102、再会
渓谷を歩き、洞窟を抜けながらダンジョンをゆく。
しかしその歩みは森を歩いていたときに比べるとだいぶ遅くなった。行き止まりの横穴があり、通り抜けられる洞穴があり、渓谷が二股に分かれ、複雑な迷路、しかもただの迷路じゃない。渓谷はいいが、洞窟に入ると方向感覚や距離感覚がつかみにくくなり、より一層道筋がわかりにくくなっている。
まあそれはいい。
時間がかかったからといって困ることはない。俺は別に何かに縛られてるわけでもないし。
あ、スウは困るみたいだけど。
魔法学校は休暇を自分の裁量である程度とれるらしく、スウはそれを使っている。まあ休暇と言っても、実践演習をやると学校には伝えているので、半分は勉強という形なのだが。
まあそんなわけで、あんまりにも長引くと困るらしい。
とはいえそこまで長引きはしないだろうけどね。
そんなわけで時間はいいとして、一番の問題は道に迷うこと。
繰り返しになるが、進んで行く道筋がわかりづらく、それは進んできた道もわかりづらいと言うこと。
油断すると迷子になってしまいそうなのだ。
なので、しっかりと進んできた道をマッピングしながら進んでいる。こんなこともあろうかと紙とペンを忘れず持ってきてよかった。
ダンジョン探索ゲームをやった経験が生きるというものよ。
それに手書きの地図はちょっと見づらいところもあるが、なかなか味があってよいね。結構ごちゃごちゃしてきて見づらいけど。
「これは結構貴重な資料ですよね」
書かれた地図を見ながらスウが言う。
「これの写しを作って、ここに来ようという人に売れば結構いい稼ぎになるかも」
「意外とスウ、お金好きだね」
「ふふ、当然です。魔法を学んで将来はがっぽりを狙ってますから」
真理の探究とかではないらしい。
思ったより俗っぽい魔道師である。
まあ、わかりやすくて嫌いじゃないけどね。
「とはいえ、情報を独占してここにあるものを独り占めして稼ぐって方法もある」
「たしかに。ですがそれなら、独り占めしてあらかたとってから地図を売ったらいいんじゃないでしょうか」
「おお、なるほど。スウ頭いいね。おぬしも悪よのう」
「いやいやエイシさんこそ」
ふふふふ、とあくどく笑っている俺たちをジャクローサは無表情に見つめていた。
そんなこんなで渓谷を俺たちはゆっくりと進んでいた。
時間はかかるが、道に迷うよりはずっとましだ。
途中、モンスターとも戦いつつ、この辺りまで来ると、魔元素が濃いのか魔結晶なども見つかるようになった。
土の力をもつ魔結晶のような属性つき魔結晶も見つかり、徐々にゲットしたお宝が増えていく。
そうして進んでいくと、ついに渓谷が終わりを迎えた。
だがそれは開けたところというわけではない。
渓谷の最奥、行き止まりに洞穴があったのだ。
そしてそれは、長々とゆっくりと徐々に地下に進んで行き、どうやらトンネルというよりは洞窟のようになっているらしい。
これは新たなる階層かなと話していると、洞窟の幅がぐわっと広がった。
そして――。
「ここは、墓場か?」
誰ともなくそうつぶやいた。
魔元素のおかげで薄暮のような明るさになっているそこは、薄い霧がかかり、湿った地面が広がる、大きな会議室くらいの容積の空間になっていた。
その壁からは細い横穴がいくつかのびている。
だが一番の特徴は、部屋の中に立ち並ぶ、石柱だ。
人の背丈くらいの石柱が、あるものは崩れ、あるものは倒れながらいくつもある。まるで管理されなくなってから長いときがたった墓場のような様相となっている。
「なかなかいい眺めだね」
「といってる暇もなさそうです」
空間には先客がいた。
銀色の骨のスケルトンが三体、鋭い爪と牙を持ったゾンビが三体、そして首のない戦士。
どれもこれまで見たことのないモンスターだ。
特に首のない兵士は盾と剣を真っ直ぐに構えていて強そう。これたしか、デュラハンってやつだ。
「かなり強敵。気をつけて」
ジャクローサが槍を構える。
俺も剣を抜き、これまではかけてこなかった強化魔法を重ねがけする。
俺たちとモンスター達は同時に動き出した。
ジャクローサがモンスターの攻撃を受け止めつつ、スウが後ろから援護し、俺が遊撃していく。
これまでのモンスターとはひと味違う動きだった。
油断すると手痛い一撃を食らってしまうだろう、それにスケルトンの体も硬く、剣で一度に切れるのは骨一本くらい。
これまでみたいに、防御の上から一撃でバラバラにしてやることはできない。そんじょそこらの鎧や盾よりも素の体が硬いぞ、こいつ。
だてにきんきらの体をしてないな。
鋭い爪のゾンビも、ゾンビのくせに動きが俊敏。
何より厳しいのが、その俊敏さで後衛のスウを狙うところだ。
魔法使いのスウは接近戦には弱いため、俺とジャクローサは抜かれないよう全力で対処しなければいけないので、他のモンスターへの対処がおろそかになり、そこを狙われるとかなり危ない。
それでもなんとか守り切ったが、一瞬ひやりとする場面もあった。
デュラハンがダメージ覚悟で突進して来た時は、スウの眼前まで迫られてしまった。ぎりぎりで追いついて、横っ面にマジッククラフトで作ったハンマーをたたき込んで吹っ飛ばしたが、強いモンスターが数を増やすと、護りながら戦うことの難しさを感じるね。こっちより多い数を止めるってのはなかなか難しい。
「ふうっ。結構手強かったね」
「ええ。はあ、これまでとは、違いますね」
なんとか部屋にいたモンスターを全て片付け、俺たちは一息ついた。
スウは冷や汗を首筋にかいている。
結構やばかったからなあ。
「大丈夫、スウ」
「うん。大丈夫、二人が守ってくれたから」
ジャクローサが気遣うような表情でいうと、スウは頷き、しかし少しばかりがっかりしたような表情を見せた。
「僕も結構魔法を鍛えていたつもりだったんですが、それでもここのモンスターにはそこまで通じませんでしたね。矢でも弾でも必殺にはならないし、盾もすぐに砕けてしまいます」
「まあ、ここのモンスターはかなり強くなってるみたいだからねー」
「それに、魔力もかなり消耗してしまいました。まだまだ未熟ですね。もっと勉強して訓練しないと」
自戒するようにスウは言う。
たしかに、やっぱりちょっと危険かなあ。
「どうする? 引き返す? 結構いいところまで来たし、怪我したら元も子もないから」
「その方が、いいかもしれませんね。でも、もう少しだけ見てみてもいいですか。お二人に迷惑をかけるかもしれませんけど、せっかく来たのだから、少しだけここを観察したいです」
もちろんいいことは、言うまでもない。
俺たちはいつでも戦闘態勢に入れるように注意しながら、墓場洞窟を進んで行く。
しばらく墓場を進むと、ここには宝がいくつも見つかった。
魔結晶のより純度が高いものはもとより、竜骨、黒鋼、陸鯨骨、呪いの髑髏、固体狐火などなど。
ジャクローサはあまり知らないようだったが、スウは大興奮でそれを集めていた。魔道具や魔法の触媒として貴重らしい。
フェリペが来たら大喜びしそうだなと思いつつ、俺もそれらを集める。
また剣や盾もいくつか手に入った。
デュラハンやスケルトンが使っていたものが多いが、墓石に刺さるようにあった剣もあった。ただ、今使ってる黒銀の剣の方が強そうだから、自分で使うよりは下取りしてもらう方がよさそうだけど。
そして――。
「そろそろ、戻った方がいいですね」
スウが俺とジャクローサに向かって言った。
「モンスターにも何度か襲われましたけど、僕があまり戦力になっていませんし、むしろ守るために負担をかけているとわかりました。あまり迷惑かけ続けるわけにもいきませんし、戻りましょう」
「いいの。大丈夫だけど」
「いいえ、ジャクローサ。結構大丈夫じゃなさそうでしたよ。ジャクローサも少しばかりですが危ない場面がありましたし。無理をしているからでしょうが。それに、僕自身も命が惜しいです」
たしかに、結構危険な場面が何度かあった。
スウが怪我をしそうな、というか少しは怪我をした。回復スキルで治療はしたけど、潮時かもな。
「それじゃあ、いったんダンジョン探索は終わりにしようか。地図は作ったから、いつでも来ようと思えば来られるしね」
なんだかんだ、ジャクローサも含め全員そろそろかなと思っていたこともあって、帰ることで話はすぐにまとまった。
そして、手に入れたお宝をどうしようかなどと楽しく話ながら凱旋しはじめて程なくだった。
「まって、物音が。またモンスターかもしれない」
広めの空間をつなぐ通路のような洞穴を引き返していると、進んでいる方向から足音が聞こえてきた。
俺たちは足を止め、身構える。
通路ではこれまでモンスターには出会わなかったけど、やっぱり来るのか。
曲がり角で待ち構えていると――。
「やっぱりね。その声、人間だと思った」
「あなたは――エピ!?」
素っ頓狂な俺の声が墓場に響く
魔法学校占拠の首謀者、エピが腕を組んで、俺たちの前に立ちはだかったのだ。
【寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない】の書籍版、いよいよ今月発売となりました。あと少しとなるとさすがに緊張してきますね。
特典情報など公開されましたので、活動報告に書きました。
これまでのお知らせもありますので、詳しい情報が知りたいという方は活動報告をご覧ください。
自分がなろうの小説読むとき、活動報告は何もなければあまり目を通さないということに気付いたので、同じような方もいるかなと思いこちらで簡単な報告をさせていただきました。
書籍版にも興味がありましたら、活動報告の方チェックしてみてください。あ、あとカドカワBOOKSのホームページにももちろん情報あります。
ではでは。