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105,アンデッドは町で嗤う

「お肉おいしい」

「それはよかった」


 露店で買った串焼き肉をほおばりながら、エピは満面の笑顔を浮かべている。ついでに俺も肉を買ったが、たしかにうまい。

 ダンジョンで食べる保存食も風流でいいが、やはりジューシーな食べ物はいいね。


 あふれるにくじる! はじけるあぶら! ってやつだ。


「じゃあ次はあの緑色の果物食べるぞエイシ」

「はいはい」


 次にエピが目をつけたのは、これまた串に刺したメロンだった。

 冷気を発する魔道具で冷やされていてこれまた美味しい。


「次は――」


 しばらく食べ歩きは続く。




「ふー。食べた食べた」


 お腹をさすりながらご満悦のエピ。


「血以外も普通に食べるんだ、現役のヴァンパイアも」

「そりゃまあ、血は非常食みたいなものというか、普段から飲むものでもないし。必要ないならそんなに飲みはしないね。エピの住処は血のない生き物ばっかりだしさあ」


 まあリサハルナも普通に生きて生活してるし、必要ってわけではないんだな。


「疲れたときに飲んだらパワーは出るけどね。飲ませてくれるの?」

「いや、遠慮する」

「ふふん、それがいい。強い力を持つヴァンパイアに生き血を吸われたら眷属のアンデッドになっちゃうよ」

「気をつけるよ」


 などと話しつつ、俺はエピに町を案内した。

 ダンスや音楽なども堪能したがエピが特に気に入ってたのは、建物だ。普通の民家や店舗も食い入るように見ていたし、コロシアムや神殿などにいたっては、持っていた紙にスケッチをするほどだ。

 絵心は……うん、まあ思い出にはなりそうかな。


 そんなこんなで平和に一日過ごした俺たちは、日暮れ頃に宿に戻っていった。

 非常に健康的である。


 そして各々の部屋に戻ろうとした時だった。


「やあ、エイシ君。それに、驚いた。エピもまた来ていたのか」


 宿に入ったところで、リサハルナと出会ってしまったのだ。

 

 あー、どうしよ。

 あえて何も言ってなかったんだよなあ。

 また険悪な感じになったら困ると思って。

 それなのに真正面から出会ってしまった。 

 やばいよやばいよ。


「はい、ヒガン様。無事に外で活動できる方法を見つけたんです」

「ほう。一緒にいると言うことは、エイシ君が関わってるのか?」

「そうです。強力な魔道具を貸してもらったので、それが魔元素を供給してくれます」

「そうか、それはよかった。人間の町もなかなか楽しい。満喫していけばいい」

「今日一日でたっぷりわかりました。まだまだ、体験できることはありそうですし、ふふ、楽しみ」

「ふっ。目的も達成できるといいな。何かあれば出来る範囲で力をかそう。久々にあったエピが何かをやろうとしているんだから」

「ヒガン様――やはり気付いてたのですね、エピ感激です。そこまでヒガン様に言っていただけたなら、その時は遠慮せず力をお借りします。そのお礼に、いずれ私がたっぷりと力をお貸ししましょう、何せ今やヒガン様よりエピはパワフルですからね」


 エピは胸の前で手を合わせ、感動したように目を輝かせつつ、胸を反らして得意げにもしている。器用な体勢だ。


 そのエピに手を振り、リサハルナは出て行った。

 エピはリサハルナが出て行ったドアをいつまでも見つめている。


「おーい。おーい、エピー」

「うん? どうかしたか、エイシ」

「いや、別にどうしたってことはないんだけど。仲直りしたの、リサハルナ――ヒガンと」

「どう見てもしてただろう、この前に」


 そうだっけ?

 なんかそれほどでもない気がしたけど。


「吸血鬼と秋の空は変わりやすいんだな」

「そういうこと。エイシもわかってきたじゃない?」


 なんだか適当な返事の気もするが、でもこういう奴なんだろう。気に入ったらなんだかんだで気に入ったままって感じで。


「んじゃあ、お休み」

「ああ、ゆっくりお休み」

「なんで保護者風の言い方なの、エピ」

「だって実質眷属みたいなものだしね。エイシはエピの」

「勝手にしないでください。じゃあまた」


 俺たちはそれぞれの部屋に別れた。




 翌日も朝っぱらから案内をすることになった。

 今日は町の周辺をうろうろすることになった。

 昨日に引き続き、エピは建造物に興味を示している。水車や水車小屋、橋を舐めるように色々な角度から見ていた。

 そんなに面白いもんかねえと思うが、そういうものは自然の洞窟を建物に利用しているアンホーリーウッドにはないらしい。

 久しぶりに見たけど、結構進歩するものねと感心していた。


 そして、郊外の林に来た時だった。

 もちろんアンホーリーウッドではなく、普通の林の日だまりだ。


「んんっ、ふう。日差しはぽかぽか、風がそよそよ。エピ気持ちいいー」


 思い切り伸びをするエピの横顔はとても無防備で無邪気に見えた。基本偉そうなのだけど、たまに垣間見えるこういう表情は結構好きだ。

 でも偉そうにされるのも嫌いじゃなかったりする。


「にしても本当にアンデッドかって思うよ。明るいところの方が好きだなんて」

「そう? エピだけじゃなく、アンデッドって別に明るいところが嫌いなわけじゃないけどね。ねえ?」

「そうっすね、暗いところの方がテンションは上がるっすけど、昼間も穏やかな気分になっていいっすよ」


 ……はい?

 何今の声?

 なんで俺とエピ以外の声が聞こえてくるの。


 声の聞こえた方へゆっくりと振り返る。

 と。


「うわっ、ゾンビがなんでここに!?」


 まさか来るとは思ってなかった、武器も持ってきていない。

 あ、だが俺にはマジッククラフトがある。

 無言で俺は剣を生成。

 と、エピが吹き出した。


「ぷぷっ、何慌ててるのエイシ。ただのゾンビじゃない」

「いやモンスターだよモンスター、身構えないと危険――」

「やだなーたしかに自分はモンスターっすけど、危ない奴じゃないですって」


 俺の言葉にゾンビが答える……ゾンビが答える?


「しゃべってる?」

「ゾンビですから」


 顔色の悪いゾンビは、自分を親指で指さしながら、深々と頷いた。


 ……。


「ええと……頭痛くなってきた」

「大丈夫っすか? この薬草きくっすよ」


 理解を超えた状況に頭を押さえると、ゾンビがぼろきれのような服のポケットから、茶色い乾燥した葉っぱを差し出してきた。

 何このいいアンデッド。


「あ、どうも」


 ゾンビが持ってたもの食べて大丈夫かな、腐ってないかなあと心配しつつも、せっかくの好意を無にしては失礼なので、口に含んでみる。

 すると、ハッカを食べたときのように、口中から風が広がった。

 頭がすっきりとして、さわやかな気分だ。


「いいアンデッドの人もいるんだね……って、そうじゃない! いいか悪いかはともかく、なんでゾンビがこんな町の近くに? モンスターの襲撃か?」

「違うっての。このゾンビはエピの仲間」

「仲間? あっ、もしかして前魔法学校に来た」


 気づいた俺の言葉に、ゾンビが頷く。


「そうっすよ、ようやく思い出してくれましたか、ひどいなあ、あのときは俺のことをずばっと切ったのに」

「切っ……いやいや、切ったゾンビはいるけど、切られたらここにはいないんじゃ」

「ゾンビは死んでるから、もう死なない。消滅させない限りはね」


 え。

 何その反則的な設定。


「粉々になるくらいまで肉体をばらばらにされたら復活できないけど、ちょっと切られたり首を切断されたくらいなら、簡単によみがえらせられる。なんといっても、エピはネクロマンサーだからね」


 エピが腰に手を当て、得意げにいう。

 その隣ではゾンビがうんうんと頷いている。


 ええと、つまり。


「俺がこのゾンビを切って機能停止したけど、そのあとエピがネクロマンサーの技で復活させたってこと?」

「うむ。理解がいいぞ、エイシ。動けなくなっているゾンビやスケルトンは元気な者に運ばせて、あとから復活の儀式を行ったのだ」


 単なるヴァンパイアではなくそんな特殊スキルまで使えるとは、結構すごいやつだったんだなエピ。


「へー、すごんだねエピって」

「うむ。くるしゅうない。好きなだけ褒めるがよい」


 上機嫌に鼻歌でも歌い出しそうな調子のエピ。

 結構単純な性格だよなあと思いつつ見ている俺だが、隣のゾンビもなんだか同じような目でエピを見ている気がする。


「ところで、ゾンビが復活したのはわかったけど、なぜここに? 散歩にでもきたの?」

「まあそうっすねえ。半分はそんな感じっす。あとエピの姉貴の様子を見に来たのと、アンホーリーウッドの様子を伝えに来た感じっすね」

「アンホーリーウッドの……そうだ、エピ、あそこ探検しようと思ってるんだけど、その場所について案内とかしてもらえないかな。現地人がいれば結構助かると思うんだよね」

「まー、別にいいけど。せっかく来たからもう少しここ楽しんでからなら」


 まあそんなに急ぐわけではないし、それでいい。

 

「そうっすね。自分らもせっかくだから平和的に人間の住んでるところを見てみたいっすし」

「結構好奇心旺盛なのねアンデッドって。……ん? 自分ら?」


 その言い方だとまるでほかにもいるような。


「おお、いたいた」

「ったく、一人で先に行くんじゃねーよ」

「はしゃぎすぎだぜおまえ」


 背後から次々と声が聞こえた。

 振り返ると――いました。


 ゾンビにグールにスケルトンになんか体が透けてるゴーストっぽいやつに。百鬼夜行ですかこれは。


「はっはっは、自分としたことがついはしゃいじゃったっすよ。お恥ずかしいっす。さて、それじゃあ町に行きまっすか」


 思ったより数と種類が多くてぽかんとしている俺の前で、ゾンビたちが列をなしてプローカイの町へと行進を始めた。


 大丈夫かなあ。


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