表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/160

48,パラサイトの成果

 速効で決める。


 俺はひしゃげたまま槍に操られ動く空の甲冑に向かっていき、先手をとって切り込み鎧を横薙ぎに切り裂いた。

 攻撃と同時に放たれた槍の攻撃は回避し、操られている甲冑の腕が切り裂かれる。


 多くのスキルを身につけ、基礎能力はかなりあがった。

 様々なスキルで能力に倍率がかかるということは、基礎能力があがればそれだけ能力をブーストした後の最終的な能力も大幅に上昇するということを意味する。

 今の俺には、この敵の動きも十分追えるし、回避もできる。


 切断された甲冑の腕から槍が地に滑り落ちる。

 これで終わる――わけはないな、やっぱり。


 槍はオーラのようなものを纏い浮かび上がった。

 魔力で甲冑を操れるなら、そういうことをしてもおかしくないとは思ったけど、ここからが本番か。


 再び先制攻撃をしかけるが、素早く穂先が動き、俺の剣を槍が受け止める。

 と、剣の刃がこぼれてしまった。これも相当いい剣のはずだが、秘宝っていうだけあってこの槍は凄まじい品質だ。


 帰す刃で反撃してきたのを、剣で受け止めるが、それでも刃が少し欠けてしまう。

 これは受けるのはきついな


「気をつけろ、並の武器ではボロボロになるだけだぞ」


 後からリサハルナのアドバイスが聞こえてくる。

 はい、身を以て体験しました。


 できれば受けたくないが、しかしこれまで以上の高速で槍は攻撃を仕掛けてくる。動きも自由な分読みづらく、当たらないよう回避だけするのは困難。

 どうやら、鎧を使っていたのは省エネのためらしい。


「やっぱり槍自体を破壊するしかないか、【アタックエンハンス】」


 俺は自分にエンハンス系スキルを一通りかけ自分の能力を強化。

 さらに呪術スキルを槍にかけるが、いまいち手応えがない。

 物にも効くことは実証済みだから、この槍が特別に特殊な魔法に対する抵抗を有しているようだ。


 当然相手はだまってかけられるわけではなく、攻撃を仕掛けてくる。

 かなり厳しい攻撃だが、魔法盾を使うことで勢いを殺すと多少受けやすくなった。完全には防げないが、速度を減らすだけでも有用だ。

 

 そうして相手の攻撃を何度もかわしつつ、諦めずに呪術スキルを掛け続けていると、何度か目に少し手応えがあった。

 

「効いたな」


 やっぱり完全無効化できるわけじゃない。

 呪術スキルを強化していたのが効いたのもあるだろうけど。


 スキル【諸共の法】。

 呪術の効果をあげるがリスクとして自分にも一部呪いが返ってくるというスキルだ。これのおかげで0ではなくなったんだと思う。

 だが、その代償として俺の能力は……下がらない。


 なぜなら、エンチャンターと呪術師の複合スキル【ステータスドレイン】が、呪術をかけた相手のステータスを吸収するからだ。

 それと相殺し、相手の能力だけを大きく下げることができる。


「じゃっ!」


 ここで攻勢に出た。

 俺の剣撃は槍が穂先で受け止めたが、今は剣の刃はこぼれず、打ち合うことができている。

 これで攻めていけるな。

 魔法剣士スタイル、やっぱり便利だ。スキル色々使える俺には合ってるな。


 こちらも攻撃をしつつ、相手の攻撃を防ぎながら、お互いしかし決め手に欠けている状況だった。呪術を決めても秘宝というだけあり、無茶苦茶堅いのだ。

 だが何か弱点はないかと探しているうち、俺は槍が動き出すときに、柄と刃の間にある石が赤く輝くことに気付いた。

 あれが、魔槍の魔の源泉だ、きっと。


 槍が宙を舞い、俺と距離を取る。

 呼吸を整え、迎撃のタイミングをはかる。

 次で決めると決意し、俺はさらにエンハンスと呪術を行使する。


 と、背後からリサハルナが言った。


「もう効いているし、それ以上重ねがけもしてもその手のスキルはもあまり意味はないぞ」

「いや、意味はあるよ、リサハルナさん。俺の魔力が減った」


 そう、無駄うちでも使えば魔力は消耗される。

 無駄使いが俺の狙い。

 この二重の寄生中にゲットしたスキル【火事場】。

 それは、魔力や体力が減るほどスキルの威力が上昇するというスキルだ。

 俺は自分の能力をあげるスキルを使うことで能力を上げつつ魔力を減らすことで、さらにスキルの威力を上げていたのだ。


 十分高まった。

 これで一撃、ぶち込む。

 残った魔力を集中すると同時に、槍は俺の心臓をめがけて飛来してきた。

 落ち着いてタイミングをあわせ、攻撃を勢いよく弾く。

 槍自体にはダメージはないが、弾かれた槍が軌道を変更しようとする瞬間が狙い、速度を落とし防御が薄くなるその瞬間に、魔力を集中した魔法の矢を、赤く輝く一点を狙って射出した。


 矢はあやまたず命中し、魔石は砕けた。 

 血のような赤い光は蛍のように夜の闇に散っていく。

 即座に槍は光を失い、地面に落ちた。


 秘宝の破壊は完了した。




「驚いた。あれを破壊する者がいるとは」


 背後からの声はリサハルナ。

 優雅に手を叩き、槍を見下ろす俺の側に来る。


「見事だよ。正直、この程度のランクの依頼を受ける冒険者にどうにかできるとは思っていなかった」

「本当に正直ですね。たまにはそこそこやるんです」

「そのようだ。秘宝に勝てる人間やモンスターなど普通はいない。賞賛に値する。あるいは畏怖か。いったいどういう人間なんだ」


 リサハルナは俺の肩や首を何かを確かめるように触る。

 血の確認とかしてるんじゃないだろうな、目が真剣でちょっと怖いんですが。


「ちょっと、くすぐったいです」

「ふふ、そこは普通だな。さて……解決したわけだが、私をどうする?」


 笑みをひそめると一転、挑むような姿勢をリサハルナは俺に向けてきた。

 俺は『どう』の意味がわからず首を傾げる。


「私はヴァンパイアなんだぞ。そのままでいいのか?」

「あ」

「……忘れていたのか。暢気というか大物というか、たいした男だ」


 額に手を当て首を振るリサハルナ。

 そう言われても、目の前の戦いに集中してたんだから仕方がない。

 しかし、実際どうしたものか。


「うーん……まあ、別にいいんじゃない?」

「なに?」

「別にヴァンパイアでもいいんじゃないかな、悪いことしないなら。廃墟にいたころは血とか吸ってたのかもしれないけど、そんな昔のことは歴史の書籍の内容みたいで実感なんて無いし、もう時効ってことで、今やってないならいいよ」


 俺は断言する。

 リサハルナは目を見開いて俺の顔をまじまじと見つめる。その驚いたような表情は、少しおさなく見えた。


「変わった奴だ。恐ろしくはないのか?」

「全然。俺はそう思わなかったし、俺は俺の目を信じるよ。それにある意味俺も似たようなものだったりするかもしれないしね」

「……ふふ、たしかに私と同じく変わり者だ」


 リサハルナは俺に近づいてくる。

 そして首筋を指で撫でてきた。


「やはり人間に交じっていると面白いことがある。もうかなり長いが、君のような者は初めてだ。来てくれてよかった」

「そんなたいしたもんじゃないですよ」


 色々な人にあってきただろうし、その中で自分だけ特別ってのは言い過ぎだ。

 それにそんなに特別だと思われるのも困るというか、普通に普通だと思われる方が楽だしなあ。


「味見をしてみたくなったよ、ずいぶんと久しぶりに」

「いや本当たいしたもんじゃないですよ!?」


 吸われないよう否定しつつ、壊れた魔槍の前に行きどうしようかリサハルナに尋ねると、もう自分には必要無いし、吸血事件の犯人として突き出すと言った。

 だがそのコアの宝玉は価値があるし、戦利品として持って行けと言う。

 なので手にとってみるが、槍のコアである宝石からは大きな魔力を感じる。


「これって、もしかして魔結晶ですか?」

「ああ。秘宝に使われるほどだから、素晴らしく高純度高濃度だ。欠片にはなっているが、その性質は失われてはいないはず。報酬としては悪くないだろう。これが私からの謝礼だ」


 俺は速攻でスペースバッグの中に入れた。

 魔結晶きたよ、きた。

 なかなか見つからなかったけど、これでついに特別製魔道具が完成の目処が立つ。


 パラサイトで得た力も試せて、前々から欲しかった物も手に入れられて、いい夜だったと思いながら、俺はリサハルナとともにスノリへと戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ