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35,四人組の二人組

 エウレカ! エウレカ!


 と叫びそうになったところをぐっとこらえ、俺はちゃんと服を着て浴場をあとにした。


 その足で早足で冒険者ギルドへ向かう。

 もう夕暮れ時だが、この時間でもそこそこ人はいて、酒を片手に話したり、軽食をつまんでいたり、軽い酒場のような雰囲気だ。

 そんなギルドの様子を眺めて誰にしようかなと考える。


 ここにいる人はだいたい皆見覚えがある。

 パラサイトもしたことがある者が大半だから、クラスとレベルもわかる。

 どのクラスをあげるかで、誰に声をかけるかを決めようと思うけど、何からにしようかな。


 そのとき、ヴェールの姿が視界の中央を横切った。

 そうだ、あの時のお願いを有効活用しようと思い出した俺はヴェールに近づいていく。すると向こうも気づきこちらに歩いてきた。


「エイシ! 久しぶりじゃない、冒険者ギルドに来るの」


 弾んだ声で言うヴェールは、体もうきうきと弾ませているように見える。

 つられて俺も声のトーンをあげて答える。


「うん、久しぶりヴェール。最近暢気にしてたんだけど、ちょっと用事があってね」

「用事? その言い方だと依頼って感じじゃないわね」

「そうなんだよね」


 会話をしつつヴェールを二重寄生計画の対象にするかを考えるが、マーシナリーのクラスはそこそこ上がっているんだよな。

 そうなると、やっぱりまずは別のクラスをあげたい。


「そのことで、ちょっと頼みたいことがあるんだ、ヴェール」

「頼み? もちろん、なんでも聞くわよ。助けてもらったときに言ったとおりね」


 ヴェールは任せろと言わんばかりに胸を叩く。

 こういうとき頼りになるね。


 俺はパラサイトのことは伏せつつヴェールに事情を説明した。

 俺の狙いが上手くいくような相手を探して欲しいと。上のランクを狙っているけど、ちょっと苦労しているような人がいたら教えて欲しいと。他人と組むことを受け入れるような人がいいと。


「わかったわ。約束したとおり、全力でかりは返すわね。……でもさ、エイシ、本当にそれでいいの?」

「いいのって? 何か問題あった?」

「問題はないけど……なんでも頼みを聞くってせっかく私は言ったのに、そんな簡単なことでいいのかしらって」

「いやいや、そんな無理難題ふっかけるつもりはないよ。それに、これこそ今の俺に一番必要なお願いだから」


 と俺が言うと、ヴェールは困ったような顔をして頭をかく。


「うーん。待ちじゃだめかしら」

「待ち? 何を?」

「ううん、こっちの話。作戦考えとかないとね」


 首を勢いよく振ったヴェールは、思案顔になる。


「早速考えてくれるとは、そんなにやる気出してくれるとありがたいね」

「そっちの話じゃないわ、今の作戦は」

「どっちの話なのかもうわからないよ」

「あはは、大丈夫よ、そっちもちゃーんと考えておくわ。じゃあ任せて!」


 ヴェールは握り拳を俺に見せてやる気をアピールし、他の冒険者の元へ早速声をかけに行った。


 よくわからないけど、でも、やってくれるならオーケーだ。

 あらかじめ提案を受けてくれそうな人をヴェールに厳選してもらえるならこれほど助かることはないね。

 片っ端から応募して連続で断られ続けると心が折れそうになるし。


 あとは調査結果を待てばいい。

 ――のだけれど、一回だけ声かけてみようかと思い直した。

 ちょうど、条件に合致していそうな人がいるということに気付いたからだ。


「お久しぶりです」

「ん? あー、君は! 久しぶりいっ」


 女冒険者は声をかけた俺に気付くや否や、俺の手をとりぶんぶんと上下に振り回す。

 隣の男の冒険者は落ち着いた様子で小さく頷く。


「あの時は助けてもらったな。おかげでここでこうして冒険者やれている」


 そう、俺が声をかけたのはかつてパイエンネの迷宮の中で怪我をしていたところを助けた冒険者達だ。

 あの時の四人組のうち、リーダー格の男と女が二人でいるのを見つけたのだった。


「それはよかったです」

「本当によかったよ! 神様仏様君様だねっ」


 掴んだままの両手をさらにぶんぶん振る女冒険者。

 なんて元気のいい子だ。

 というか肩抜けそうです。


「君もあれから大丈夫だった? 回復薬とか私達にくれたけどさ」

「まあ、なんとか足りました。結構珍しいものも手に入りましたし」

「おおー、凄い。あたし達なんてあそこで助けてもらわなかったら、今頃ウルフに骨かじられてただろうに、助けた上で余裕の生還なんてやるう」

「まったくだ。それでいて登録間もない新人だと言うのだからな。俺達はとんでもない男と同じ冒険者ギルドにいるものだ」


 髭を触りながら男冒険者がしみじみと頷く。

 俺はこめかみをかきながら首を振った。


「いやあの、そんなにほんと、たいしたことじゃないです。それでなんですけど、実はあの時の探索で見つけた素材の加工に必要なものを今探してて――」


 俺は二人にかいつまんで事情を話した。

 そして計画通りに、魔結晶の見返りとして分け前無しで依頼など手伝いたいと申し出る。

 

「そんなことは必要無い」


 男冒険者は即断じた。


 あれっ、ちょっと予想と違う展開なんだけど。


「俺たちはあんたに恩がある。だから見返りなど不要だ。何も無くとも、あんたのために情報とブツを探してやる」

「いやー、それはむしろ困るんですけど」

「困る?」

「あ、いや困るっていうか、その、そうじゃなくて、そう、治療薬のお礼にそこまでしてもらうと申し訳なくて困るということです。求めてる魔結晶は本当にレアなので釣り合わないです。だから、依頼のお手伝いさせていただければ――」


 相手が義理堅くて失敗しそうのところを、なんとか修正しようと試みる俺に、援護射撃をくれたのは、意外にも女冒険者だった。


「そうだよ、ゲオルグ。彼の言うとおり、手伝ってもらっちゃおうよー」

「おい、ミミィ。恩を返すのに手伝ってもらってどうする」

「いいじゃんいいじゃん、好意は素直に受けとっとくもんだとあたしは思うよ? ねえ、……あ、名前知らないや」

 

 ミミィとゲオルグというのか、この二人。

 俺も今の今まで知らなかった。


「俺はエイシです。ミミィさんの言うとおりですよ、ゲオルグさん。本当に負担だったら言いません。それに、高純度の魔結晶は魔元素が濃いところにあるでしょうから、それを探すためには難しい依頼をこなせるような経験があった方がいいっていう打算もあるんです。つまり、僕にも利益がある」

「ほらほらほらほらほらー。エイシもそう言ってるし、頼んじゃおうよ。ちょうど、狙ってた依頼があったじゃない。難しそうなのがさ」


 ミミィが拳を振り上げ力説する。

 この子はシンプルでいい。ありがたや。

 俺とミミィの顔を交互に見比べ、顎をかき、ゲオルグは嘆息した。


「わかった。頼む、エイシ。俺たちを援護してくれ」


 やった、交渉成功!

 これで、この二人を鍛えて俺を鍛えることができる。


「ええ、一緒に頑張りましょう!」


 俺は勢いよく返事をした。


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