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97,オープンキャンパス

「その状態じゃ、もうまともに戦う事なんてできないはず。勝負あったね」

「くっ……そぉ。なんなんだ、お前。なんで人間が私より強いんだよぉ」

「人間にも吸血鬼にも色々いるってことで」


 余裕っぽく発言しつつ、内心結構ドキドキしてます。

 初めてチャームってものをかけられたけど、あれは結構焦る。

 戦闘中にいきなり体が動かなくなるってよく考えなくても危ない。すぐに脱しないと敗北確定だからなあ。実は結構ぎりぎりだった。


 なんにしても、勝ててよかった。

 まったく、リサハルナさんのせいで大変な目にあったよ。


 怨みを込めてリサハルナの方に目を向けると、鷹揚に手を叩いている。暢気だな、おい。


「リサハルナさん、もう巻き込まないでくださいよ」

「はは、悪い悪い。だが事実危ないところだったから、助かったよ」

「本当に悪いと思ってます? エピ、まあそういうわけだから、リサハルナさんに――ああ、人間としての名前がリサハルナって俺たちは呼んでるんだけど、手は出さないで欲しいな。迷惑かけられたけど、知り合いだし」

「くっ……なんで、なんで人間がそんなにヒガン様に信頼されてるんだ」

「いやー、なんでだろう。成り行きで?」


 正直俺もよくわからないので適当に答えるしかないのだが、エピは俺をじっと睨み付ける。

 と、ふっとエピが顔から力をぬいた。


「はあ。理由はどうあれ、私の負けは負けか。人間に勝てないんじゃ、ヒガン様をどうこうするなんて100年早いね。それだけの力があるなら、一目置かれるのもわかる。……でも、ずるい! なんで人間が!」

「今は人間に交じってるんだから、リサハルナさんが人間を信頼するのは当然じゃないかな。認めない者と一緒には何百年もいられないだろうし」

「あなたは、正体知ってるんだよね。それでも認めてるの? あなたの方も」

「もちろん。吸血鬼だろうと人間だろうと、リサハルナさんが変わるわけじゃないし。あの人に厄介ごとを涼しげに押しつけるところとか」


 じろっと睨んでやると、にこにこと笑顔で返された。

 まさに何も変わらないな。


「……そっか。人間は、人間でも吸血鬼でも変わらないのか。今のヒガン様と一緒にいて、今のヒガン様を認めてるのか。そうだよね、普通はそう。自分を認める人を自分だって認める……ヒガン様」


 エピが、リサハルナに真剣な眼を向ける。


「あなたは、地上に来たからこの人間のような者と出会えたんですね」

「ああ。エピの言いたいことはわかる。私が力を捨てたことに納得できないことも。同じ吸血鬼として、理解しがたいことも。別に納得しろとは言わないさ。人それぞれだ。だが、私はそれで得たものも確かにあるということだけは知っていてくれ。それだけだ」

「――はい」


 エピは頭を垂れた。


 完全かはわからないが、ひとまずは落ち着いてくれたようだ。

 ――だったら、こっちの話だな。


 俺は剣を消して、一歩エピに歩み寄る。

 

「俺の方からも、いいかな。エピ」


 ある意味ここで戦ったのはちょうどよかったかもしれない。

 魔法学校の方を解決するチャンスでもある。


「地下で戦いたくないって言ってたよね。エピは。俺も同じ考えだよ、無駄に戦わずに済むならそっちの方がいいと思ってる。痛々しい姿も見たくないし、盗んだ秘宝を返して、学校を解放して、それで二度とこんなことしないならこれ以上は手を出さない」

「そんな条件、飲めるわけ無いじゃない。この魔道具が欲しくてこんなとこまでやってきたのに」

「断るなら、力尽くで抵抗できなくなるまでやるだけだよ。結構ここに来てから何度も戦ってきたから、そういうことをするのにもう抵抗はなくなってきたし、そこまでお人好しじゃない」


 一歩さらに近づく。

 エピがびくりと身をすくませる。


 身を緊張させたまま俺の目をじっと見つめていたが、無言で秘宝が修められた箱を地面に置いた。


「これを渡したら、本当に何もしない?」

「それはもちろん」

「私だけじゃなく、学校にいるアンデッドにも」

「そうする理由がないからね。今後悪いことしないなら」


 少しの間、じっと俺の目を見ていたエピは、箱に添えていた手を離し、一歩後ろに下がった。

 俺はそれを了承の返事と受け取り、箱を手に取る。


「はあ。どうしてこんなタイミング悪いかな。こんな時にヒガン様に、人間みたいな奴までいるなんて。でも約束は約束だから、帰るよ」

「そういえば、帰るってどこに?」

「アンホーリーウッド。来てももてなさないからね」


 べ、と舌を出すとエピは目を瞑り、何かを口の中でつぶやいた。

 やがて口の動きを止めると、目を開き、俺とリサハルナを見る。


「全員引き上げさせるよう伝えたから。じゃあね。少しだけ、考えてみる。計画は失敗したけど、ちょっといいこともあったかな」


 エピは脇腹を押さえつつ、魔法学校の裏へと消えていった。

 通りを避けて、アンホーリーウッドというところに帰っていくのだろう。

 最後にちょっと思わぬことがあったけど、とりあえず、解決したと思っていいのかな?

 うん、いいんだよな。


「エイシ君、アンデッドが逃げ出していったんだけど、どうしたの」


 と、校舎の中からジャクローサが出てきた。

 続いて、ミナンやスウも出てくる。


 一件落着、だけど俺のやることはまだ終わってくれないらしい。



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