32,今日は休ませていただきます
ハナの散歩を終えた俺は、宿に戻った。
せっかくなのでキノコを宿親父に渡したら、キノコたっぷりのスパゲッティを作ってくれた。クリームとチーズをふんだんに使ったソース、それに負けない強い香りのキノコ、もっちりしたパスタが三位一体となって、うまい。
コリコリしたキノコの食感を楽しんでいると、これを売っちゃうのはちょっともったいないなあと思えてきた。
とりあえずスペースバックの中に保存しておいて、保留しておこう。
お金に困ってるわけじゃないし。
そして満腹になった俺は、ベッドで気持ちよく横になった。
翌日、目が覚めた俺はキノコのスープの朝食をとった。
やっぱり体温の低い朝は暖かいものが一番癒やされるね。
食べながら、さて今日は何をしようかと考えてみるが……。
うーん、今日は何もしたいと思わないなあ。
最近活動的だったし、今日は一日だらだらしておこう。
とりあえず二度寝をして、目が覚めたら昼になった。
手持ち無沙汰だったので、それからなんとなくスペースバッグの中身の整理を始めた。
暇だとPCのフォルダの中身を分類したくなる的な、本棚の本を高さをそろえて綺麗に並びけえたくなる的な、ああいう心境である。
スペースバッグの容量もかなり大きくなってきたが、持ち運ぶ必要のないものまで入れるのもスペースの無駄なので、宿屋の部屋に置いてある物とあわせて整理整頓の開始だ。
…………。
ああ、なんでハサミが三つあるんだ、絶対買ったこと忘れてまた買っただろ。
この木の板はいったい何の目的で保存しているんだ?
あ、中に美味しそうな焼き菓子が。うん、甘い。
…………。
「はー、今日もよく働いた」
いる物いらない物を分類し、持ち運ぶ必要のないものを宿の部屋の中の簡素な木棚に収納したり壁に立てかけたり、ちゃんと並び順も考えたし、完璧だ……!
綺麗になったバッグと部屋を見て達成感に包まれながら、ベッドに身を投じ四肢を投げ出す。
この瞬間、たまらないね。
きれいになった部屋の空気を吸いながら横になる、これ以上の至福があるだろうか、いやない。
幸せを噛みしめながらしばらくそのままごろごろしていた。
ずっとごろごろしていた。
三十分ほどぼーっと目を閉じたり開いたりしつつ寝転んでいた。
……ふっと俺は起き上がった。
「暇だ」
さすがに何もせず眠らずだと退屈だ。
なんかやりたいけど、今現在部屋の中でできる暇つぶしが特にない。
どうするかなあ。
しばし考え、俺は宿を出て、色々な商店が並ぶブロックへと向かった。
だが今日はいつものアイアンブロックではない。
特に名前のついていない商店街である。名前がついていないだけあって、特にこれと言った特色のない、色々な普通の日用品が売っている店が並んでいる。
目当てはそこにある貸本屋。
店内には大きな棚があり、そこにはちょっと汚れたり破れたりした本が並んでいる。設えられた什器は高級感の名残があるが、今はあまり手入れされていないようだ。
ここでは本は結構な高級品らしく、それ故、庶民は買うのではなく借りることが多い。買うと結構な値段がするようだけど、借りるならそこまででもないからだ。
三冊一週間でしめて銀貨4枚。
それでもまあまあの値段だけど、買ったらそんなものでは済まないんだよね。十倍くらいすると思う。
宿へ帰ってまず開いたのはこの地域に生息するモンスターや猛獣の図鑑。
図鑑の絵に色は塗っていないが、おなじみローレルウルフやあの逃げ足の速い兎などが掲載されており、他にもまだ俺が見たことのないモンスターの絵もある。
印象的だったのは巨大なカブトムシのようなモンスター。裏側の絵までしっかり書いてあったけど、カブトムシの腹側って気持ち悪いと思い出しました。
そしてやっぱりレッサーデーモン。ザ・悪魔って感じの風貌でファンタジー感高まっていい感じ。ヤギの角をもった魔人。強さも見た目どおりかなりのもので、コキュトスウルフと同等以上らしい。あったら死ぬ前に逃げろと書いてある。
迷宮三層にいるらしいが、そのうち出会うこともあるのかねー。
そのとき、空中に映像が表われた。
【呪術師13→14】
「お、レベルアップ」
本を読んだり掃除してたり昼寝してたらレベルアップ。
やっぱりこれだね、今日は自分の能力をとても活用した気がする。
たいして何もしてない気がするけれど、こういうなんでもない一日が実は一番大切なものなのだ、うん。
そうして、その日一日俺はだらだらと過ごした。
時間を無駄にすることが最大の贅沢である。
目的無く行動する休みってやっぱりいいと再認識しました。
さらにそれから数日、休みに目覚めた俺は同じように本を借り、食べ歩き、昼寝して、暇を潰して、レベルアップして、過ごした。
明日も一生懸命休もう。