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49,アンチディスペル

 吸血村スノリの真相を知って解決もさせた俺は、宿に戻り気分よく眠りについた。

 謎が解けた後ってのは気持ちがいいもんだ。


 そのまま翌朝までぐっすりと眠り、リサハルナの正体に関してはぼかしつつ、事の真相をスノリの主立った者やアリーにリサハルナとともに説明した。


 反応は結構凄かったな、何がっていえば感謝と歓待が。

 代わる代わる偉そうな肩書きのある人に礼をされて、さらに食事やお礼の品やら。そんなたいしたことをしたつもりでもないので俺は辞退したのだけれど、そうするとますます相手は感心して多くを渡そうとしてきた。

 そんなわけで最終的には断り切れず、色々な野菜やらベーコンやらハムやらが大量に俺のスペースバッグに入ることになった。


 その後、俺たちはローレルに戻ることにした。

 だがその前にアリーは少しスノリを見て回ってから、俺は昨晩からのあれこれで疲れていたので、ちょっと仮眠をとることにした。

 アリーはミミィと町を見るらしい。


 そしてゆっくりと昼寝をした俺だったが、目を覚ましても思ったより時間が経っていなかったので、俺もスノリを見て回ることにした。


 暢気に散歩をしていたその途中のことだった。

 俺は珍しいものを見つけた。

 大きな建物、スノリでは珍しい武具の店の前に、これまたスノリではもっと珍しい甲冑を着こんだ騎士がいたのだ。


 銀色に磨かれた鎧を着こんだ騎士は見たことがない。

 明らかに普通の冒険者という感じじゃないな、この辺では見ないタイプなら、この辺では見ないクラスがあるかもしれない。


 俺はさりげなく近づき、いつものようにそっと触れてパラサイトする。

 だがその瞬間、電撃が走ったようになり、俺の手は弾かれた。

 パラサイトは失敗したのだ。


 一瞬リサハルナの顔がよぎるが、今回はそれとは明らかに違う。

 あの時のように手応えがないのではなく、手応えがあった上で、強力な静電気みたいなものが俺のパラサイトを拒否したのだ。


 初めての経験だ。何が起きたのか、わからない。

 だったら、そうだ。こんな時は、魔法に関して詳しそうなあいつに聞きに行こう。




「アンチディスペルだな」

「アンチ?」

 

 思い立ったが吉日ということで、俺は魔道具職人フェリペが泊まっている宿へすぐに向かった。

 体験した出来事を話すと、フェリペはすぐにそう言った。


「ディスペルは知っているか?」

「ああ。呪いや魔法の効果を打ち消すスキルだろう」

「そうだ。その効果を持つ道具がある。相手が意識的にスキルを使っていなかったのなら、その類の装備をしていたのだろう」


 パラサイトは呪い扱いされているのか……ここでも酷い扱いだ。パラサイトの地位向上を求めたい。

 しかし、実際これは困るな。

 俺の一番のウリが通じない場合があるというのは。


「――そうか。そこでアンチディスペルを使えばいいんだね」


 フェリペは頷く。


「対呪の道具があるなら、対・対呪の道具もあるのが世の道理。その道具を身につければ、無効化できるだろう」

「いいもんがあるんだなあ。対・対呪が優先されるのかなそれって」

「いや、どちらにもランクがある。当然力が強い方が優先だ。もちろん、スキルや魔法の威力も関連する」

「なるほどねえ。そう単純じゃないか。でもあれば助かるな」


 俺は顎に手を当てながら考え、しばらくしてからスペースバッグから、魔槍ブラッディリコリスの核であった魔結晶を取り出した。


「お前! それは!」


 瞬間的に、フェリペが身を乗り出す。

 俺はフェリペの眼前に、その光る結晶を見せつける。


「これで足りる? 望みの魔結晶は」

「足りるも足りないもない――これは、こんな高濃度見たことがない」


 力が入りすぎて震える手で、結晶を掴むフェリペ。

 さすが魔道具マニアだと感心してしまう。


「じゃあ、これでマンティコアの素材を加工できるね。何を作るか考えておけって話だけど、決めたよ。アンチディスペルの効果がある魔道具を作って欲しい。俺にとって、相手の対呪を破れることは一番役に立つ」


 パラサイトもだし、この前も敵の能力を下げるスキルを使ったしね。ちょうど何を作るかもいいタイミングで決まった。

 俺の言葉を聞いたフェリペは力強く頷いた。


「ああ、任せろ。俺の職人人生で一番の素材を手に入れた。最高のものを作ってやる。必ずな。しかしエイシ、お前はいったいなんなんだ? なんで俺の欲しい物をいつもいきなり持ってくる」

「うーん……偶然?」

「そんなわけあるか! ……ふっ、まあいい。お前が言いたくないなら、俺が突き止めるのみ。……いずれにせよ、お前についてれば俺は職人として高みに登れそうな気がしている。頼りにしてるぜ、エイシ。くくく、はっははは!」


 フェリペは高笑いを始める。

 勝手についてこられても困るんだけどなあ。


「早速開始だ。エイシ! 期待して待ってろよ!」


 めっちゃテンション高くフェリペは荷物をまとめ始めた。

 もう宿を出て自分の工房にいくつもりのようだ。

 俺以上の思い立ったが吉日人間だな、呆れるほどに。


 でも、フェリペが仕事を進めてくれるなら文句はないどころか歓迎か、うん。

 俺はできあがりに期待しながら宿を出た。




 それからしばらく逍遙していると、ミミィとわかれたらしく一人でいるアリーを見かけた。

 と同時に、先程の白銀の騎士を二人見かける。


 もう一人いたのか、何かの騎士団とかそんなんが来てるのかな。なんて思いつつ両方に注目していると、アリーが俺を見つけて駆け寄ってきた。


「エイシ様、偶然ですね」

「うん。珍しい人がいるね」

「あの鎧の方々ですね。あの方達は恐らく中央から派遣された人だと思います。同じような格好の方を見たことありますから」


 へえ、どうりで冒険者とは装備の高級感が違うわけだ。

 どこでも国と繋がってる人は強いんだな。


「そんな人が来てるとこにでくわすとは運が良いかもね、俺って」

「ふふ、そうですね。……それに比べて私は運がありません。昨日のエイシ様が吸血事件を解決するところに立ち会えませんでした。エイシ様の本気のお力を近くで見る機会でしたのに。以前は迷宮で一番見たいお姿が見られませんでしたし、本当に間が悪いですよね、私は。エイシ様の勇姿、見たかったです」


 アリーはしゅんと俯いてしまう。

 言われてみれば迷宮の時も今回も直前まで一緒に冒険してたのに、ちょうど大ボスと戦ってる時はいなかったな。

 まあ俺が一人で行っちゃう協調性のなさが原因なんだけど。


「また危険なモンスターでてきてくれないでしょうか」

「危ない事言わないでください」


 アリーは恨めしそうな目を向けてくる。

 俺に言われてもなあ、俺にも原因があるとはいえ……お?


 と、アリーの肩越しに見えていた銀鎧騎士に動きがあった。

 じっと立っていた二人組が、頭を下げていたのだ。

 それは、近くの建物、たしかこの街の有力者の事務所だったと思うが、そこからでてきたカールした金髪の青年だ。


 青年は二人を気にする素振りもなく、歩き出す。

 が、不意に立ち止まり、こちらに向かってきた。

 え、なんで?


 銀鎧騎士をお供に引き連れ、俺の前まで来ると、青年は俺と、アリーを見て微笑を浮かべた。


「久しぶりだね、アリー=デュオ」

「グラエル=トレース様。お久しぶりです」


 アリーは男に気付くと、向き直り丁寧に礼をした。

 どうやらアリーの知り合い、雰囲気からして貴族か。


「こんな辺境で君に出会えるとは思ってなかったよ。なんでこんなところに?」


 蔑むように周囲の風景を見ながら、グラエルという男は言う。


「ここでギルドの依頼を果たしていたの――」

「ああ、冒険者とかいうものをまだやっているのか」


 グラエルはアリーの言葉を遮って大きな声で言う。

 アリーは無言でグラエルの目を見つめている。


「驚いたよ。君のように美しく聡明な者がまだそんなわけのわからない下賤のものがやることに手を染めているなんて」


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