107,再びアンホーリーウッドへ
シックスワンダーと呼ばれるような大ダンジョンに行くならば、その前に準備をしておかないとだめだろう。
魔法学校で寄生したり、覚えたスキルもあることだし、ステータスを確認してから向かうことにする。
【名前】エイシ=チョウカイ
【クラス】パラサイト49 マーシナリー21 魔道師30 剣士23 神官33 狩人24 呪術師29 闘士16 鉱員23 シーフ24 精霊使い25 エンチャンター30 ファーマー25 パラディン24 バーサーカー17 木こり14 ダンサー18 錬成術士15
【体力】 355
【攻撃力】 346
【防御力】 319
【魔力】 380
【魔法攻撃力】 361
【魔法防御力】 388
【敏捷】 302
【スキル】 アイスボール スノードロップ デイライト マジッククラフトlv3 魔力節約 カウンター 鼓舞:物理 鼓舞:魔法マスタリ ホーリーパニッシュ 魔力回復量アップ エンハンスオール 精霊魔法lv3 弱体延長 衰弱の呪 命中ブースト 特効:獣 特効:不死 感覚ブースト 癒やしの御手 対呪障壁 連続魔:2連 ハイマジック バーサーク 防御貫通 植物特攻 斧マスタリ ……
魔法学校で寄生を多くしただけあって、魔法使い系のクラスのレベルが上がって、スキルも魔法系スキルが多いな。
特に今回うれしいのはアイスボール、スノードロップ、デイライトの三つのスキル。
なぜかというと、これらは寄生によって覚えたスキルではないからだ。
魔法学校の目的の一つ、寄生以外でのスキル取得、その成果。まだ初歩的なものだけしか身につけることはできなかったが、できたという事実が大切。
次回以降もこの調子でやればできるってことがわかったからね。
それに、初歩的なスキルでも、ステータスとバフ(強化)スキルの重ねがけのおかげで凶悪な威力になるから、オーケーだ。
ほかには神官で覚えたレイや対呪障壁はすでに役だったことだけど、これに加えて他にもパラディンで覚えたホーリーパニッシュ、攻撃に退魔の力を付与するスキルなんかもアンデッドの多いアンホーリーウッドでは今後も役に立つだろう。
マジッククラフトも今はlv3まで身につけた。
ダブルパラサイトやトリプルパラサイトのような、上位互換で上書きされるタイプのスキルらしく、lvが上がるほど、複雑な形、大きく、または小さく、強度や弾性などいろいろなパラメータを調節できるようになっていく。
高レベルになれば道具を持ち歩くことがなくなるかもしれない。
一番応用力のあるスキルかもな。
今は錬成術士、パラディン、魔道師、狩人にパラサイトしている。
そろそろほかのにパラサイトしてもいいかもな、まあ追々考えよう。
「結構役に立つのも増えたし、うまく使って行きますか」
と、そのときだった。
【パラサイト 49→50】
【パラサイト・モンスター 取得】
パラサイトで新たなるスキルをゲットした表示が眼前にあらわれる。
あらわれたが……これは。
スキルの詳細を確かめる――すると。
【パラサイト・モンスター】
モンスターにパラサイトすることができる。
モンスターは人間とは異なる力を持っていて、ほとんどの場合クラスを持っていないが、そのモンスター固有の特殊能力を身につけることができる。
きたー!
ついにこれまで壁だった、パラサイトが人間のみという縛りを超えることができた!
これからはなんと、モンスターの特殊能力まで自分のものにできるというのだ!
「これは可能性がぐんぐん広がっていきそうですぞ! ――はっ、興奮して口調が変に」
落ち着け、俺。
一人で部屋の中で大の大人がはしゃいでるなんて怪しいぞ。
にやり。
と、自分をいさめようとしても、思わずほおが緩む。
これを使って、ダンジョン攻略しながらモンスターにパラサイト。
アンホーリーウッドの楽しみが増えました。
コン、コン。
「エピ、準備できたよ」
「こっちはもうちょい、入って待ってて」
ステータスを確認してうはうはな気分で眠りについた翌朝、アンホーリーウッドへと向かうために、俺は宿のエピの部屋へと向かった。
「失礼しまーす……おぉ!?」
入ったとたん俺は目をむいた。
理由は、エピが着替え中で下着姿だったから――というラッキーなハプニングは特になく、部屋の中が魔改造されていたからだ。
プチトーテムポールみたいな謎の木彫りの像が地面に何本も置いてあり、さらに棺桶型ベンチが設置され、その上に荷物袋が置いてある。
また天井からはお札っぽいものがつり下げられている。
あとなんか干し柿が干してあるんだけど、何これ。
勝手に改造された部屋に面食らっていると、エピが天井に吊られた干し柿を一個もいで、かじった。ナチュラルすぎる動作だ。
エピはフィットネスとかヨガとかをやる人が来てそうな、伸縮性のあるぴたっとした感じの服を着ている。前も着てたし、こういうの好きなのかな。
僕も好きです。体のラインがはっきりしてなかなかセクシーでよい。それがプラスに働く人ってのはそんなにいないんだろうけど。俺が着ると若干貧弱そうに見えてマイナスだろうなあ。
「ん?」
一つ干し柿を平らげて、二つ目に手を伸ばしたとき、ぽかんとエピを眺めていた俺と目が合った。
と、エピはやれやれといった様子で肩をすくめ、二つ目の干し柿をもぐと、俺に向けて放り投げる。
「じろじろ見て、そんなに食べたかったの? しょうがないなあ。いっぱいあるからあげる、食い意地の張ったエイシのために」
「いや、そういうことで視てたわけじゃないんだけど」
「いらないの?」
「いや、食べるけど」
せっかくなので、もぐり、と食べてみた。
!!
これは――柿じゃない。
見た目は干し柿っぽいけど、味はプルーンに似た感じだ。
異世界のプルーンは橙色をしているのか、一つ新しいことを覚えた。
「おいしいでしょ。これアンホーリーウッドの固有種の果物。干すと甘みが増していいんだ」
「へ-、本当においしいよ。なんかおばあちゃんみたいだね」
「おばあちゃん? エピはそんなにしわしわカサカサしてない。ほら」
エピが俺の手を取り、自分のほおに当てる。
もっちもっち。
どや? 柔らかいやろ?
と言いたげなどや顔でエピは俺を見つめている。
「うん……これは……おお……くぅ……たまらぬ……」
「エイシ、触りすぎ」
はっ!
普段ほっぺに触れられる機会なんてないからつい。
我に返るとどや顔からじと目にエピが変わっていた。
今の感触、上書きするともったいないからしばらくほかのものを触らないようにしよう。
うーん、我ながらきもい考えだ。
だけど俺は自分を曲げない。絶対にだ。
「いやあ、どうもこれはいいものを」
「草食系っぽい雰囲気のくせに中途半端にいやらしいなエイシって」
「なんか微妙な罵倒やめて。それはともかく、なんで部屋の中がこんな風に」
「どうせいるなら快適にしたいじゃない? 自分の部屋にあるものいろいろ持ってきたの。おかげで自分の家にいるように落ち着く」
なんか怪しい羽根飾りのついた仮面とかに見つめられて落ち着かないけど、これが吸血鬼のセンスなのか。人間には理解しがたい。
「全部持ち出してくるなんてすごいな」
「ゾビ太郎とかスケ衛門が手伝ってくれたからね。人手は十分」
……。
……。
突っ込まないぞ。
アンデッドたちに突っ込んでたらきりがないと学んだんだ。
「本気でダンジョンの外に移住するつもりってことなのかな」
「ええ。いつでも大丈夫。結局しないかもだけど、運ぶだけなら簡単だしとりあえずね。よっし、準備できた。お待たせ、行きましょうエイシ」
「うん、行こうか」
俺たちはそろって部屋を出ようとする――そのとき。
ドアがひとりでに開いた。
いや、ひとりでにじゃない。
そこにはリサハルナの姿があった。
「リサハルナさん?」
「ヒガン様?」
リサハルナは、いつも通り鷹揚な態度で口を開き。
「おはよう、もう準備はできたかい。それでは、アンホーリーウッドへ向かおうか」
さらっと言った。
けど。
「リサハルナさんも来るんですか?」
「迷惑でなければ、お供させてもらっていいかな」
「どうして、エピたちが行くことをヒガン様がご存じで?」
「正確には数えられないが、おそらく百年以上ぶりに出会った知己が何か重大なことをしようとしている。それを少しばかり手伝いたいと思うのは自然ではないかな」
リサハルナがそう言うと、エピはマッハの速度でリサハルナの元にすっ飛んでいき、その手を取って、感激しながら「ヒガン様……」と声を漏らしている。
感動的な光景……なのかな?
それはともかく、答えになっていないような気がする。
俺は追加でリサハルナに尋ねた。
「ひょっとして、この町にアンデッドがいることも?」
「もちろん、知っているさ」
「へえ、同じアンデッド同士でわかるんでしょうか」
「『かつて』とはいえ、私は支配者だった。アンデッドの気配には人一倍敏感だ。それに、いくらローブをかぶってようとあんな怪しい集団がいればスケルトンだって同族だと気付くさ」
さらっとスケルトンが馬鹿にされてる気がするのですが。
脳がないことは共通認識なのか。
「そういうことだから、エピ達に関することで気になったことを調べることくらいはわけないということだよ」
ヒガンは当たり前のことのように自然に言う。
この人ならだいたい当たり前なんじゃないかって気がしてくるから不思議だ。
「そうなんですか。リサハルナさんが一緒なら心強いです。頑張りましょう」
「ああ。――それに、久しぶりに帰るのも悪くない、私の生まれ故郷に」