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18,買い物は午前の涼しいうちに済ませましょう

 コール=ウヌスの屋敷を訪れた翌日。


 いったいアリー=デュオは何の用件があるのか。

 気になるけれど、それは昼過ぎまでわからない。

 俺はそれまでの時間を買い物でもして過ごすことにした。


 他の冒険者を見て思ったけど、俺は装備が貧相だ。

 それに道具なんかもあまり持っていない。

 これから先どれくらいギルドの活動をやるかはわからないけど、そういうのを補充しておくのは悪い選択じゃないだろう。


 何より、昨日お金が大量に入ってきたし、スキルでも毎日入ってくるのだから、遠慮せずに使えるぞ。


「あ、あれは――」


 冒険者や傭兵など向けの多くの店が軒を連ねる、アイアンブロックと呼ばれる区画に行くと、そこには俺と同じく買い物に来ていたヴェールの姿があった。

 自然と一緒に買い物をすることになり、俺が武器をまず買うつもりだというと、ヴェールが一押しの武器屋を紹介してくれたので、そこに入る。


「本当に気前よかったよ、コール=ウヌスっていう貴族。ヴェールも知ってるんだよね、珍品を買い取ってくれる」

「もちろん。私も一回買い取ってもらったけど美味しかったわ」

「でもちょっと心配になるよ、あんなに気前よく冒険者が取ってきたものに値段つけてたら、自分のお金がなくなるんじゃないかって。かなりたくさん物が置いてあったし」

「あはは、まあ大丈夫じゃない? まだまだお持ってそうだし、そんなに頻繁にお眼鏡にかなう物を見つけられるわけじゃないしね。それに、お金を渡すのも目的だって話を聞いたことがあるわ。自分が貯め込んでいてるより、金離れのいい冒険者に渡せばこの町で金を落とす。そうすれば冒険者以外も潤うことになる。自分は珍品が得られ、冒険者は必要なものが得られ、店屋は金を得て、皆が得する。やがて巡り巡って町全体が豊かになるってさ」


 ただの気のいいおっさんかと思いきや、結構考えてるらしい。

 人の良さそうな顔してたけど、本当に人間の出来てる人だな。


 じゃあ、俺もそれに協力しちゃいますか。

 狙いどおり、取引したお金で商品を買おうではないかと、武器を見繕い始めた。


 武器防具屋の中には、剣や槍、弓や斧、兜や盾にローブなど、色々な装備品が所狭しと並んでいて、壮観だ。

 これだけ武器が並んでいる光景なんて見たことないからなあ。

 もし地震が起きて棚の上から剣がばらばら落ちてきたら……おお怖い。


 さてさて、色々あるけれど何を買おうか。

 今までの戦闘スタイルからすると、基本は物理攻撃重視のスピードタイプって感じでやりつつ、魔法もちょくちょく使ってる。


 クラス的には剣士と狩人があるから剣と弓が多分いいだろうが、魔法で遠距離攻撃ができるから、弓だとかぶるかな。

 そうすると剣が一番現状ではあってそうだ。


 そういうわけで俺は剣のコーナーを集中的に見ることにした。

 太くて重い剣、鍔が凝ってるもの、刀身が鮮やかな緋色の剣、いかにも剣って感じのオーソドックスな剣。


 色々と手にとってみるが、いまいち質がよくわからない。重かったり大きかったりで扱い辛いとか、魔力を感じるとかその程度はわかるのだが。

 剣の刃の質がいい悪いはなかなか難しい。値段が高いのを買えばとりあえずいいんだろうか。


「ふうん、エイシは剣が好み?」


 とそのとき、ヴェールが俺の持っている剣を横で眺めて言った。


「うん、一番あってるかなと。でも色々あって迷うね」

「少なくとも今持ってるのはだめだめ、全然造りが甘いわ、違うのにした方がいいわよ」

「ヴェール、わかるの?」


 俺の言葉に、ヴェールはじと目で睨んでくる。

 そして指を俺の鼻の前でふりながら言う。


「忘れたかしら? 私、もと鍛冶屋よ」

「あ。そういえば、そんな話に聞き覚えが」


 ヴェールは盛大にため息をついた。


「覚えててよ、もう。こっちはエイシがニートだってこと覚えてるんだから」

「それは忘れていいです」


 俺がニートなのはともかく、ヴェールが鍛冶屋だったのはいい情報だ。

 早速、扱いやすい剣で良さそうなのはないか聞いてみる。


 ヴェールは色々見繕いつつ武器について解説をしてくれた。

 それによると、この世界の武器は単純に攻撃するだけでなく、魔力を高めたり、敏捷や魔法防御のような能力を高める特殊効果や、装備すると特定のスキルと同じような効果が発生する魔力のこもった武器など、色々あるらしい。

 しかし特殊な武器はやっぱりレアらしく、普通の武器屋なんかじゃそうそう売ってないそうだ。


 二人で色々と見た結果、俺は軽くて魔力も含んでいるという黒銀の剣を購入した。俺の注文を満たすこの武具屋にある商品では、トップクラスに切れ味も耐久性もいいものだというヴェールのお墨付きだ。

 武器はいくら攻撃力に優れてても丈夫じゃないとダメだ、というのがヴェールの一番の信条らしい。


 その次は防具だが、耐えるより回避していくスタイルなら並の鎧や兜よりは回避を高める魔法が込められている装飾品がおすすめというので護符を購入。それにガチガチに防具を固めると魔法の発動が阻害されてしまうらしい。

 なので魔道師は軽装が多いということだ。魔法と物理の両刀でいく俺も軽装の方がいいだろうということだ。


 また靴や服は戦闘というよりは森やダンジョンなどの探索に耐えられる丈夫なものは購入した。普段着がすぐにぼろぼろになっても困るしね。


 それからロープやランプや携帯食料、それに傷薬や体力回復薬、魔力回復薬など、冒険者生活に必要な諸々のものを購入した。


 一気に買って一気にすっからかん……とまではいかないがかなり減ったな。金貨6枚ほど使ってしまったから、昨日の貴族との取引利益もかなり吹き飛んだ。薬がかなり高いんだ、普通のはともかく傷をすぐに癒やせるようなのは魔法の力も込められているので効果次第だがなかなか値が張る。

 でも得た利益で未来のさらなる利益のための投資をするのは正しい使い方だと思う。それにまた明日の朝になれば【パラサイト・ゴールド】でお金が入ってくるし。


 その【パラサイト・ゴールド】だが、調整したら得たお金を枕元じゃなくてスペースバッグの中に入れることができるようになった。

 起きたら枕元にむき出しでお金がおいてあるっていうのにちょっと抵抗あったけど、これで安心。


 またスペースバッグのスペースだが、これは手に入れた頃よりかなり増えている。

 どうやら俺の能力値と連動しているようだ。

 多分魔力か魔法攻撃力かだと思うけれど、それが増えるほどに入れられる容量や質量も増えている。今じゃ相当大量に入るので本当に便利な逸品だ。


「ふう、結構買ったわね~。気前いいじゃない」


 道具屋からでた通りの上で、清々しい表情でヴェールが空を見上げた。

 俺もつられるように浮き雲を見上げる。


「ヴェール様様だよ、ありがとう。武器を見てくれたこともだし、道具を買ったときも安くて質のいい店教えてくれて助かった。何より、どういうものがどういうときに必要になるかって教えてくれたしね」

「ふふふ、これでエイシが冒険者ランクあがったときに、私が育てたって言えるわね、もっとアドバイスしてもいいのよ、この私が」


 親指で自分の胸を指すヴェールは冗談めかしているけれど、実際かなり世話になってるよなあ。

 冒険者関係のことじゃ頭が上がらないね本当に。マーシナリーのクラスと経験値もヴェールからもらったし。


「うん、ありがとう」

「まかせなさい! ……あの、本当に私に頼っていいからね? 力じゃ勝てなくても、色々教えられることはあるし、一緒に冒険者の依頼をやってもいいし。というか、冒険者ギルド関係なくあっても、今日みたいに買い物するとか、そういうのも悪くないというか、ええと、そういうことだから!」


 珍しいな、ヴェールがはっきりしない口調だなんて。


「そうだね、俺もいつも依頼やってるわけじゃないし、今日も一人で買い物するよりいいものを楽しく買えたし、こういうのもいいね」

「そうよね! うん!」


 ヴェールは花が咲いたような笑顔で大きく頷いた。

 そして俺の肩にそっと手を置く。


「いつでも言ってよ、いつでもつきあうからさ。いつでもよ。あ、そうね、いつでも言うためには場所を知らないとダメよね、私の家は――」


 町の地図に○をつけて、俺によこす。俺も自分の泊まってる宿の位置をヴェールに教えた。


「これでわかりにくかったら、冒険者ギルドにいけばちょくちょく私はいるから。ウェンディに案内させてもいいわよ。サボる口実ができたって喜ぶから」

「あはは、ウェンディさんが聞いたら怒るよ」

「ふふっ……ねえ、この後、もうちょっとどこかいかない? 私も今日は特に依頼とかないからさ、せっかくだし」


 ヴェールがまた少し躊躇したような調子で、俺から目をそらしながら言った。

 俺は頷きかけて、しかし首を止める。


「ごめんヴェール。今日はこれから約束があるんだ。それまでの間買い物しようと思ってこのブロックに来たんだ。だからつい時間を忘れてたけど、もう行かないと」

「あ……そうなんだ」


 断った瞬間、逸らしていた目が素早く俺の顔をとらえた。


「それならしかたないね。うん、しかたないよ。別にエイシが悪いわけじゃないし、気にしないで、私は私で受けてる依頼でも消化するからさ。うん、それをするから本当気にしないでいいよ、断ったからって。全然気にしてないし、私。だから気にしなくてもいいよ」


 気にしないでいいって連呼されるとむしろ気になるんですけど!?

 というか気にさせようとしてませんヴェールさん?


 と思っていると、ヴェールがにぃっと笑う。

 俺は悟り肩を落した。


「ちょっとは気にした?」

「……大いに気にしたよ。はあ、やめてよねヴェール、俺の心臓ノミなんだから」

「ごめんごめん。ちょっと困った顔を見たくなっちゃってさ。いつでも会えるのに今日ダメなくらい気にしないから大丈夫よ、また共闘することもあるかもしれないしね。それじゃ、またね、エイシ。バイバイっ」

「ああ、また! 今日は助かったよ!」


 大きく手を振るヴェールに手を振り返し、俺は彼女と別れた。


 人目につかないところで、買った荷物をスペースバッグに入れ直し、そして待ち合わせの北ゲートへと向かった。



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