51,休日には家庭菜園を
アリーと宿の前で別れると、俺は久しぶりにいつもの宿へと帰宅した。
「おかえりなさい、エイシさん」
「ただいま、マリエちゃん」
廊下を掃除していたマリエと言葉を交わして部屋に戻ると、荷物をおろして思いっきり伸びをする。
ふぅ、やっぱりここの宿が一番落ち着くね。
荷物を整理していると、馬車の中のことを思い出した。
馬車の中でアリーが話したこと、グラエル=トレースのことだ。
彼は神秘庁というところに所属していて、スノリに来たのはそのためだろうという話だった。
神秘庁とはライン王国の中央にある機関で、人智を越えたものの調査や管理を目的としているらしい。
つまるところ、ダンジョン、秘宝、モンスターなどについての調査が主な仕事だという。
スノリで突然慌ただしく去っていったのは、多分あの魔槍ブラッディリコリスの情報を入手したからだろうな。
タイミング的にこの辺りに来ていたのは、別の業務のためだろうけど、情報を入手したらそっちも見過ごせないってことだったんだろうな。
なかなか好奇心がくすぐられる庁だよなあ。いるのがあの嫌な奴じゃなきゃもっとよかったんだけど。
神秘庁はその業務の性質上冒険者と絡むことも多いらしいけど、アリーによればグラエルはあんな感じでいつも見下しているらしい。
自分の駒か狗のように思ってるとか。
なるべく関わりたくないな。
秘宝というものはあの槍の他にもアカシャの瞳、転移クリスタル、魔女の黒百合など色々あり、それらは神殿との協力のもと保管されているとか、安置されているとか、あるいは解析したり使ったりとそんな感じらしい。
アカシャの瞳は一部解析されギルドカードの元になったもので、あらゆる出来事を見て記録しているという。転移クリスタルはパイエンネの迷宮にあり俺も使ったことがある。
「秘宝か。名前どおり結構便利そうなのも強力そうなのもあるんだな」
色々面白そうだなあと思いつつ、ベッドに腰を下ろす。
うん、やっぱり。
こっちの方がスノリでとっていたのより安い宿だけど、やっぱりここに居るのが一番落ち着くなあ。まさに『自分の部屋』に帰ってきたって感じ。
俺はゆっくりと身体を伸ばして休みの体勢に入った。
俺も秘宝ほどじゃないけど魔道具は持っている。
まあ普通の魔道具なら普通に魔道具屋に売ってるしね。
よし、ゆっくり休むことにしようと決意して数日。
俺は一冊の本を借りてきていた。
それは、神器や魔道具、いわゆるマジックアイテムについて書かれた本だ。餅は餅屋ということで、フェリペの様子を見に行きつつこれを借りてきた。
俺は本を開いて部屋の中で読みふける。
代表的なマジックアイテムについてあれこれと記述がある。
結構面白くてついつい読み進めてしまう。こういう図鑑的な本って昔から好きなんだよなあ。動物図鑑とか読んだ記憶が蘇るね。
あ、ちなみにフェリペの作業は順調で、そう遠くないうちに完成するみたいでした。
一番メジャーなのはスクロール。
色々なスキルを封じたお札で、使うと魔法の矢やアイスランスなどが発動する。いくつか種類があるそうで、これのいいところは使用者ではなく制作者によって威力がほぼ決定されているところ。
魔法がまったく苦手な戦士でも使うことが出来るから、戦士タイプの人にとっては便利だろうな。その逆に体力を使うスキルを魔道師タイプの人が使うことも出来てこれも便利だろう。
ただこれらは使い捨てなので、使いすぎるとお金がなくなるということだ。
他にも色々な魔道具がある。
剣とか盾とかロープとか指環とか、様々なものに特殊な効果を付与したものがある。
これらは媒体が様々で、任意で使う物もあれば常時効果を持っているようなものもあり、使用者の能力に依存して効果が上下するものもある。
スクロールに比べると使いかたは難しいけど、使いこなせば便利なタイプ。
他にも畑においておくと害鳥避けの障壁を張るスケアクロウという珠や、マジックランプという灯りなど、日常生活でももちろん役に立つものはあり、色々なところでマジックアイテムは使われている。結構高級品なことが多いようだけど。
いろいろあるんだなあと思いつつ本を閉じた。
俺はスキル色々使えるから重要度は薄いかもしれないけど、あれば便利なのはたしかだな、要するに文明の利器ってことだし。
これからはスキルとあわせてそっちも有効活用して楽できる方法を考えよう。
さて、それはそれとして――。
俺は宿の階段をおり、宿の裏の土地へと行ってみた。
そこは家庭菜園のようになっていて、たまに宿でそこでとれたものが食事に出されたりもする。
俺も宿に馴染んでいるため暇なときに何度か手入れをしたこともあるのだが、最近はご無沙汰だった。
せっかく新しいクラスの新しいスキルを得たんだし、ちょうどいいから試してみることにしよう。最近手に入れたけれど、まだほとんど使っていない【ファーマー】クラスのスキルを。
魔道具のことを調べてたら、自分のスキルのできることも試したくなったんだよね。ちょうどいいのでやってみよう。うまく土質改善できれば、宿の食事もより美味しくなるってもんだ。
小規模な畑の一枚は作物の出来が悪いということで、今は何も植わっていない。この畑をスキルで改善できるか、やってみよう。
俺はまず、スキル【目利き(土)】を使った。
――なるほど、湿度や土質は悪くないけど、養分が少ないな。だからあんまり育たないと。
しかし、マリエの話じゃ肥料は他と同じようにくわえてたと言っていた。
ということは――微生物かな?
昔聞いた話では、リンとか窒素とかが植物の生育には大事らしいが、それを化学変化させるバクテリアがいないと、植物にとって使える栄養にはならないらしい。
細かい事情は門外漢なのでわからないが、そういう微生物自体が少ないと、いい土にしようと思って色々やってもうまくいかないとか。
検証のために、俺はその畑にちょっとだけ試しに植物をうえてみることにした。
【農具マスタリ】があるので、農業をしたことない俺でも農具の使い方は身体が覚えてくれていて、そつなく農作業は終了。
まあ元々家庭菜園くらいの小さい畑の一角だから、全然手間じゃないけど。
最後にスキル【養分変換】を使って仕上げ。
これは土の中にある栄養の成分を植物にとって使える養分にするスキルらしい
これを使って植物がよく育てば、栄養を作る微生物が減少しているという俺の推測は正しいことになる。
「おっ……きた」
スキルを使うと、軽い脱力感が来た。
大地に干渉するだけのことはあり、結構要求魔力がでかいスキルなんだな。
ちょうど体力が減ったので、少しずつ体力を減らしながら、この前魔槍と戦った時に使ったスキル【火事場】の補正を確認してみた。
スキル【火事場】の効果によって、どうやら体力魔力が1/4くらいになると、能力補正換算で3割ほどあがるようだ。
もっと減らしてみたら、最大で5割増しくらいまでいくということがわかった。結構強力な補正だ。
……まあ、そこまで減ると次の攻撃が最後の一発とかになるからデメリットも大きいけど。一発でいいから威力が欲しいときはこの前みたいに使っていってよさそうだね。
「さて、ついでは調べられたし、あとは畑がどうなるかだ。って言ってもこっちは今すぐは結果が出るはず無いけど。しばらく後に何が生えてくるかなあ」
たまには土いじりってのもなかなかおつなもんだな。