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111,エルダーネクロマンサー・デミリッチ

 宮殿を俺が先導し、俺とエピ、リサハルナの三人は、エルダーネクロマンサー・デミリッチの元へと向かう。

 途中、先ほどの見張りが現れる。


「まかせろ」


 エピが口にするとともに、狐火のような、人魂のような火の玉が宮殿の中に浮かびあがった。

 フラフラと浮かぶ炎は、ふらふらと飛んでいく。

 いくつもあらわれたそれらは、一斉に通路を飛んでいく。


「なんだお前ら! 止まれ! っち、言葉も通じないって事なの!? 待てコラ低級霊!」


 見張りは自分の顔の横を通り過ぎていく火の玉を追っていく。

 幽霊の類いが勝手な行動を取っていると思っているようだ。


 そこを俺たちは静かに急いで近づいて行く。


「ふう、消えたか。まったく、低級な奴は言うことを聞かないから困るわ。さて、持ち場に戻りましょ――ってお前達は……!」


 ゴス。


 振り返った瞬間、エピとリサハルナの同時パンチが見張りのスケルトン上位種の顔面に直撃。

 見事に髑髏がふっとび、見張りを俺たちはやっつけた。


「誰かにこれが見つかる前にさっさと行こう。エイシ、案内御願い」

「うん!」


 そこからはもうとにかく急いだ。

 見つかるとか見つからないとか怪しいとかはいい。

 エルダーネクロマンサー・デミリッチの元へひたすら急ぐ。


 自分で言うのもなんだが、今の俺はかなり素早い。

 エピとリサハルナも言うまでもなく。

 それが幸いし、それ以上の戦闘も一回だけしかなく、目的の場所まで到着した。

 ……まあ一回はあったけど、無事に済んだのでノープロブレムだ。


 ドアの前で、俺たちは足を止め、最後のタイミングをはかる。


「ここだよ」

「うーん、エイシって実際使える奴だね」

「それはどうも。最後にエピ、エルダーネクロマンサー・デミリッチの特徴を確認していい?」


 俺はエピに、最後に今一度確認をする。

 エピがかなわない相手、となれば俺が相手をすることになるだろう。

 相手の手の内がわかり、こちらの手の内がわからなければアドバンテージがとれる。


「名前の通りネクロマンシーを究めてる奴。エピ以上にね。というかエピはメインは吸血鬼の力でネクロマンシーは趣味で覚えた技だけど」


 趣味で覚えるにしては物騒すぎると思います。


「死霊やゾンビを戦いながら生み出して数で圧倒してくる。それだけじゃなく、リッチらしく高位の魔法も唱えられる。炎や氷、魔力の塊を操る等々。半神と言われるほどの凄まじい威力、気をつけること」

「魔法と死霊か、結構やるみたいだね。ありがとう、わかった。それじゃ、タイミングをはかって、行こう」


 そして俺たちは息を潜め、突入のタイミングをはかる。

 3。

 2。

 1。


「ゴ……」

「やだぁ、デミリッチ様ったら~。どこ触ってるんですか~」

「ひひひ、いいじゃないのいいじゃないの、これから頑張るって前に元気チャージして欲しいんだもん」

「あらあら、子供みたいに。もうしかたないでちゅねー」


 ………………。

 …………。

 ……。


「思ったより愉快なボスのようだね」


 扉の向こうから聞こえてきた声に、リサハルナが苦笑いをかみ殺しながら口にした。


「あのー、これがもしかしてデミリッチの声?」

「そのとおり。いいたいことはわかるぞエイシ。あんなふざけた奴がアンデッドのボスだって思いたくないんだろう? エピもそう思う。だが人格と能力は比例しないのだ」


 エピが無表情に言う。

 色々言いたいことあるんだろうなあ。

 とりあえず、凄く速攻で終わらせたくなってきた。


「うん、ぱぱっとやってちゃおう。せー――」

「あー、デミリッチちゃん、手つきがやらしーんだ」

「セクシースケルトンちゃんの尾てい骨がセクシーすぎるのが悪いんだぞ~」


 大きな音と共に、扉を蹴破った。

 そこには両サイドにいるスケルトンを触るローブを着たリッチの姿が。


「骨じゃん!」


 俺の声が黄金の間に響いた。




「そりゃまあ、リッチがかわいいと思うのは、やっぱり骨でしょ」

「そうさ。自分と似た種族に好意を抱くのが自然」


 吸血鬼コンビは冷静に言う。

 いやまあそうだけど。

 尻……というか骨盤や尾てい骨を撫でてるリッチとか、そんな光景見とうなかった。


「キャー!」

「なにこいつら!」


 二人のデミリッチに撫でられていたスケルトンが叫ぶ。

 同時に慌てたように両手に花?状態だったデミリッチが手を引っ込める。


「な、なんだお前達――貴様は、そうか」


 慌てた様子は一瞬のことで、デミリッチは木の杖を手に持つ。


「エピか。目障りな奴だったが、ついに反旗を翻したのか? 仲間を連れてきたようだが、くくっ、暗殺のつもりなら三人で足りるのかな」

「よく口が回るな、デミリッチ。そんなにエピに寝首を狩られることが不安だったか。だがこれからはそんな心配ない。今ここでその首もいでやるからな」

「ほう、小娘が言いおる」

「このエイシがな」


 言いながら、エピは俺を前に押し出した。


 ってちょっと待った。

 あんな煽り口上ぶちまけておいて丸投げですか!?


 抗議の視線を向ける俺。

 エピは天使のような微笑みで応えた。


「ファイト♡エイシ♡」


 こいつ……!


 かわいい♡


「って、そろそろふざけてる場合じゃないな。デミリッチが遊んでたせいでこっちまで緊張感がなくなっちゃったけど」

「遊んでいた?」


 デミリッチの方に向き直り、一歩近づき相手と同じように俺も獲物を手に取る。


「少しばかりセクシーちゃんと戯れていただけのことよ。こんないい女を前にしたらはしゃぐ気持ちもわかるだろう、男なら」


 デミリッチが傍らのスケルトンに流し目を遅らせると、恥ずかしそうに体をくねらせる。

 いや、よくわからないです、男だけど骨じゃないから。

 

「たしかにセクシーな女だな」

「エピにはわかるの!? というか女ってよくわかるね骨なのに」

「骨格が男と女じゃ違うのは常識だぞ」

「いや専門家じゃないし骨とか日常生活で見ないし」


 でもサイズがやや小さいことだけは素人でもまあわかる。

 いやそれがわかってもどこがどうセクシーなのかはわからないけど。骨萌えは俺には上級者向けすぎる。


 エピとリサハルナが頷いてるのはさすがアンデッドということか。


 と感心していると、デミリッチがやれやれと黄金の頭を横に振った。


「こんなかわいこちゃんの魅力がわからないとは、これだから人間は愚かなのだ。やはりモンスターが支配せねばならぬな」

「そんな理由で滅ぼされちゃ溜まらないな。しかもこんな時にセクシーやら何やらふざけてる相手に」

「くくっ、ふざけられるにはそれなりの理由があるのだぞ? これはわかるか?」


 ゆっくりと、デミリッチが杖を掲げる。

 俺もそれにあわせ、黒銀の剣を握る手に力を込める。


「わかるよ。でもそれはそっちの勘違いにするつもりだけどね」

「くくっ、大口を叩く。神に近しい存在と化した偉大なるエルダーネクロマンサー・デミリッチの力を見ても同じ事が言えるか楽しみだ――開け、死の扉よ」


 デミリッチの持つ杖先から黒い魔力が放出される。

 すると周囲に黒い靄が広がり、そこから亡者の群れがあらわれる。


「あれって、結構上位のアンデッドじゃないっけ」

「ネクロマンシーを究めたあいつの厄介なところがあれ。強力な僕を召喚しまくって凄まじい物量で押してくる。でも、今は」


 エピとリサハルナが、向かってきた武装した鋭い爪を持ったグールを殴り飛ばした。


「それより強力な者が複数いる。さあ、エイシ君、雑魚は私たちが引き受ける。君は元を叩くんだ」

「わかった! リサハルナさん! ありが……なんか前もこんなことがあったような。俺が一番きつい敵と戦うことって」

「ふっ……人間は前を向いて生きるべきさ。さあ、ゆけ若人よ!」


 なんか格好いい台詞だが騙されないぞ。

 とはいっても、元々デミリッチを倒すことを期待されてたわけだし、やることに異存はないか!


 召喚されたグールやスケルトン、リッチは無視し、俺はデミリッチだけをターゲットにとらえ向かって行く。

 キャーという叫び声をあげながら、セクシーなスケルトンが逃げ出していく。


 デミリッチがカカと嗤い、杖を振るう。

 瞬時に、風魔法が展開され目に見えない衝撃波が俺を襲う。


「ぐっ!」


 嫌な予感に防御を固めていたおかげで、大ダメージは免れたけど――。

 腕を見ると、赤くはれていた。


 何度も食らうと骨がぽきっといっちゃいそう。骨の魔法で。

 ……マジで冗談言ってる場合じゃないな。


 気合いを入れ直し、遠距離戦を俺も仕掛け、レイ、聖邪印などアンデッドの弱点を突く攻撃を打ち込んでやる。

 高位の存在だろうとアンデッドには変わりない、有効なはずだ。


 だが、魔法は相手の攻撃で打ち消されて届かない。

 やはり魔法特化のモンスターだけあり、オールマイティタイプの俺が魔法対決すると、相手に分があるらしい。


「てことは、物理で殴りにいくか」


 そのためには、準備がいる。

 魔法障壁のスキルで魔法防御力を高め、耐呪障壁で、闇の力の防御を高める。

 さらに感覚ブースト、スピードブースト、みかわしのステップで回避力を高める。


 対魔法に特化した強化を順々にかけていく。

 もちろん、その間にもデミリッチは様々な魔法を撃ってくる。

 衝撃波だけでなく、炎の玉、氷の柱、雷の槍、様々な魔法で攻撃してくる。


 半分神というのはハッタリではなく、実際に強力かつ多様な攻撃は結構なダメージを俺に与えてきた。


 デミリッチが得意げに嗤う。


「耐えているだけでも上出来だが、もう疲れてきたんじゃないかね?」

「いや。まだ回復できる。今日は全然治癒魔法を使ってないしね」


 癒やしの御手で受けたダメージを治癒しながら、俺は立ち上がる。

 だがデミリッチは笑みを変えない。


「カカカ、わざわざ痛みを受ける時間を増やすとはご苦労なことだ。知っているぞ、その癒やしの力、何度も効果があるものではないということを。少し墓に埋まる時間を先に延ばしただけではないかね?」

「いいや、もう回復はしない。必要になる前にあなたを倒しきるつもりだから」


 言うと同時に俺は地面を蹴った。

 同時にデミリッチは魔法を撃ってくる。

 俺は魔力を帯びた剣でパリングすると同時に、体を素早くひねり回避しきる。


 デミリッチは驚いたようにさらに魔法を放つ。

 連射されるとさすがに完全回避は難しい。


「いたっ……いけど、大丈夫だな、やっぱり!」

「耐えただと!?」


 やはり連射では一撃目ほどの威力を出し切ることはできない。

 回避を高めて直撃を避け、魔法防御を高めていればさほど問題にならない。


「食らえ! 【ホーリーパニッシュ】を!」


 聖なる力を持った一撃を、デミリッチにたたき込む。

 黒と白の火花が飛び散り、デミリッチがのけぞった。


「ガガガ――貴様! この我に――王である我によくも――!」

「やっぱり効くんだね! 立ち直る暇は与えない!」


 さらに聖なる攻撃を加えていく――が相手もさるもの、ダメージを受けながらも反撃で魔法を放つ。


「死霊共よ、忌々しき愚者を焼き尽くせ!」


 デミリッチの足下に黒い渦が巻き起こったかと思うと、そこから燃えさかる亡霊が何体も姿をあらわし、俺に向かって突進してくる。

 俺は身をひいてかわす――がそれでは終わらない。


 炎の亡霊は身をひねり、進行方向を変えて俺に向かってくる。


 なるほど、単なる火球じゃなく亡霊だから自分で追跡してくるって事か。これまた厄介な。


 だったら切り払――なっ!


 剣先で切った瞬間、亡霊が爆発した。

 魔法防御を高めていたことと、爆発した位置が剣先であったため、体へのダメージはさほどでもなかったが、剣を取り落としそうになる。


 その瞬間、デミリッチの髑髏に空いた眼窩と目があったように感じた。

 瞳はないが、たしかにデミリッチがにやりと薄ら笑いを浮かべ、何かをつぶやく。


 次の瞬間、爆発でぶれる剣先に一斉に亡霊が向かってきた。


「しまっ――!」


 連続で起きる爆発。

 その衝撃に耐えかね、俺は剣を取り落としてしまう。

 急いで拾おうとするが、最後の死霊が剣を爆風で吹き飛ばし、剣をデミリッチの足下へと吹き飛ばしてしまう。


「武器を失っては、終わりだな?」


 デミリッチは笑いながら、自分の後に剣を蹴る。

 もう拾いに行くことはできない。


 だが、俺はノータイムでデミリッチに突っ込んでいく。

 相手が勝ちを確信した瞬間、そこに一番の勝機があるはずだ。


 まさか武器を失ってもひるまずに接近戦を挑んでくると予想していなかったらしいデミリッチは一瞬、動きが遅れる。

 その一瞬にマジッククラフトで槍を作成、デミリッチはだがすぐに対応して魔法を放って迎撃してくる。


 だが俺は魔道師のレベルを上げたことで覚えた【連続魔】のスキルがある。

 それによってノータイムで槍をもう一本生成。


 聖なる力をまとわせた二本目の槍を投げつけて魔法を相殺した。

 魔力同士がぶつかり白と黒の光がほ視界を埋め尽くす。


 同時に俺は跳び上がり光の奔流から抜け出す。 

 そして、聖なる槍を金色の髑髏の眼窩に力の限り突き刺した。


 デミリッチが絶叫を上げる。

 

「が、ががあが!」


 硬いヘドロを突き刺したような手応え。

 これがデミリッチの、存在しない肉体の感触――。

 ヘドロを触ったような嫌悪感を振り切り、俺は力の限り槍を突き刺す。

 さらに下に振り下ろし、眼窩から頬骨、肩甲骨、肋骨と、闇と混じり半透明になっている骨を断ちきった。


 ――そして。

 ガラガラと崩れる音を床に響かせながら、エルダーネクロマンサー・デミリッチは仰向けに横たわった。


 威厳あるネクロマンサーというよりは、もはやただの風化した死体のように。

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