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104,ヴァンパイアアンドザシティ

「勉強になりました。また学校にも遊びに来てくださいね。あ、いや、勉強しに来てくださいね」

「修行以外のつもりで行くのもよかった。普段は景色までは見られないから。じゃあ、またね」


 ダンジョンから出た俺たちはプローカイへと帰り、解散した。

 スウはこれ以上はやっぱり厳しいし、とりあえず明日以降の予定は未定。

 ダンジョン探検欲はひとまず満たせた。

 これから行くかもしれないけど、行かないかもしれない。


 それより今は……。


「どうしたの、人の顔をじろじろ見て。高貴でイモータルなエピの美貌に見とれちゃったかな? んふふー」


 獲物を見定める獣の目で俺を見つめている、ヴァンパイアをどうするかだ。

 とりあえず俺も対抗して同じように肉食系の視線で見つめ返してみる。


「くっ、くく、あはは! エイシ、何その顔。狸のものまね?」

「誰が狸だ! そうじゃなくて、ええと、なんだっけ。ああそうだ、結局町に来たけど、何しに来たというか、どうするのこれから」


 そう、この吸血鬼、エピは住処であるダンジョンを出たがっていて、無事出られたわけだが、そのあとどうするんだろう。

 目的という意味でも、生活的な意味でも。


 つるんとした唇を撫でながらエピは思案する。


「そこがちょっと厄介なとこなんだけど、とりあえずは今日の居場所を探さないと。エピはお墓で眠るわけにも行かないから」


 まあ、お墓の前で泣いてたら無関係のアンデッドが中にいたら嫌だしな。


「宿屋ってのがあるんでしょ。リサーチ済みだから、そこまで案内してよ」

「まあいいけど」


 というわけで、俺の泊まっている宿へと向かっていった。


 もう日は暮れていていて、町の中は薄暗い。

 モンスターが歩いていることなど誰も気付かないだろう。もっとも、明るくても見た目は人間と変わらないから気付かないけれど。


 きょろきょろと周囲を見ながら歩くエピを連れて、宿に到着。


「ふうん、ここで寝泊まりしてるんだ」

「うん。そういえば、あのダンジョンに住んでるって話だけど、寝るときとかどうしてるの。本当に墓場?」

「そんなわけない。ちゃんとエピの家あるし、柔らかいベッドとかクラシックでいい感じの机とかある」


 へえ、ダンジョンの中に。

 まあリサハルナの廃墟も結構豪華な作りだったし、それもそうか。

 ヴァンパイアは普通のモンスターとはまた違う。


「ええと、それはいいとして、部屋どうする? お金ある?」

「あ。ない」

「やっぱり。まあ人間のお金を持ってるはず無いけど」

「でも宝石とかは持ってる。こんなこともあろうかとね」


 と言って、スペースバッグから色とりどりの宝石を出した。

 エピもスペースバッグ持ってるのか。それに、これだけあれば十分足りそうだ。


「それなら十分生活できそうだね。とはいえ今すぐ換金はできないだろうし、俺――」

「了解! 今日はエイシの部屋に一緒に寝るね」

「ちょいちょい! それはだめでしょ」

「そう? でも俺の部屋って言おうとしてたよね?」

「してない。俺が今日はお金貸すから、換金したら返してって言おうとしたんだよ!」


 エピはパチンと手を叩いた。

 いや、普通そう思うでしょ。これだから吸血鬼の感性は困る。


「じゃあそれでいい。女将、一部屋ちょうだい」


 カウンターの奥からあいよーと言いつつ、手を拭きながら宿女将があらわれた。あごをしゃくって、俺に金を払うように促すエピの分を立て替え、俺たちはそれぞれの部屋へと向かった。


 それにしても、同じ部屋って、吸血鬼からしたら人間は別の種族だから気にしないのかな。

 まあ、考えてみればそれが自然か。

 見た目はあれだけど、人間じゃないし。人間以外の動物と同じ部屋だからって意識はしないよな人間も。


 そんな理論で納得できるはずもない、俺の方は。

 

 ――そういえば、エピの目的ってなんだろう。

 わざわざ魔道具がないと活動に困難があるような場所に出てきてまで、彼女は何がしたかったんだろうか。


「その辺も確かめたいな……俺は、どうしようかな」


 他人の目的を考えていると、自分の目的が気になった。 

 今の俺はとりあえず好きに適当にぷらぷらしてるけど。

 でも、あらためて考えてみると、一つ、目指したいものがある。


「やっぱり、世界を切る道具か」


 ルーが神域で使っていたという、世界に穴を開ける秘宝。

 秘宝じゃなくてもかまわない、そういう手段を求めるというのは一つ重要なことだと思う。


 元の世界に今戻りたい――というわけではないけれど、いつでも戻ろうと思えば戻れる手段があるかないかの違いは大きいと思うんだ。

 ここでどんな天変地異があるかもしれいし、何かにっちもさっちもいかない困ったときに戻れたら助かるしな。


「うん、そうしよう」


 好き放題ぷらぷらするためには、安心と安全が大切。

 それらの保証があるから自由を謳歌できるのだと思う。

 この世界ホルムで好きに喜怒哀楽の楽の気分で過ごすために、元の世界ジャザーへ戻れる方法を手に入れる。


 自分の行動指針をたてたことに満足していい気になりながら、俺は目を閉じた。




「ほほー、これが人間の町。なかなか立派じゃない。ちょっと日差しが強いけど、たまには悪くない」

「アンデッドにも町があるみたいな言い方だね」

「もちろん、あるし。こことは結構違うけど、町というか、宮殿というか? あの先の洞窟の中にある空間をそのまま家とか店とか部屋とかにしてるから見た目はだいぶ違うけどね」


 へえ、少し驚いた。

 モンスターもそういう社会を作ってるのか。

 浅いところの低級なモンスターは獣みたいなものだけど、深いところにいるモンスターは力だけじゃなく知能も高いってことか。


「なんか賑やかなところに来たな。あ、あれがコロシアムだな。事前リサーチはばっちり。そのまわりに小さい店がたくさんあると」

「ここが一番の娯楽施設だからね。って」


 話していると、いきなり隣から姿が見えなくなっていた。

 気付くと、露店の一つの前にいつの間にかたっていて、小銭を取り出している。


「店主、その肉の串焼きをもらおう」

「あい、らっしゃい!」


 なんか買ってるし。

 偉そうに言ってる割に顔がうっきうきだし。

 地上満喫してるな。


 今日はこんな感じでエピと一緒に町を歩いている。

 というのも――。


 ***


「エイシ、起きるのだ」

「ん? あと五分――」

「何を言っている。エピが来たのだから、五秒も待たせることは許さない。ほらー、起きろー」


 なんだ朝っぱらからうるさいなあ。

 と布団の中で俺がまどろんでいたのに、急に布団がぐいぐいと引っ張られ、俺の体が白日のもとにさらされた――といっても部屋の中だが。


「もう朝日が昇ってるのに、部屋にこもってるなんてそれでも人間か。ゾンビみたいなことしてるなー」

「誰がゾンビだって……って、エピ。どうしたの。というか布団返せ」


 のったりと手を伸ばす俺をひらりとよけて、掛け布団を遠ざける。


「布団返したら寝るでしょう。エピが用があるって部屋に来たんだから、聞いて欲しいな」


 エピは布団にくるまりながら回収し、声を半オクターブ高くした。

 そして朱色の目で俺をじっと見つめる。


「嫌だ」

「思え!」


 エピが歯をむき出す。

 と、鋭い牙がちらりと見えた。やっぱり吸血鬼なんだなあと思っていると、だんだんと頭がはっきりとしてくる。


「おお、エピじゃないか。どうしたの、俺の部屋になんでいるの」

「反応遅いなエイシ。アンデッドより寝起き悪いのはどうかと思うよ」

「まあそういう人間もいるってことで。それで、なにかよう?」


 俺が尋ねると、あらためてエピは腰に手を当て、胸を反らして、布団を片手に、なぜか偉そうに言った。


「エピは人間の町が見物したいの。案内させてあげてもいいよ」

「謹んで辞退します」

「ちょっ、そこは受けなさいよ」

「案内するくらいわけないが、エピの態度が気にくわない」

「ぐぐ……エイシって結構意地が悪いんだな。まったく、しかたない。あー、あー、ごほん。お願い、エイシ君、案内してくれるとエピ嬉しいな」


 そしてうるうるした目で見つめてくる。

 態度の落差ありすぎだろ。

 

 ……まあ、暇だしいいか。

 断っておくけど、かわいく見つめられたからではない。決して。絶対。

 

***


 ということで、朝から元気な吸血鬼と一緒にプローカイを歩いているのであった。

 すでに換金は済ませていて、宿代も俺に返した。

 そこはかわいくお願いしたりはしない、借りはつくらないんだと。


 さて、町で何をしようかねー。


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