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36,襲撃村スノリ

 そこにはローレルに比べると小さい建物が並んでいる。

 広い畑が目立ち、村の近くの草原では牛や馬が草を食みながら歩いている。


 それがスノリという村。

 エイシがゲオルグ、ミミィと共に受けた依頼をこなしに来た場所だった。


「馬車に揺られて三時間~、やって来ましたスノリ村~、今日は強い味方がいるから安全安心楽勝よ~」

「ミミィ、また変な歌を歌って……」

「変じゃないよっ。私冒険者じゃなきゃ歌手になってたと思うし!」


 ゲオルグが俺に向かって肩をすくめて見せた。

 どうやらこの二人はだいたいいつもこんなノリのようだ。


 ローレルで合意に至った俺たちはすぐに二人が目をつけていたという依頼を受け、翌日の朝に馬車を一台調達してここスノリに来た。


 馬車を降りた俺は、体をうんとそらして腰を伸ばす。

 馬車に揺られて草原や森や川の景色を眺めるのは楽しかったけど、箱詰めにされて身体が軋む軋む。

 ふう、開放感がたまらない。


「じゃあ、依頼人のところ行こうか」

「うん、行こ行こっ」


 俺たちは連れたって依頼人の家へと向かった。

 村とは言うものの、そこまで田舎という感じではない。ローレルを畑や家畜の割合を増やして建物や商店街などは全体的に小規模にした感じで、特に滞在する中で不便を感じるほどではなさそうで安心だ。


 俺たちは地図に従い、依頼人のところに行って詳しい話を聞いた。

 このスノリの農業をまとめている組合のようなものの役員で、どうやら家畜が殺されるという事件が最近頻発しているらしい。

 人間にも怪我人が出ているという。


 そのモンスターの巣を叩いてくれというのが依頼だが、襲撃を目撃した者の話を依頼人から聞いたところによると、なかなか強力なモンスターのようだ。

 どこから来ているかはわかっているということなので、善は急げと、俺たちは早速その場所へと向かう。


「エイシはどう思う? やれそうか?」

「うん、情報通りなら十分いける。大蜘蛛とは戦ったこともあるしね」

「気持ち悪そうなやつとやったことあるんだねー、エイシ。巨大な蜘蛛が馬の首に針を刺して体液をすすっていたのだ! ……って、かなりホラーだよ」

「つまり針を刺されなければいいんだよ」

「なるほど~、頭いいねエイシって」

「ミミィはもう少し頭つかっとけ」


 ゲオルグに言われてミミィがいーっと歯を見せる。

 ゲオルグは無精髭を生やしたがたいのいい壮年の男で、ミミィは小柄で表情がコロコロ変わる十代中頃の少女。

 年の離れた従姉妹みたいで和むなあこの二人。


 ……そうだ。

 二人と言えば。


「ところで、あとの二人は? 今さらだけど」

 

 目的地である山の方へと歩きつつ、尋ねる。

 この前は四人組だったはずだよな。


「ああ、迷宮では四人だったよね。あの二人は二人で別の依頼やってるよ。ローレルの近くにある沼でとれる貝殻集めてる。まー、仲は良いけどいつも一緒ってわけでもなくて、気に入った依頼をやりたい者同士で組んでやってる感じねー」


 なるほど、たまに大仕事やるときは四人ってことか。

 迷宮攻略だからと気合い入れてたんだな前は。

 今回はこの二人、シーフのミミィと鉱員のゲオルグが組んでいるというわけだ。戦闘面以外でも有用なクラス、しっかりパラサイトさせてもらいますか。


 しばらく歩くと、目的地のはげ山のふもとに辿り着いた。

 巨大な岩がごろごろと転がり、地面に深い窪みなどもあって森でもないのに死角が結構多い。足元は柔らかい砂状であり、動きづらくもある。

 そして大蜘蛛はパイエンネの迷宮二層であらわれるレベルのモンスター、二人にとってはかなりの強敵のはずだ。


「気をつけて。突然来るかもしれないし、足元も悪い」


 二人は俺の言葉に頷き、武器を構える。

 俺も注意深く周囲をうかがい――なるほど、そうきたか。


 左方の砂が盛り上がっていることに気付いた俺は、岩陰を見ている二人に無言でその場所を示す。

 二人は驚いた顔になりつつ、そちらに向かって武器を構える。


「はっ!」


 砂から巨大な蜘蛛が姿を見せたと同時に、俺は地面を蹴った。

 柔らかい砂では速度が出しにくいので、一蹴りで岩の上に乗り、二蹴りで岩からモンスターの身体へと突撃。

 攻撃に転ずる間も与えず、八本足のうちの半分以上を切断し、牙を潰す。緑色の体液が飛び散る。


「今だ!」


 俺の動きを唖然としたように見つめていた二人は、はっとしたように蜘蛛に向かっていく。

 蜘蛛は足掻くが、戦闘力を大きく失った状態ではゲオルグとミミィの二人に軍配が上がった。途中ちょっとひやっとした場面もあったけど、無事快勝だ。


「やった! 倒せちゃったよ、こんなモンスターを!」

「ああ、驚きだ。迷宮二層でこいつと似た奴見たが、それよりでかいぜ」 


 二人は信じられないという顔で見合っている。

 そして俺に二人で顔を向ける。


「実際見るとさすがなんてもんじゃないな。瞬きする間にあれを瀕死まで追い込みやがった。エイシのおかげで俺たちでもこいつと戦えた、本当に大したやつだ」

「いや、それほどでもないよ。不意をつけたからってのが大きいし――また来たよ」


 今度は岩陰から大蜘蛛が現われた。

 そいつは糸を放出してきたが、速度はたいしたことないので悠々回避。

 先程と同じように、二人にとどめを刺させるために足と牙をいくらか潰し戦闘能力を奪う。


「よし、任せてっ。私がまた倒しちゃうよ!」


 ミミィが速攻で突っ込み、懐に入る。

 複眼を短剣で切り裂き、勝ち誇った笑みを見せる。


 だがその瞬間、蜘蛛が無事な足を振り上げ、鋭い先端をミミィに向けた。

 

「ミミィ!」

「え――?」


 ゲオルグの声に、危機を認識したミミィが驚愕に目を開き固まる。

 俺はすでに動き始めていた。


 魔法の矢じゃダメージは与えられるが動き出した質量は止めにくい。

 だから、直接止める。【ブースト】【スピードエンハンス】【シルフ】を重ねがけして加速しミミィの前に移動、剣の腹で大蜘蛛の足を受け止め、そのまま切り飛ばした。


「エイシー……」

「このまま一気にとどめを!」

「うんっ!」


 ミミィは力一杯振りかぶり、蜘蛛の頭に短剣を突き刺しそのまま口まで引き裂く。大蜘蛛は痙攣し、今度こそ力尽きた。


 ……はあ、よかった、間にあって。

 俺は盛大に溜息を漏らした。


 失敗したなあ、あんな危ない状況になっちゃうなんて。もうちょっと徹底的に弱らせるべきかな。倒しきってしまわないように考えてあのくらいにしたんだけど、塩梅はまだ考慮する余地がある。安全第一。


 と考え込んでいると、ミミィが俺の方をじっと見ていることに気付き、俺は口を開いた。


「ごめん、危険な目にあわせちゃった」

「なんでエイシが謝るの。あたしが油断したのに」

「そりゃあ、誘ったのは俺だから。ランクが上の危険な依頼に。だから俺がもっとちゃんと気を配らないといけないのに、最初うまくいって油断してた。今度は気をつけるよ」


 そう言って俺は頭を下げた。

 少しして顔をあげると、ミミィが怒ったような、泣きそうな顔で、じっと俺を見つめていた。


「うー……ばかばか、謝んないでよっ! 油断したのはあたしなんだから。エイシは格好良く助けてくれたんだからっ」


 そして胸をぼんぼん叩いてくる。

 同時にゲオルグが俺の肩を叩いた。


「そうだ、あんたが頭を下げることじゃない。実力的にはいける状態だった。それを最初の勝利で気が緩んだからこうなったんだ。俺も、暢気に見ていたせいですぐにミミィをフォローできなかった。今度は気をつけるというなら、俺たちだ」

「……ありがとう、ゲオルグ、ミミィ。そうだね、全員で気を引き締めてかかろう。楽な依頼なんてないって」


 ゲオルグとミミィは、揃って頷いた。


【シーフ10→11】


「お、あたしレベルアップした!」


 そのとき、レベルアップの表示が出てきて、同時にミミィも声をあげた。

 俺もミミィもレベルが上がったようだ。


「俺もさっき上がったが、こんなに早く成長できるのか、このクラスのモンスターを倒すと」

「うん、凄い凄い。もっともっとやっつけようよっ」

「現金な奴だな。気は引き締めておけよ」

「わかってるよ。行こうエイシ、ガンガンねっ」


 ミミィはレベルアップで上機嫌になったのか、俺の手を引っ張り岩場の奥へと進む。

 ちょっとアクシデントもあったけど、ちゃんとレベル上げも依頼も同時進行できている。この調子でやっていきましょう。


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