33,寄生の二乗
休み始めて数日、俺はあることに気付いた。
それは、レベルアップ速度の鈍りだ。
【名前】エイシ=チョウカイ
【クラス】パラサイト27 マーシナリー16 魔道師8 剣士7 神官14 狩人14 呪術師14 闘士3 鉱員8 シーフ10 精霊使い14 エンチャンター15
【体力】 181
【攻撃力】 160
【防御力】 153
【魔力】 180
【魔法攻撃力】 178
【魔法防御力】 177
【敏捷】 165
【スキル】 魔力回復力アップ 弱体延長 パーマネントサモン 通神 サーヴァントの召喚 石囓り 生命の息吹 エレメントアタック 精霊魔法 精霊感知 マジックエンハンス アタックエンハンス 魔力増幅 癒やしの手 痛み分け 遠隔武器マスタリ エンハンスブースト パラサイト・ビジョン クアドラプルパラサイト パラサイト・クラス パラサイト・インフォ パラサイト・ゴールド 近接武器マスタリ 強撃 魔道具マスタリ 魔法の矢 剣マスタリ 連続剣 ディスペル 弓マスタリ……
もちろんレベルは上がってはいるのだけれど、以前ほどペースは早くない。だいぶ鈍ってきている。
理由は簡単に思い当たる。俺のレベルはハイペースで上がって強くなるけど、寄生している相手はそんなに強くなるわけじゃないから、倒すモンスターの強さも、入手経験値も変わらないからだ。
だから高レベルになるとどうしても成長が鈍ってくる。
パラサイトで経験値倍率アップしているとはいえ、一人当たりは所詮四倍。
レベルアップに必要な経験値が四倍以上にあがれば、普通よりも遅くなる
まあ、四つのクラスが同時に経験値が入ってくるのだし、それを遅いというのは贅沢というものだろうが、しかし一度凄い勢いでレベルアップを経験すると、あれをもう一度味わいたいと思ってしまうな。
生活レベルが一度あがると、収入が減っても下げられずに借金する人がいるっていうのは、こういうことなんだろう。
「まあ、でも」
ベッドに座っていた俺は、そのまま転がった。
「慌てる必要もないか」
そもそもレベル上げる必要がないって話だからなあ。
すでにこの町じゃ最強クラスだろうし、よっぽど危ないところに自分から行かない限りモンスターにやられることもない。お金もあるから依頼をあくせくこなす必要もなし。
将来的に何か起きる可能性はあるけど、来年のことを話すと鬼が笑うっていうから、まったりやっていこう。
「……と思ったけれど」
俺は体を起こし、ベッドからおりた。
ちょっといい方法、思いついたかも知れない。
通路のように整った洞窟の中、俺は周囲をうかがう。
周りに見ている人はいないな、【パーマネントサモン】。
光とともに、尻尾に花が咲いている魔道豚、ハナが表われた。
緊張感のない鳴き声をあげたハナは、俺の周りを嬉しそうにくるくるまわる。
「よしよし、今日も元気いいな」
しゃがんで背中を撫でてやると、目を細めて気持ちよさそうな顔をする。
かわいいが、今日はかわいいだけじゃないってところを見せてもらう。
「来たな」
迷宮の奥からやって来たのは、綿毛が飛んだ後のタンポポのような植物型モンスター。ただし大きさはタンポポとは段違いで人間並だ。
根っこの変化した足をもさもさと動かして迫ってくる相手にハナもやる気を見せているが、俺はハナに待てと指示して前に出る。
植物型モンスターは見た目に似合わず物理タイプで、丈夫な葉っぱを腕のように振り回して襲いかかってくる。
だが今の俺には一層のモンスターでは相手にはならない。軽くかわして葉っぱを刈り取り、剣の鞘で胴体というか茎というかに打撃を与えた。
モンスターは二体ともフラフラと弱り攻撃力も激減。
「よし! 今だハナ、とっちめろ!」
俺は後方に下がる。
同時に行けの合図をもらったハナは魔法の矢で攻撃、さらに勇ましく前に出てタックルをぶちかました。
弱っていたモンスターは避けることも反撃もできずに二体ともとどめを刺されてしおれた。
喜びの鳴き声を上げるハナ。
そのレベルが上がったのは、その直後だった。
……よし。
上手い具合に俺が敵の体力を削って弱らせ、ハナにとどめを刺させることができた。そして狙いどおりハナがたくさんの経験値を得たはずだ。
弱い者が強い者に守ってもらい、補助してもらい、一人では勝てないレベルの敵を倒すことで高速でレベルアップを果たす。
言わば強い者に寄生して美味しいところを持っていくというレベルアップ法。
これを利用すれば、まだあまり強い敵と戦えないハナのレベルを効率的に上げることが出来る。
だが、俺の本当の狙いはそれだけじゃない。
俺は自分の手から伸びる、金色の光がハナに繋がっていることを確認する。
俺には【パラサイト】のスキルがある。
パラサイトすれば、寄生している相手が得た経験値に倍率をかけて俺も得ることが出来る。
これは凄いが、しかし寄生している相手に任せていては、入ってくる経験値はその人が倒せる分の四倍にしかならない。寄生している相手が弱いモンスターしか倒せなければ、元が低いため四倍になってもそこまでじゃない。
だが今やった方法を使えば、寄生相手が本来は倒せないレベルのモンスターを倒せるので、モンスターを倒して得られる基礎の経験値を大幅に上乗せできる。
たとえばこのパイエンネの迷宮では、一つ深い階層に行けば手に入る経験値は十倍くらいにはなりそうな感触だった。
だってタンポポとオーガなんだ。それ以上の差があったっておかしくはない。
だから今やったことを二層でやれば、ハナが一人でやったときの10倍を超える効率で俺が経験値を得ることが出来るのだ。
元々四倍になってる上に、さらに10倍。しかもパラサイトと魔道師両方のクラスに経験値が入るため、全部で80倍!
戦い方的な意味で俺に寄生させて他者のレベル上げをさせ、スキル的な意味で俺が寄生する、この二重の寄生を使えば、これまでの比じゃない速度でレベルを上げられる。
「ハナのおかげで新たな境地が開けたな。これまでは他人を自分が手伝ってレベル上げさせるって発想がなかったから思いつかなかったけど、気付いてみれば簡単なことじゃないか。寄生されて寄生する、このループが正解だったんだ」
自分だけ寄生するのではなく、相手にも寄生させる。
助け合いの精神は尊いな。
それから俺たちはパイエンネの迷宮第一層を歩きながら、モンスターを狩っていった。あのキノコのおかげでハナがある程度レベルが上がり、スキルも覚えていたため、順調に相互寄生狩りは成功。
進みながらハナのレベルも、俺の魔道師レベルも上げることが出来て、狙いどおりに戦力アップを果たした。
途中、ちょっと驚いたのは、ハナが倒したモンスターを食べたことだ。
なんでも食べる雑食タイプだと思ったのだが、タンポポのモンスターをはじめ、小悪魔のようなインプなんかも平気で食べていた。
普通の食べ物も食べるけど、モンスターも食べるのか、やぱり召喚『獣』なんだなと思い直したね。
さらに二層の入り口まで行き、二層のモンスターで同じことを挑戦する。
ここまでのレベルアップもあり、オーガや大グモ相手に同じようにやってみた。最初こそ、安全マージンを取り過ぎて俺が倒してしまうミスをしたが、いくらかやるとコツをつかんできて、ちょうどいい塩梅をつかみ、ハナにとどめを刺させることに成功。
それからは勢いに乗って、二層のモンスターをガッツリ狩って、転移クリスタルに到達した頃には――。
ハナ【魔道師5→13】
エイシ【魔道師8→17、パラサイト27→28】
これは超気持ちいい。
久々に一気にレベルが上がっていく快感を味わえたし、これからはレベルを集中的に上げたいときは今日みたいに俺に寄生させればガンガン上げられる。
こいつはこれからが楽しみだ。