30,茸には不思議な力があるものだ
魔道具職人フェリペに貴重な素材を託して宿に戻ると、ちょうどハナが目を覚ましたところだった。
目を覚ましたハナは俺の足下に歩いてきて、鼻を鳴らし尻尾を振り振り、そして部屋の中をくるくる歩き始める。
そうだな、ちょっと散歩に連れて行こうか。
外に出たいかもしれないし、まだ明るいしね。
「よし、おいでハナ」
ドアを開けて呼ぶと、ハナは小走りでよってきた。
俺が歩き出すとぴったりと後ろについてくる。
そして俺は召喚獣を引き連れ外出した。
「おー、元気いいね」
俺とハナは町の側の森にやってきた。
ハナは森に着くと駆けだし、野性が目覚めたごとくに木々の間をすり抜け走りまわっている。
見た目はミニブタだけど、その体内には猪の血が流れていると確信させる猛ダッシュを俺はほほえましく眺めていた。
この森なら危険なモンスターはいないし、安心して散歩できる。
奥の方に行かなければ、そもそも危険じゃないモンスターすらほぼいない。
思う存分のんびりできるだろう。ハナもドングリとか食べられて喜ぶだろう、きっと。
と、ハナが俺の服の裾をくわえて引っ張ってきた。
「どうしたの、ハナ。……ついてこいって?」
俺を導くように、てくてくと歩き出すハナ。
ついていくと、葉っぱに覆われた木の根元を短い前足で掘り始めた。
そして鼻で落ち葉を払いのけると、下からあらわれたのは――。
「キノコだ」
平べったい形の白いキノコがこっそりと数本かたまって生えている。
この匂いをかぎつけたのか。
どれどれ。
しゃがみ込んで匂いをかいでみると、なんとも言えない芳しい香りがする。
大地の匂いだ、これはまさに。
「なかなかいいもの見つけるね、ハナ」
褒めると尻尾を振って喜び、その勢いのままキノコをむしゃむしゃと食べ始めた。
しまった、採って帰るつもりだったのにと思っているうちに、止める間もなく半分ほど食べてしまう。
失敗したなあ、まあハナが見つけたものだし、しかたないか。
【ハナ・魔道師1→3】
ディスプレイが表示されたのは、その時だった。
突然、そんな表示が表われたのだ。
「まさか、これって――見られる?」
俺は自分のステータスを見るときと同様にハナのステータスが見たいと念じる。
すると――。
【名前】ハナ
【種族】豚花
【クラス】魔道師3
【体力】 66
【攻撃力】 89
【防御力】 78
【魔力】 46
【魔法攻撃力】 66
【魔法防御力】 66
【敏捷】 75
【スキル】変異 魔道具マスタリ
まじですか。
まさか召喚獣のステータスも見られるとは予想してなかった。
他人のステータスは基本的には見えず、寄生していると相手のクラスとレベルが見られるのだが、普通はそれだけなのだ。
こんな風に能力やスキルまでは見られない。
召喚獣は自分が呼び出したものだから自分と同じようにステータスを見られるってとこかな、便利でいい。
だが、今俺の中での注目の的はそれだけじゃない。
なんで今レベルがあがった?
キノコを食べた直後に、ハナのレベルが上がった。
これってやっぱり、キノコのせいでレベルが上がったってことだよな。
つまり――。
「偉いぞ、ハナ。こんなものを見つけるなんて凄いよ!」
賞賛の声を森に響かせると、ハナは得意げに俺の周りを駆け回りはじめた。
クラスのレベルは、モンスターの体にあるエネルギーのようなものを取り込むことで上がるっていう話だった。
つまりそのエネルギーがいわゆる経験値ってことだけど、このキノコにはそれと同種のものが詰まってるんだと推測できる。
これまで見たことないし、そういうものは相当にレアなんだろうけど、食べたり使ったりすることで、クラスの経験値を得ることができるわけだ。
食べるだけでパワーアップなんて、最高にいいじゃないか。
これはパラサイトとしては外せない逸品だぞ。
「よし、他にもないか探しに行こう。宝探しだ、ハナ」
俺はハナを引き連れ、森を歩き始めた。
散歩しつつ、キノコを掘る。そんな優雅な午後の始まりだ。
見つかってくれればいいなあ。