27,女神再び
マリエは部屋を出て宿の手伝いに行き、それからハナに御飯を食べさせたが、今度は特になんの変化もなかった。
どうやら、食べれば必ず進化するわけじゃないらしい。
さっきのは、一番最初だから一回で進化したってところだろう。
たくさん食べれば進化するのか、それとも条件を満たしてから食べると進化するのか、そのあたりは気になるけど、おいおい調べていこう。
だってハナが寝ちゃったから。
食べ終わるとすぐに俺のベッドの上を占拠してぶーぶーいびきをかき始めた。
前足も後足も両方のばしてべたっと寝そべってる姿が――くぅ、かわいい。
寝床を奪われちゃったけどこれじゃ怒れないな。
「それじゃあ、もう一つ、気になってたスキルを試してみるかな」
俺は椅子に座ってステータスを再度確認する。
そこには、もう一つ目をつけている新スキルがあった。
それは【通神】。
「神……神ねえ」
この世界で神といったら、あれだよな。
ということは、このスキルの効果は、あれだよな。
「とにかくやってみるか。どうなるのか――【通神】!」
スキルを発動した瞬間、周囲の光景の一角が、ブロックノイズが走るように欠けていく。
それは寄り集まり、一つの塊を作り、そして――ああ、ここは。
俺がこの世界に初めて来た時に訪れた、白い空間が映像として映し出された。
そこにはもちろん、異世界ホルムの女神ルーがいて、い……て?
そこには、だらしなくお腹を出して寝息を立てているルーの姿があった。
「ううーん……むにゃむにゃ」
ルーは眠りながらお腹をかいて、寝息を立てている。
威厳の欠片もないんですけど、この女神様。
「うひひひ……くふふ……」
しかもなんか不気味な笑い声を寝言で上げている。
どんな夢見てるんだこの女神。
「おーい! おーい! そっちにも聞こえるのかー! ルー!」
画面の中に呼びかけてみると、寝言がやんだ。
もぞもぞとルーが動き、そして体を半分起こして、ぼーっとした顔をこっちに向ける。
「ふあああ……なんだ、この前の……エイシくん」
目をこすりながら大あくび。
どうやら向こうからもこっちは見えてるし聞こえているようだ。
ちゃんと通信できている。
突然、ルーが目をまん丸く大きく開けた。
「エイシくん!? どうしてここに!?」
驚いた顔のまま、どたどたと走ってくる。
桃色の髪を揺らしながら画面の目前までやってきて、手を向こう側に映し出されているであろう画像にぺたぺたと触るようにしている。
「おお? おお! おおー。これは、ここにいるわけじゃないんだな。ああ、なるほど。見覚えあるある。なんかのスキルでしょ、ずばり!」
「ご明察。さすが女神様。【通神】ってスキルを覚えたら、つながったんだ。まさかルーとまた話す時が来ようとは、びっくりしてるよ」
「私もびっくりしたよ。こんなスキル使われたの凄く久しぶりだなっ」
「複合スキルだったから、覚えられる人滅多にいないんだろうね」
と説明して思ったけど、俺が複合スキル使えるなんてルーは思ってないよな、あの時点じゃ一つのクラスしか持ってないし。
ふふ、なんて話して驚かせてやろう。
とにやにやしてたんだが、ルーは納得顔でうんうんと頷いている。
あれ? なんでだ?
「ああ、あれか。凄いよね、パラサイト。あんな効果のクラスがあったなんて私も知らなかったよ。今どれだけクラス持ってるの? クラス長者のスキル長者にすっかりなったねえ、エイシ君は」
「あれ、俺がそうなったこと知ってるの? ルー」
「もちろんだよ。神だけに許された私の神スキル【神眼】があれば下界の様子くらいちょちょいのちょいっとわかるのは当然至極。ここを見ようって思えば簡単に見えちゃうんだ。エイシ君のことが気にかかったからちょくちょく様子を見てたんだけど、全然心配する必要なかったよ。この世界でも余裕でやっていけてるようで、私も一安心。よかったよかった」
ルーはぱちぱちぱち――と笑顔で拍手をする。
そんな風に真正面から祝福されると嬉しいやら反応に困るやら。
まあ、うん、素直に喜ぼうか。
「それもルーがあのクラスを引き出してくれたからだよ。感謝してる」
それに、誰も本当のことを知らない中で、事情を知ってる者が一人でもいるってのは、なんだかほっとする。
「うむうむ、存分に感謝するがよいぞ。まあでも、二十四時間見てるわけじゃないから、結構気になってる知らないこともあるんだ。さー、教えろエイシ君」
腰に手をあててふんぞり返っていたルーは目を輝かせて身を乗り出す。
そうして、女神の質問タイムが始まった。