136,塔再攻略
色々終わった俺は、その日の用事を済ませ、宿に戻った。
そして床につく――前に。
もう一度巨人の塔へ行く前に、ステータスをチェックしておこう。パラサイトの枠も久しぶりに増えたことだしね。
そう、実はパラサイトの枠が増えたのだ。
今日の冒険中、
《パラサイト59→60》
《セクスタプル・パラサイト習得》
とパラサイトのレベルがアップ。
そして新スキルを覚えた。
そのスキルは、名前どおり六人にパラサイトでき、経験値効率が六倍になるというこれまでのパラサイト人数を増やすシリーズの系譜。
枠不足に悩んでたところを見て神様が気を利かせてくれたのか、まさにどんぴしゃのスキル。覚えたときは枠が増えると小躍りしたね。まあ、神様ってルーになっちゃうんだけどね。
さて、そんないいことがあったことだしステータスチェックなのである。
【名前】エイシ=チョウカイ
【クラス】パラサイト60 マーシナリー21 魔道師32 剣士23 神官33 狩人26 呪術師29 闘士16 鉱員23 シーフ24 精霊使い25 エンチャンター30 ファーマー25 パラディン25 バーサーカー17 木こり14 ダンサー18 錬成術士19 調教師7 鍛治師1
【モンスター】ブラッドバット9 ソニックウィドウ 12 ポイズンモンスター12 ヴァンパイア 16 ライジンライギョ7
【体力】 455
【攻撃力】 410
【防御力】 388
【魔力】 451
【魔法攻撃力】 429
【魔法防御力】 477
【敏捷】 406
【スキル】
セクスタプル・パラサイト 放電 蓄電 雷速剣 エレクトリックチャージ 武具強化 魅了の魔力 new/ 糸斬 蟲毒の呪 強化延長 錬成コピー 自己再生 神聖弱化 旧き言葉 剛力 スケイルスキン 毒液 魔法の糸 毒の牙 音波探知 毛繕い アイスボール スノードロップ デイライト……
また、現在パラサイト中なのは【エピ】【ギルドであった調教師】【ライジンライギョ】【工房の鍛治師】【ソニックウィドウ】の五人だ。
そう、実はこの前泣く泣く諦めた鍛治師にパラサイトできたのだ。今日フェリペとともに町に帰って工房の方を通ったとき、先日の男があらわれフェリペと二言三言かわしたのだが、その隙にパパッとパラサイト。ポイズンモンスターの犠牲は無駄にはしない。
残りの枠はとりあえずフリーにしておく。何かパラサイトしたい相手にあったとき、すぐにできるように。モンスターも対象になったから、新しいクラスに出会う可能性は高い。
新たなスキルで注目してるのは、《雷速剣》かな。ライジンライギョの放電と、剣士の音速剣スキルの組み合わせで、ついに速度は雷の領域へ。
あとは武具強化は鍛冶師のスキルで、シンプルに武器を強化できる。魅了の魔力はエピに前使われたスキルだ。相手を操ったり動けなくしたりメロメロにしたりするという。大丈夫、悪用はしません。
「枠は増えたし、パラサイトできる対象も増えたし、地味に基礎ステータスも高くなってるし、なかなかいい感じそうだ。また冒険で使って行こう」
新たな力を確認し満足し、俺は眠りについた。
そして翌日。
そういえば、フェリペが昨日言ってた作業ってのはどうなったかなと気になり、ちょっと工房へと向かった。俺は再び塔に行こうと思っていたのだが、フェリペはどうするのだろうということもあって。
そして、先日俺の剣をなおしてくれた工房へといくと――。
「うわ、凄い目の隈。フェリペ、寝てないの?」
アンデッドのような顔をしたフェリペが出てきた。
「寝ていられるか、あんなものを目にして」
フェリペは、巨人の塔から帰るやいなや、先日俺の黒銀の剣を修理したときに使った工房へと籠もったという。主人から使用許可をとっていたらしいが……昨日までずっとやっていて、この様子だと俺たちと別れたあとも、休まずやっているようだ。
「やる気満々ですねフェリペさん」
「当たり前だろう。魔道具の最高峰、秘宝を作ったものの住む塔に行ったんだ。これでやる気を出さないなら魔道具職人とは言えない」
落ちくぼんだ疲れた顔なのに、薄ら笑いを浮かべて声は妙にテンションが高い。
完全にやばい感じに出来上がっている。
「フェリペは、やっぱり巨人の塔に行ったこの前、レアな素材とか魔道具とかで大興奮ってわけか」
「……どうだろうな。正確にはそうじゃないのかもしれない」
「え!? フェリペが魔道具以外のことで動くだと……?」
「俺を魔道具が燃料の道具か何かだと思っていないか、エイシ」
「違かったのか」
「おい」
フェリペが詰め寄ってくるのを、ひらりと後ずさりしかわす。
詰め寄った際に、フェリペはふらつき……っておいおい。
俺はフェリペの肩を支えた。
「本当に大丈夫? 休んだ方が良さそうだよ。別に逃げるもんでもないしさ」
「ああ。悪い。でも、一段落するまでは」
「そこまでして、何をやってるの?」
「人間と巨人の融合だ。この前色々教えてもらったり、見せてもらった。それを人間の工房で人間の手だけでやろうと思ってな。そして人間の持つものをあわせることで、巨人の塔にすらなかったものを作れるか試したい」
「なるほど。それが一番興味のあることか。たしかにやりがいありそうだ」
「ああ。だが正確に言うと……興味があるのは、ものよりも由来というべきか」
神妙な顔でフェリペが言った。
どこかいつもとは違うトーンのように感じる。
「由来?」
「ああ。巨人が秘宝や魔道具のルーツだという。そのやり方を俺は聞き、成果を目にした。そして俺には、これまでやってきたことも内にある」
フェリペは短く息を吐き、続ける。
「これは……魔道具作りは俺がずっとやってきたことだ。仕事でも、住む場所でも、生き方自体も、魔道具を中心にやってきた。その始まりを知ったら――俺はこれまで何をやってきたのか――それをもう一度見つめたくなったんだ」
「フェリペ――」
思ったよりまじめだった。
言われてみれば、ずっと魔道具一筋でやってきて、その元祖みたいなところに行き、触れたのだ。何かしら思うところがあるのもわかる気がする。
「道具を片手に見つめるか。フェリペらしいね」
「ああ。結局、俺が何かを知るなら、作りながらしかないからな。でも確かにそろそろ体は限界だ。万全のものが作れない状態でやるのも道具に失礼だし、いい加減なところで休む」
「はは……その方がいいと思うよ」
フェリペは体をほぐすように腕を引っ張ったり指をまわしたりする。
そして、今度はフェリペが俺に聞いた。
「お前は、塔に行くのか?」
「もちろん。まだ見たいところがあるからね」
「そうか。俺も少し落ち着いたらまた行くだろう。転位クリスタルは登録されてるからな。しばらくはここで創り続けるが……気をつけろよ。何があるかわからない。秘宝も魔道具も、危険なものもある。そして巨人の塔はそいつらの総本山みたいな場所だ」
フェリペは、真剣な顔でそう言った。
俺は頷き、約束する。
「油断はしない。俺も、何かありそうな気がしてるから。それじゃ、また」
「ああ」
そして俺は工房をあとにした。背中で何かを叩く小気味いい音を聞きながら。
「さて、今度は依頼と関係ない冒険だ」
巨人の塔の頂上へ、何があるかを見に行こう。
俺は、再び巨人の塔を訪れた。
アリーとルーも直後に転位クリスタルからあらわれる。
ネマンの問題を解決した俺たちは、再び巨人の塔へと来ていた。
今度は、依頼を抜きにして、自分達の目的のために。
「町の上には何があるかな?」
「さあ。林までは見たけど、その上は……案外、もう一個塔があったりして」
「塔の中に塔……ふふ、ふふふ」
アリーが急に口元をおさえて笑い出した。
え? そこまで面白いこと言った?
困惑する俺の前でアリーは笑いをこらえきれずにいる。
ルーまで若干困惑してるし、いったい何がそんなにツボに入ったんだ。
「ふふ、ふう、塔があったら、面白いですね。とっても」
「う、うん」
笑いすぎてちょっと疲れた感じのアリーに、まだまだ知らないところがあったんだなと新たな一面を発見しました。
そんなこんなで螺旋階段を上っていき、巨人の塔の街フロアへと俺たちは到着した。
「相変わらず静かですね」
「うん。誰もいないからね」
「巨人同士の争いですか……これほどの力を持っていた者同士の争いなら、凄まじいものだったのでしょうね」
塔の中の町は、この前と同じく静けさに覆われている。キュクレーしかやはりここにはいないのか。
町の中を俺たちは進み、上層の町へとのぼっていく。
そして公園のあるフロアをさらに上に進み、住宅フロアを抜けて、この前神眼機をキュクレーとともに作った林までたどり着いた。
「キュクレーいなかったねぇ」
「うん。まあ、どこかの建物の中にいただけかもしれない、っていうか多分そうでしょ。約束してたわけでもないし」
『ぐ、がっ』
なんだ!?
俺たちは、突然の声に首を左右にまわす。
「エイシっ、あそこ!」
ルーが叫ぶ。
俺は目を向ける。
そこには、膝をついたキュクレーの姿があった。
「キュクレーさん!」
俺たちはキュクレーの元へ走った。
走りながら、うめき声と膝をついている理由を知る。
キュクレーは、奇怪な土の塊に攻撃されていたのだ。
「なになに、あれっ!」
「わからない……けどモンスターかなにかだろう」
それは、丸っこい土の塊に、手足のような突起が数本突き出た形。
人型とも動物型ともつかない不思議な形であるが、その突起を伸ばして襲いかかったり、魔力弾のようなものを放ったりして、キュクレーを攻撃している。
「やめろ!」
俺たちは同時に攻撃態勢に入る。
こちらも魔力弾と、岩石弾で応戦。
土の塊のモンスターは避けきれず、攻撃を真ん中に受け砕け散った。
「大丈夫ですか!」
モンスターを倒した俺たちはキュクレーの元へと駆け寄る。
……いや、まだだ。
そのとき、俺の《音波探知》スキルが、異音をとらえた。ぼこぼこと、マグマが湧くような音が周囲からしている。
「皆、まだ敵はいる。気を抜かないで……そこだ!」
一番近くから感じた音に向かって、魔力弾を放つ。
あわてたように飛び出た土モンスターは反転して逃げようとするが、そうは女神がおろさない、とばかりにルーが後を追い、気迫一閃、斧の一振りで土モンスターを粉々に砕け散らせた。
「まだまだいるよ、殲滅しよう!」
俺たちは構え直し、周囲から襲い来る土モンスターを撃退していく。
十体ほど倒したところで、動く気配は全てなくなった。
「これで、全部みたい。気配は消えた」
「ふう。いきなり驚きましたね。……キュクレーさん、おけがは!」
『たいしたことはない』
キュクレーは自力で立ち上がった。
周囲をゆっくりと睥睨すると、俺たちに金色の瞳を向ける。
『助けられたな、小さき者達よ』
「いえ、ご無事ならよかったです。この塔の中は安全かと思っていましたけれど、モンスターもいたんですね」
『普段はいない。これらは特殊なもの――モンスターともモンスター以外とも異なる存在だ』
「どちらとも異なる? それはいったいどういう?」
と、その時、キュクレーがよろめいた。
見ると足から血が出てる。
「って、無理しないでください。ポーションありますから」
持っていた薬草とポーションで手当をする。巨人であっても人間と同じように効力を発揮し、傷はすぐに癒えた。
「どうです?」
『大丈夫だ。よくなった』
キュクレーは言いつつ周囲を歩き、砕けた土モンスター達の破片をつまんで目の前にもっていく。
何をしているのかと俺も別の破片を見てみると、乾燥した土の欠片のほかに、きらきらと儚げに輝く光がある。
「光ってる? 魔元素に似てるかも」
「あ、本当ですね。倒した魔物のあとに、光る砂のようなものが……なんでしょう」
『アダマだ』
「アダマ? それってなんですか?」
『……この塔には、一つの強大な存在がいる』
キュクレーは天井を見上げた。
俺たちも釣られるように人工の空を見る。
『彼の者の名は《アダマの巨神》』