフ、そんな強敵を周囲にいる他の魔獣をさばきながら同時に相手をし、傷を着実につけていく。
「どういうことだ、これほどのモンスターに連携して戦えるなんて」
白銀騎士も戦場へとかり出されていた。
そして彼は、驚きの声をあげていた。
「ふふん、驚いた? 私たちは鍛えられたからね」
「鍛えられた?」
彼に声をかけたのは冒険者ミミィ。
ミミィは答えるより先に素早い動きでコキュトスウルフの爪をかわし、ナイフで弱いところを的確に狙いダメージを蓄積させていく。
そして再び間合いをとる。
「僕の知っている冒険者ギルドで、これほど皆の練度が高いところはなかった。突出した実力者はいることがあっても、全体のレベルがこれほど高いなんて」
「エイシが鍛えたんだよ」
「エイシさんが? あの人が?」
「おー、知ってるの。そうだよ、エイシが始めたことが皆に広がって、今じゃ皆でこのレベルのモンスターでも相手できるようになったってことー!」
ミミィがさらにダメージを与え、動きがにぶくなったところでゲオルグが武器を振り下ろす。ミミィがあわせて魔道具を使い炎を爆裂させると、コキュトスウルフは長い咆吼をあげ、地に倒れ伏した。
その様子を白銀騎士は驚きを持って眺めるしかなかった。
***
パラサイト・ビジョンで繋がっている冒険者達の視界を借りて、ある程度の戦況を俺は把握できた。
本当に、ローレルのギルドの皆が強力なモンスターのを相手を出来ている。
驚きだった。俺が一緒に戦った時は、ここにいるモンスター一匹すら相手に出来るかどうかだった人もいるのに。鍛えたあとでも、一匹なら倒せる程度だったのに。
彼らは、そこで留まっていなかったらしい。その時のことで刺激を受け、自分で育ち、他人を育てるようになり、いつの間にか、俺の想像を超えて皆が育っていた。
知らなかったな、ここまでレベルが上がってたなんて。
別に俺は冒険者ギルドのことを考えて底上げしたわけじゃないんだけどな、自分がパラサイトした時に効率的にレベルを上げるために、他人を自分に寄生させてレベルを上げただけなんだけど。
――結果的に、ずいぶんと育てすぎてしまったらしい。
でも、理由は今は些細なことだな。
どうあれ彼らが強くなったことにはかわりない。
そして今は、その事実が一番大事だ。
ついに南北だけでなく、予想どおり正面からもモンスターの群れがやってきた。
俺は振り返り、この場所に展開している冒険者達に言う。
「わかりました。皆さんにここはお任せします、モンスター達を町に行かせないよう、守ってください」
「はい!」
「おお!」
冒険者達が雄叫びを上げ、あらわれたモンスターに向かって突撃していく。
「元凶は、俺がなんとかします」