103,墓穴を掘ったら
「エピ、どうしてここに」
二つにわけて巻いてある銀灰色の髪、気の強そうな目に輝く朱色の瞳、自信たっぷりな表情と姿勢。
これは間違いなくエピだ。
エピは、透き通った声で俺の問いに答えた。
「どうしてもこうしても、ここがエピの地元だもの。いるのが普通でしょ。むしろいておかしいのは人間達の方」
あ、そういえば。
アンホーリーウッドから来たって言ってたっけ。
「たしかに。てことは、普通に散歩でもしてたの?」
「知ーらない」
ぷいとそっぽを向くエピ。
ふてくされたように、頬を膨らませている。
「知らないって、何それ」
「なんでエピが人間にそんなこと話さなきゃいけないのかわからない。お前のせいで計画はパーでまたこんなところをうろうろしなきゃいけなくなってるし、それにヒガン様の前で格好悪いところみせちゃうし。お前なんて敵だ敵」
目だけでこっちを見るが、思いっきりつり上げて睨んできている。
いやそんな逆恨みされても。学校占拠する方が悪いし。
と、思ってるとジャクローサとスウが説明を求めるように俺たちを見ている。そういえば、エピの姿はタッチの差で見てないんだっけ。
俺は軽くエピのことを説明すると、二人は驚いた表情になる。
そりゃそうだ。
「この人が、僕らの魔法学校を占拠した人なんですか?」
驚愕の目を向けられると、エピはあっさりと頷く。
「うん。もしかして、お前はあの学校の関係者?」
「はい。生徒です」
「そうか。悪かった、迷惑かけた」
再びスウは驚く。
普通に謝られたら驚くよね、そりゃ。
というか俺も驚いた。
「なんか驚いた顔してるけど、エピとこんな風に普通に話してていいの。学校占拠した敵なんだけど」
「まあ、結局大きな怪我をした人もいないし、自分から暴れた人を抑える以外でモンスターが攻撃したって話もないし。それに結局盗もうとしたものも返したし、もうしないと言ってたし。まあいいんじゃない」
エピはなんとも微妙な表情をしつつ、こっちに向かって歩いてくる。
少しばかり警戒はしているようだが、一応敵意はないようだ。
ジャクローサとスウも、驚いてはいたが、俺の言葉を聞くと、納得したようで、特に責めるということもない。
おおらかで助かる、必要なく争いたくないからね。
「それより人間達はなんでここにいるの。墓荒らしってやつ?」
「いや、その言い方はどうなの……」
しかし言われてみれば否定できない。
たしかに墓荒らしかも。
「まあ、たしかにそうかも。ダンジョンを探検に来たんだよ。観光とお宝手に入れようと思って」
「ふーん。この辺はハイグールとかデュラハンとかもいて腕のない奴がたまに仲間入りしてるくらい危険だけど、人間なら私に勝ったんだから平気なのも当然ね」
「いや、結構きつくなってきたよ」
「え?」
エピが意外そうに目を丸くする。
そしてちょっと不満そうになって俺に詰め寄ってきた。
「どういうことなのそれは。エピをやっつけたのにこの辺の並のアンデッドにやられるとか格好悪いことされたら、私まで格好悪いみたくなるからだめ! 全員余裕でぶっ飛ばしなさーい!」
同じ故郷のアンデッドなのにいいのかそれ。
とツッコミを心の中で入れていると、スウが口を開いた。
「僕が未熟だからなんです。ここのアンデッドは本当に強くて、きついというのも僕を守りながら戦うのがきついということだと思います」
「ふうん。そうなの。きつい?」
「はい」
「じゃあ、帰れば? この先を右に曲がったところに転移クリスタルあるから」
「え!? そんなところから帰れるんですか?」
「うん……え、もしかして歩いて帰るつもりだったの? ……暇人なんだなー人間達って」
「暇だからじゃなくて見つからなかっただけだから」
「あ、そうなの。じゃあ見つかってよかったね。そこから帰れるよ」
指さす方を見てみると、横穴が三つに分かれてるところがあって、そこの右を指さしている。
「ありがとうございます、正直これから来た道を引き返すのは大変だと思ってたんです」
と言うやいなや、確認のためにスウはそちらへ向かっていった。
ジャクローサも護衛するように後を追う。
スウって、態度とは裏腹に結構いけいけだよなあと思いつつ、俺は残ったエピの方へ目を向ける。
「ずいぶん親切に、ありがとう」
「教えて減るもんでもなし。帰りたいなら帰ればよし。でも、感謝してるなら、頭を下げてエピをあがめ奉ることを許してあげる♡」
猫なで声で、エピは満面の笑みをつくった。
実はそんなキャラだったの!?
どうもこのエピと話してるとふわふわした感じがする。
あんなことをやったり、俺に襲いかかってきた割には、なんというか悪意がないというか、悪人ぽい感じがしないんだよな。
天然系?
それもちょっと違うかなあ。
小悪魔系?
それもぴったりははまらない。
なかなか難しい。
「と、そういやそっちはなんでここに? 俺も答えたんだし別に隠さなくてもいいでしょ」
「エピも宝探しだ。どこかの誰かさんが邪魔してくれたから、そのかわりのものを探してるの」
棘のある言葉をチクチク刺してくる。
でもそれはそっちが悪いと思うよ?
「宝って、秘宝が欲しいってこと」
「秘宝が一番いいけど、別にそれじゃなくてもいい。要するに、魔元素がぎゅっとつまったものが必要なんだよね」
「魔元素がぎゅっと。どうしてそんなものを」
「結構首突っ込むタイプだな、人間って」
「気になると夜も眠れなくなるタイプなんだ」
「まあエピとアンデッド達を見逃した借りがあるから答えてあげてもいいけど。つまるところ、外にいるためなの」
外にという意味がいまいち掴めず、容量を得ない顔をしていたらしい、エピはやれやれと首を振って説明を補足した。
「モンスターは強ければ強いほど、魔元素が濃いところじゃないと活動できない。ごく短時間なら平気だけど、少し長くいれば一気に弱体化していく。ヒガン様みたいにね」
その話は前も聞いたな、ダンジョンの奥深くにしか強力なモンスターがいない理由だった。
エピはヒガン=リサハルナの名前を出すと、物憂げにため息をついた。
一応ひいたものの、やっぱり完全に納得したわけではないらしい。
「だからそうならないために、魔元素を供給するものを必要としてるの。秘宝は魔元素がたっぷたぷだから、そこから力を得れば外でも力を維持できる。エピはここの外に出ようと思ってるから、それが必要」
「あー、なるほど。そういうことか。ダンジョンの外にね」
エピは頷く。
それで、今もここを歩いてるのは、そういうものを探すためか。地元といっても全てを知ってるわけじゃないんだろうな、広大だし。
魔元素がたくさん得られるものか……。
ん?
もしかして?
「だったら、これ貸そうか」
といいつつ、俺はアンチディスペルの腕輪をエピの前に差し出した。
エピはじっと見つめ、首をかしげる。
「これは? なんかの魔道具?」
「そう。核には秘宝の一部を使ってる。秘宝ほどではないだろうけど、結構な力があると思う」
エピは手を伸ばし、腕輪をとると、ぎゅっと握りしめる。
みるみるうちに、顔が明るくなっていく。
「おおー! 暖かい! これ、いい! これ、たっぷたぷだよ魔元素。これがあれば力を失わず外にいられそう」
「お、やっぱり。何が目的かはしらないけど、返してくれるなら外にいる間それ使っててもいいよ」
「いいの? 本当に?」
「うん。帰り道教えてくれたしね。どうせ町中じゃそうそう使わないし」
エピは俺の眼前に顔を思いっきり近づけて来た。
目を細め、眉間にしわを寄せ、何か不思議な者を見つめるように。
「人間って、変わってるな」
「たまに言われる」
そして、そのままくしゃっと破顔する。
「でも、嫌いじゃないよそういう変人。ありがと、ちょっぴりだけ借りるよ。外で動けるならその方がいいしね」
うおぅ。
間近でいきなり笑顔になられるとドキッとするじゃないか。
久しぶりにやばいと思ったね、色々とやばい。心を落ち着かせなければ。
「すー……はー……よし。現金だね」
「ふっふふ、まあまあ、いいじゃない。それに、この腕輪のことだけじゃないよ」
「え?」
「人間のくせに強いから、人間は。半分くらいだけ一目おいてあげてるの」
「頭が痛くなりそうな台詞だけど、それはどうも」
エピは上機嫌に笑っている。
そんなに重要なことなのかな、まあ喜んでくれるなら何より。
……といっても、もちろん喜ばせるためだけに渡したわけではない。
このアンホーリーウッドに住んでいるヴァンパイアに協力を得られれば、ここを探索するのに大いに助けになるだろうという計算がある。
いくらかわいい女ヴァンパイアだからって、それだけで渡したりはしない。
「さてと。それじゃあ早速人間の町へ行こうかな」
エピは転移クリスタルがあると言っていた方向に歩いて行く。
行動速いなと思いながら見ていたら、曲がり角で振り返り。
「どうしたの、早く来なよ人間」
と言い残して進んで行った――と思いきや、引き返してきて、もう一度口を開く。
「そうだ、人間。大事なこと聞き忘れてた」
「何?」
「人間、名前は?」
「エイシだよ」
「わかった。じゃあ早く行こ、エイシ」
【寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない】の書籍版、いよいよ明後日11/10が刊行日です。
公式刊行日は明後日ですが、小説は早売りなどを結構しているそうで今日あたりから本屋によっては並んでいるみたいですね。
今日から近所の本屋に誰か本を手に取ってくれないか監視しに行ってきます。……さすがに不審者?
いきなり話題は変わりますが、ウェブ版を今は四日に一回更新してますが、平均したら同じくらいの更新ペースでも日数じゃなくて曜日を固定した方がいいのかなと最近考えてます。そのうち変えるかもしれません。
ではでは。