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108,エイシ、エピ、リサハルナ

「今はリサハルナとして過ごしているのですね。だったら、エピもそう呼びます。結構頭柔らかいんだから」


 墓石が立ち並ぶ洞窟に、エピの声が反響したた。


 俺とエピとリサハルナの三人は、アンホーリーウッド、墓場エリアに来ている。

 転移クリスタルをこの前起動させたが、リサハルナはクリスタルに自分を刻んでいなかったため、普通に徒歩で向かった。


 二人で行った方が速いが、その後はリサハルナがいた方が心強い。

 ちょっと時間がかかるだけで不都合はないので、歩いて行った。


 しかしうれしい誤算で、短いルートをエピが知っていたため、この前よりはかなり速く、以前引き返した墓場エリアに到達した。

 

 さて、ここからが本番だ。

 俺たちは墓場を進んでいく。


 ゾンビやスケルトンがちらりと姿を見せるが、エピが一にらみすると、そのまま去って行った。

 ここに来るまでもそうだった。

 さすがヴァンパイア。


「懐かしい香りだ。時が経ってもここは変わらないな」


 リサハルナが懐かしむように、胸一杯に空気を吸った。

 俺たちにとっては背筋の寒くなる空気だけれど、ヴァンパイアにとっては故郷の空気なんだな。


「住んでたのはあのスノリの廃墟だったって話だけど、その前にはここにいたんですか? リサハルナさんは」

「ああ、そうさ。私はここで発生した」

「発生ってまた面白い言い方を。この墓場の下からドーンと出てきたり」


 笑いながら言うと、リサハルナも微笑を浮かべて首を振る。


「いや、もっと奥さ。なめらかな大理石のような洞窟だ。おどろおどろしいというよりは、美しい場所だった」

「へえ、そんなきれいな奥が。エピもそこからここまで来たの?」


 エピに目を向ける。

 だがエピは、小さく首を振り、口を開く。


「今はもう様変わりしてます、リサハルナ様。あなたがいた頃とは」

「そうなのか? だがそれも当然か、長い時が経ったものな」

「時だけではありません。……激変したのは、最近です」

「最近、何かあったのかい?」

「もしかして、それが外で活動する手段を得ようとしてた理由と関係ある?」


 エピは頷いて、語り始めた。




 地上の魔元素が薄くなり、リサハルナが人に交じって生きるようになったとき、多くのアンデッドは力を失わないため生まれ故郷であり闇の力の濃いこのアンホーリーウッドに戻った。


 そしてアンデッドの楽園であったこのアンホーリーウッドで、アンデッドは長い間自由気ままに暮らしていた。


 だが最近、その事情が変わった。

 一人の強大な力を持ったアンデッドが、ほかのアンデッドを支配するようになったのだ。


 逆らうものは容赦なく消滅させ、また低級な相手ならば直接アンデッドの行動を操る術も持つ強大な術士であるそれは、徐々にアンホーリーウッド中のアンデッドモンスターを従えるようになった。

 その力を傘に傍若無人に振る舞うものもあらわれるようになり、ダンジョンの中はこれまでになく不穏な空気が漂っているという。


 当然それを面白く思わなく、それらから距離を置いている者もいるのだが、しかしアンホーリーウッドの王を名乗る強大なアンデッドはもちろんそれを許しはせず、自分に恭順の意を示さないなら力尽くでという態度を露骨にとっているということだ。


「そんな、現状に逆らってるアンデッドの一人がエピってわけ」


 エピがうんざりした調子で言う。


「なるほど、それでもうつきあいきれないってことで、アンホーリーウッドを出ようとしたわけだ」

「そういうことだね。あいつの下であいつに従うとか絶対いやだし。リサハルナ様だったら何でも従うんですけどー」


 エピはすす、とリサハルナに寄り添いぴったり体をくっつける。

 君は本当好きだねリサハルナのこと。


「今更誰かを従えようとも思わないさ。各々好きにすればいい。ただ、そのアンデッドのことは気になるな。何者なんだい、そいつは」

「そうそう、そいつのことを聞かないと。話を聞いた感じ、そいつさえなんとかすれば丸く収まりそうだしね」


 エピはきっと目つきを鋭くし、刺すような声で言った。


「エルダーネクロマンサー・デミリッチ」


 エルダーネクロマンサー・デミリッチ……!


「名前長いね」

「第一声がそれか!」




「つまり、そのエルダーネクロマンサー・デミリッチがこのアンホーリーウッドで好き放題暴れてて、それから逃れるために外で活動する手段を必要としてたってことなんだな」

「そういうこと」

「そのあとは、リサハルナさんみたいに人間の町で過ごすつもりだったの?」


 エピはしばし考えてから、首をかしげる。


「それは、まだはっきりと決めてたわけじゃない。でもとりあえず、首尾よく自分たちの安全を確保できたら、人間達に教えてやるつもりだった」

「教えてって、何を」

「デミリッチが、人間達を襲撃しようとしてるってことを」


 え?

 ええ!?

 

「人間達を襲撃って、地上に出てくるってこと?」

「そう。かつて自分たちは地上を我が物としていた。その時のように人間を蹴散らし、人間の作ったものを奪い、地上を取り戻すのだ――って、鼻息荒く語ってた」

「それはなかなか、穏やかじゃないな」


 リサハルナにエピが頷く。


「私は人間と戦争なんてしたくないし、あいつに従うのもごめんだから、前々からいけすかなかったけど、それをきっかけにデミリッチに嫌気がさしてた者と一緒に外に出る計画を立てたの。あいつが使えるといっていた、魔道具を利用する方法を思いついてね」


 なるほど、そういう裏事情があったわけか、これまでのエピの行動は。

 それにしてもデミリッチってやつ、想像以上にやばいやつみたいだな。


「自分が去るだけじゃなくて、それを人間に伝えてくれるなんて、優しいねエピ」

「別に優しくなんか。危機を伝えてやって恩を売れば、地上で活動するのに便利だろうと思ったのと、デミリッチをあわよくば倒してくれればありがたいってことだけだ。地上で活動する方法が見つかる前に、デミリッチを裏切って、それで人間に信じられなかったり、後から裏切られたら居場所がなくなるから、結局伝えなかったし。優しいわけじゃない」


 エピはそっぽを向いてしまう。

 照れ隠しか、本心か。

 たぶん両方なんだろうなと思う。


「それに、計画を邪魔されてむかついたしね。誰かさんのせいで」

「あはは……あれはしかたないじゃない?」

「別に恨んでなんかないよ、恨んでなんかね。根に持つほどエピは小さくないし」


 その細めた目つきが思い切り根に持ってるように見えるんですが。


「あはは。でもそこまで考えてたとは、結構計算高いんだね」

「頭いいと言うべき」


 俺の頬を指で突き刺しながらそう指摘すると、エピはにらむような相好をにやりと崩した。


「だから、察してよ。話すからには解決の目処が立ってからのつもりのエピが、エイシに今話したっていう意味を」


 ええと、それはつまり。

 

 左を向く。

 エピが薄笑いを浮かべて俺を見ている。


 右を向く。

 リサハルナが力強く頷いた。


 これ、俺が戦う流れになってませんか。

 なんか結構すごいモンスターのデミリッチと。


「秘宝収奪計画は失敗したけど、でもその代わりに計画を失敗させられるくらいの力を持った奴を見つけられたから許す。エイシとリサハルナ様がいれば、なんとかできるかもしれない。やるよ、みんな」


 エピが号令をかけたときだった。

 うおおおおお……!

 という亡者の叫びとともに、そこらの墓石の下から、見覚えのあるゾンビやスケルトンが這い出てきた。


 こんなところに潜んでいたとは、本当にゾンビみたいじゃないか。


「打倒超うざいデミリッチ! ゴー!」


 エピの号令にゾンビ達が答え、腕を高く掲げる。

 そして、アンホーリーウッド探索の第二部が始まった。


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