101,三つの発見
瘴気を跳ね返した俺たちは、白死の森を歩いて行く。
途中、休憩してもってきた干し肉をあぶり、パンに挟んで食べたが、味はうまいがなんだか落ち着かなかった。
視線を感じるんだよね、木の陰から不気味な。
とはいえ何事もなくお腹を満たして探索再開。
結構歩いたなあと思うと、一本の木の根元を指さした。
「どうかしました? ジャクローサ」
「何かある」
指さしたところを見てみると、紫と黄色のまだらのキノコがたくさん生えていた。
「あれは食べられないんじゃないかなあ。いかにも私を食べたら地獄に落ちるぜ! っていう色してる」
ジャクローサは無言で俺の頭を持って、視線を左下へと動かす。
なになに、木の根元に小動物が掘ったような穴があるな。
そして穴の中に。
「あ、腕輪です」
うっすらと褐色がかった色の腕輪が、穴の中にあった。
スウが穴から出して眺め、俺とジャクローサに見せるように、広げた手のひらの上にのせる。
「これは、リザーブリングと呼ばれてる種類の腕輪ですね」
「リザーブリング? わかるのか?」
「はい。魔法学校では魔道具についても学びますから。この独特の紋様が特徴なんですが、身につけているとスキルを使った際の魔力消費が軽減されるんです」
「へえ、魔法使いにとっては便利だね」
「ええ、使う人も多いです」
腕輪にはなるほど、多角形の中に多角形が入ったような模様が描かれている。光り物が好きな動物が、巣穴にでも引っ張り込んだのかな。
などと考えていると、スウがじっとリザーブリングを見つめていることに気付いた。ジャクローサも気付いたらしく。
「どうかした、スウ」
「あ、ジャクローサ、すいません。ちょっと見入ってしまいました。本当にダンジョンの中でこういった魔道具が手に入るのですね。知識としては知っていましたが、自分で見ると驚きです」
スウは角度を色々とかえて腕輪を見ている。
研究者のフィールドワークみたいな感覚なのかもな、スウにとっては。
「それって、ダンジョン内で自然にできたのかな?」
「そうかもしれませんし、誰かの落とし物かもしれません。何者かが意図的においたのかも。それはわかりませんが、いやあいいもの見られました」
ダンジョン内では、誰がおいたわけでもない道具が見つかることがある。
その理由は定かではないけれど、勝手に出来るっていうのが俺としてはお気に入りだ。なんか一番わけわからないから。
まあ不思議なところだなということで、とりあえず手に入れたものはどうやってわけるかについては町に戻ってからやろうということにしているので、ひとまずスウに腕輪を預けておく。
これまでは道具もなく、使えそうな素材もなかったが、入り口から近かったからだろう。
俺たち以外にも来る人がいるなら、簡単に来られる範囲ならとりつくされてしまうだろうから。
つまり、ここからが珍しいものの本番ってことだな。
期待しながら進んで行く俺達の前に、大きなクリスタルが姿を現した。
これは見覚えがある。パイエンネの迷宮にもあった、転移クリスタルだ。
「ちょうどいいところに。ここにもあるんだ」
「ここにも? 他にも見たことがあるんですか?」
「うん。ローレルにあるパイエンネの迷宮ってとこで見た。入り口と繋がってて転移できるんだよね。便利便利」
「パイエンネの迷宮にいったことがあるんですか。あれも有名なダンジョンですよね」
スウが感心したように言う。
詳しく聞くと、どうやらあそこもシックスワンダーと呼ばれているダンジョンらしい。なかなか世間は狭いものだ。
あそこも深層は手強いという話だから、それも納得か。
一番奥には何があるんだろうか、ちょっと気になってきたぞ。
ダンジョン攻略への意思を強くしつつ、その日はひとまずそこで一段落させ、転移クリスタルで入り口に戻った。
町に戻って休み、翌日、再び探索開始。
入り口の転移クリスタルは、昨日の入り口とは別の場所にあったため、違うところからアンホーリーウッドに突入。
そして昨日の最終地点にあっさりついて、前進していく……と、白い木々が急に途切れた。
「ここは――」
「渓谷、でしょうか」
いつの間にか、崖が俺たちの左右に迫っていた。
白い森の終着点は、高い崖の入り口へと繋がっていたのだ。
切り立った崖からは、水平に先ほどの白い木が生えている。
崖ははるかに高く、反り返るようになっていて、とても登れそうにない。
渓谷の差し渡しは十メートルくらいだろうか? 先に進むにつれ細くなっていて、崖には横穴が幾つも空いている。
地面はほんのりしめった砂利のようになっていて、歩くはさっきよりは楽そうだ。
「森の奥はこんな風になっているとはね」
「白から灰色になった」
「はい。気を引き締めないといけませんね」
俺たちは周囲の様子をひとしきり眺めると、気合いを再度入れなおす。
渓谷はまっすぐいけばすぐに奥に進めそうだが、しかしそれでは探索とは呼べない。
それでは意味が無いので、渓谷の崖にあいている横穴に入りながら進んで行くことにした。
最初の穴は入ってすぐに行き止まりで何もなかった。
まあ、そんなこともあるさ。
気を取り直してしばらく進んだあとの横穴に入る。
すると。
「今度は結構長いね」
「はい。本格的な洞窟って感じですね……何か聞こえます」
スウが手を横に開いていったん止まって注意を促す。
直後、硬い音が洞窟の壁に反響して俺の耳にも入ってきた。
何かがやってくる――そう身構えた直後だった。
動く骨が俺たちの前に姿を現したのは。
「スケルトンってやつだね」
「うん。その上武器持ち。注意して」
剣を持ったスケルトン、杖を持ったスケルトン、棒を持ったスケルトン、弓を持ったスケルトンなど様々な多くのスケルトンが洞窟の奥からやって来た。
スケルトン達は、俺たちを見るやいなや襲いかかってくる。
「有無を言わさずってことか。【レイ】!」
神官のスキルを発動する。
聖なる力を込めたレーザーを放つスキルだ。
白い光に貫かれた弓持ちスケルトンは、まるで巨大なハンマーに打ち据えられたようにばらばらになった。
「おお、すごい。細いレーザーがこんな効果あるなんて」
さすが聖なる力、アンデッドには効果甚大。
そうなると次に狙うのは――。
「杖持ち、覚悟!」
杖を持ったスケルトンにレイで攻撃。
相手も俺を脅威に思ったのか、俺に向かって魔法の矢を放ってきたが、慌てて放った魔法は威力も精度もたいしたことはなく、俺はなんなくかわした――と同時に、杖持ちスケルトンはばらばらになっていた。
「それじゃあ、スウ援護お願い!」
「うん、お願い」
遠距離攻撃をしてくる厄介なのを倒したら、俺とジャクローサは残る複数の近距離タイプのスケルトンに突っ込んでいく。
前衛が敵を止めつつ、スウの魔法で援護。
セオリーを守った戦い方で、俺たちはスケルトンを完膚なきまでに打ち倒した。
「やりましたね!」
スウの興奮気味の声が洞窟の中に響く。
俺も勝利の余韻にひたりながら、洞窟の奥を調べていく。
すると、先の方が明るくなってきた。
何かと思い足を早めていくと、洞窟は不意に終わり、俺たちの前には、再び渓谷が姿をあらわしたのだ。
「通り抜けられる洞窟もあるんだね」
「うん。そして――」
俺は周囲を見て、確認する。
見た目はほとんど変わらないが、さっきまで振り返れば見えていた森はもう見えない。
「だいぶ別の場所に来ちゃったみたいだね。もしかしたら、さっきの谷と、この谷は、外ではつながってないのかもしれない」
「ということは、もしかして、僕らは洞窟の中を?」
「うん、外を通ったり洞窟を通ったりしながら、先に進むルートを探さなきゃいけないみたいだね」
自分で言いながら、俺は自分が困ったな~という顔になるのがわかった。
絶対無茶苦茶ややこしい道のりになる。
そして、帰り道が大変になることも容易に予想できる。
「ここからが本番」
ジャクローサがつぶやいた言葉に、俺とスウは深々と頷いた。