13,ローレルでの日々
宿を出た俺はやがて落ち着くと、しばらく露店で食べ歩きなんかをしつつ、遠回りして久々に冒険者ギルドへ向かった。
「あ、エイシさぁん! どうしたんですか最近全然姿を見せてくれなかったじゃないですかぁ」
俺の姿を認めたウェンディが、カウンターの向こうから両手で手招きをする。
「最近はのんびりしてたんですよ」
「この前の依頼でレアなものを見つけましたもんね。しばらくはお仕事しなくても大丈夫で羨ましいです。私もバケーションしたいなぁ」
それが原因で余裕があったわけじゃないんだけどね。
とはいえうらやむウェンディの視線に対しそんなことは言わないけど。
「依頼、ありますか?」
「ええ、もちろん。あの、でも、申し訳ないんですけどまだEランクまでしかご紹介できないのですぅ」
おずおずと言うウェンディに、俺は首を振る。
「当然ですよ、俺はFランクですし。依頼も普通のをこなしただけです。たまたま大物を一匹ものにできたけど、そんなのまぐれかもしれないし、たいしたことじゃないです。ランクをすぐに上げられるはずありません」
「そう言っていただけると助かります。ありがとうございます」
ウェンディは両手を胸の前で合わせ、目を潤ませて頭を下げる。
「でも、たいしたことではありますよ。エイシさんがやっつけてなければ、誰かがあの森で犠牲になってたかもしれませんから。それじゃ、依頼は……これです!」
積まれる書類の束。
俺はそれを順番に見ていく。
どれをやろうかなあ。と思っていると、一緒に見ていたウェンディが数枚の紙を抜いて俺の前に示す。
「これがおすすめですよ。難度の割に報酬がいいんです。今度エイシさんが来たらおすすめしようと目をつけてたんですよ」
ウェンディおすすめの依頼は、たしかに報酬は多めのものがおおい。
さほど高くないものもあるが、そういうのは依頼を達成するのが容易であるのだろう。
俺は礼を言いつつ、ウェンディおすすめから一つ、それ以外から二つ選んで依頼を受けることにした。
「ポリウ草の採取、穴掘りの手伝い、ピープラビット討伐……最初のはともかく、残りの二つは……ちょっとやめた方がいいですよ」
ウェンディが俺の耳に顔を寄せ、ひそひそ声になる。
「どっちも大変な割に報酬が安くて、長い間やり手が見つかってないんです。そんなのより、もっと割がいいのにした方がいいですって。他の人に遠慮しなくてもいいですよ、この前の功績もあるんですから」
そしてウェンディおすすめの依頼を目の前でひらひらとちらつかせるが、俺は首を振った。
ぶっちゃけてしまえば、【パラサイト・ゴールド】があるから、報酬なんてどうでもいいのだ。このランクなら、はるかにスキルで入ってくる金額の方が多いし、割にあうとかあわないとか大差ない。
だったら個人的に興味が湧いた奴をやる方がいい。
「いえ、いいんですよ。僕はあまり気にしないので、報酬の効率とか。もっと必要な人のために残しておいてください。興味を持った依頼からやっていきますよ」
と素直に言ったら、あれ。
ウェンディがはっとした顔になっているけど、はて。
「……そうなんですね」
え、何が?
「実力のあるエイシさんはどんな依頼でも十分出来るから、率先して他の人のやりたがらない依頼をやろうというのですね。皆のためを思って苦労をいとわないなんて、なかなかできませんよ。皆我先においしい依頼からやっていくのに。それでいて、私のことも考えて、おすすめしたものからも一つやってくれるなんて。ありがとうございます、私、なんて言ったらいいのかわかりませんけど、感動しました」
顔を俺に近づけたまま目をさらに潤ませるウェンディ。
あれ? なんかすごい深読みされてるんですけど。
「いや、そういうわけじゃ……」
「皆まで言わないでください。ええ、わかっています。わかっていますよぅ! そんな風に大げさに言われることじゃないというんですよね、皆に気を遣わせないために。わかります、このことは私だけが真意を胸にとどめておきます。それでは、三つの依頼、頑張ってください! 私も精一杯情報面などでサポートいたしますから!」
拳を握りしめ熱く語るウェンディに、俺は説明を諦め、依頼の詳細を聞くことにした。ウェンディは熱っぽく情報を語ってくれたので、さっそく行動を開始することにして、ギルドをあとにした。