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53,神秘庁と魔道具職人

 それからしばらく、俺は特に何をするでもなくゆっくりとしていた。

 土いじりも別に急いでしたわけでもないから、そういう意味では帰ってきてからずっとゆっくりしている気もする。


 まああくせくする必要がないのだから、かまわないかまわない。

 いつまでもあると思うなのんびりできる時間というしね。

 それにしても、結構長い間のんびりしていたので、そろそろできてるかもしれないな。例のアクセサリが。


「よし、様子を見に行ってみるか」


 そんなわけで俺は、フェリペの魔道具工房へと赴いた。




 ドアには今日も鍵がかかっていない。

 俺は挨拶をしつつ中に入った。

 入り口近くの商品の陳列棚を抜けて、奥の工房部分へと向かう。

 そこには、器具を持ち、腕輪を叩いたりひねったりしているフェリペの姿があった。


「おー、なんかもうすぐにできそうな感じだね」


 声をかけると、少ししてから手が止まった。

 フェリペは振り向き、俺に鋭い視線を向ける。


「お前か、エイシ。ちょうどいいところに来たな、今日中にもできそうなところだ」

「おー、本当に。それはいいね、じゃあちょっと待たせてもらおうかな。できたてほやほやのアクセサリを見てみたいし」

「かまわない。だが気が散らないようにおとなしくしていろ」

「子供じゃないんだから、大丈夫だよ」


 フェリペは俺の顔を見て一瞬笑うと、作業を再開した。

 どういう意味の笑いだと言いたいが、真剣な表情で尖端が光るピンセットのような道具で腕輪をいじりはじめたので口をつぐむ。


 ハサミっぽいものやねじ回しっぽい道具、サンドペーパーのような板など、色々なものが作業台の上にある。あれを使って魔道具を使っているのだろう。

 素材もあり、もうマンティコアの核などは道具の形になり原型はないけれど、形のある水と呼ばれているゼリーのようなつなぎに使うらし素材をはじめ、いくつかの素材は一見乱雑においてある。

 それらをあるときは繊細に、あるときは大胆に加工していく様子は、素人の傍目でも見事なものだ。

 熟練した作業ってのは見ていて気持ちいい。


 しばらくの間、じっと作業を眺めて待っていた。

 やがて、フェリペが顔をあげる。


「あと少しで完成だ」

「おー、いいねー。本当にいいタイミングで来ちゃったね。それにしても、器用なもんだね。よくそんなに手が動くなって思うよ」

「そこはさほどたいしたことは無い。むしろ、何をどうやれば望みの魔道具になるか、考察して設計するところが急所だ。とはいえ、考察してもそれに必要なものが手に入らないことが多いんだが……エイシ、お前はそれを持ってきた」

「なるほど。だったら感謝してもいいよ」

「ああ、感謝する」

「あ、素直に感謝するんだ」


 真顔で言われると、それはそれで反応に困るな。

 もうすぐ完成に近づいてるから、ちょっと殊勝な態度のような気がする。

 こっちも感謝しないとな。


 と、再び作業に戻ったフェリペの赤い髪を見ながら思っていると、ドアが開く音が聞こえてきた。

 顔を入り口の方へ向けると、中にずんずんと三人組が入ってくる……げ。


「おやおや、魔道具職人のところに来て、ずいぶん変わった者と出会うものだね」


 小馬鹿にしたような口調。

 俺の目の前で、見下す視線を向けてきたのは、グラエル=トレース。

 白い大きい襟に首をおおわれたこの男の態度はいつか会ったときと、みじんも変わっていなかった。


「グラエルさん、お久しぶりです。あなた方も魔道具を?」


 とはいえ、今日はまだ何も揉めていないのだし、普通に受け答えをしておこう。自分からことを荒げる必要もない。

 思い知らせてやるとは言ってたけど、実際に何か動いてるわけでもないし、適当に受け流して平和的に済ませられればそれが一番さ。


「どうして君のようなものに説明する必要がある? とりあえず、そこをどいてもらおう。今日用があるのは、その男だ」


 立ち上がって挨拶をした俺を自然な動きで横に押しのけてフェリペの前へと行くグラエル。

 こっちが大人な態度で穏便に済ませようとしてるのに、こいつは~。


「久しぶりだね、フェリペ。こんなところで細々とやっているとは、驚いたよ」


 フェリペは横目で一瞬ちらりと見て、しかし作業をやめずに返事をする。


「何のようだ? こんな所まで来て、俺はもう神秘庁とは関わりのない人間だが?」

「まったく、相変わらずだね君は。身分というものをもう少しわきまえたまえ」

「知らないな、少なくとも今はもうグラエル、お前は俺と同じ指揮系統にはない、話を聞いてやる義理はない」


 フェリペはにべもなく断ずる。 


 この二人、知り合いなのかな?

 あまり仲良くはないようだけど、どうもそんな感じだ。


「調査中に見つけたものがある。役立たず共が解析不可能と泣き言を言っているから、それをお前にやらせてやると言いに来た。さあ、これだ」


 作業台の上に、珠や短剣など、いくつかのものが置かれる。


「神秘庁の調査品か……ふっ。なるほど、わかってるじゃないか、俺の好みが。面白い、あとでやってやる。日をあらためてこい」

「ん? よく聞こえなかったが、聞き違えか? 僕がわざわざ来てやったのに、日をあらためろだって?」


 グラエルは、眉間にしわを寄せ、フェリペをにらみつける。


「今すぐやれ、フェリペ」

「断る。今やっている作業が佳境だ。面白そうなものをもってきたことは評価するが、俺は俺のペースでやる」

「この僕が命じているのだぞ?」

「そういうのが嫌で、宮仕えをやめたんだ。あの時は組織の中にいたが、独立した以上お偉いさんの命令に従う義務はないね。俺は俺の創りたいものを創り、調べたいものを調べる。俺のやり方でな。ただ、秘宝や魔道具には興味があるから見てやる、一人の『普通の客』としてならな」


 フェリペは小馬鹿にするような挑発的な目を、逆にグラエルに向ける。


 グラエルの顔がゆがんだ。


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