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風邪は夏にひけ!

作者: ガルド

 ばかは風邪ひかないのよ、と言ったのは彼女だった。

 じゃあおれは平気かな、と言ったのは、……はて、誰だったか。

 僕はベッドから見上げるクリーム色の天井へ現れた体温計を見て、思わずため息がもれた。

 カレンダーは8月の27。

 体温計は38.3度。

 遊びもラストスパートに差し掛かったこの時期に、あいつの胸より立派な夏風邪だった。

 ごろりとみじろぎすると、開いた扉から居間が見える。

 ちゃぶ台とまで言わないが、それでも十分小さなテーブルが見える。

 その上に、なんだろ、……ペン立てかな。そいつが居心地悪げに、ポツン、って感じで立っている。その下にあるのはお金。たぶん1000円だ。

「あ゛〜、やば」

 ぽーとしてるのが自分でも分かる。

 そういやオカン、居ないんだっけ。

 いけない。なんか、また眠く、なって……。

 確か今日……、僕には約束が……。

 ………………。

 がちゃん、て音がした。

 お母さん、帰ってきたのかな。

 声を出すのもめんどうで、体も頭もまだ半分以上が眠ったままだ。体中がまるで火が付いたみたいに熱くて、意識全体に(もや)がかかっている。

 それも、次の光景を見た時全部納得した。

「あ〜、もう。私との約束すっぽかしてなにやってんのかと思ったら、ホントなにやってるのよ」

 なんだ、夢か。由香が僕の部屋に居るなんて、本当夢だとしても小学生ぶりじゃないか。

「なにぼーっとしてんのよ。あ、私がここに居るのが不思議なのね?」

 ふふーん、と由香は得意げに自慢の胸を反らした。

「秘密よ秘密。おしえてあげなーい」

 言いながら由香が近寄って来る。

「……う゛、なによそんな顔して。教えて欲しいの?」

 こくん、と頷く。

「う゛〜、いつになく素直ね。隠してるこっちがばかみたいじゃない。……いーわよ、教えたげる。おばさんに商店街であったのよ。それだけ。深い意味なんてないんだから」

 そうか。商店街だ。僕は約束をすっぽかすのか。いや、もうすっぽかしたのか。由香は、来ない僕をずっと待っていたのだろうか。

「なによ、気にしてんの? ばっか、しょうがないじゃない。風邪ひいちゃったんなら。もう」

 普段もそれくらい素直なら可愛げがあるのに、とほんのりと赤らめた頬をかきながら照れ隠しする彼女。

 ばか、可愛いのはそっちだ。普段からそれくらい愛嬌があれば……あれば、僕だって……。

 でも夢ってのは本当にいいもんだ。

 近寄って来た由香は僕の額に手をおくと

「あちっ」と手を大袈裟に手を引っ込めた。

「汗もすごいわね。うん、ちょっと待ってて」

 居間の方へ引っ込んで行く由香。

 あーあ、もっと顔をじっくり見てたかったのに残念。

 それから由香はいろいろと僕の面倒をみてくれた。

 タオルで汗をふき、氷枕を持って来てくれて、体温計で熱をはかって、果てはおかゆまで作って食べさせてくれた。

 由香は終始ニコニコとご機嫌で、ちょっと後が怖いくらいだった。でもこれは夢だから後を怖がることもない。

 ああ、なんて天国なんだ。あのいっつもふくれっ面しか僕に見せてくれず、たまに笑顔を見れた日には心の中でガッツポーズに雄叫びまでしてしまうほどレアな由香の笑顔が、ずっと見ていられるなんて。

 ああ、でもこれは夢。

僕の夢なんだよなあ。

それはちょっと残念。

これが現実だったら、僕は由香に告白したっていい。

ずっと好きでした、って。

もういつからとか分からないくらい前から好きでした、って。

いつも意地悪なこと言ってごめん、って謝ったっていい。

ほら、男の子は好きな子のことをいじめたくなるってやつだよ、なんてこっ恥ずかしいことだって言ったっていい。いや、言ってやろう。それであいつの恥ずかしがる姿を見るんだ。クールキャラぶってるけど、あいつは本当にこの手の話に弱いんだ。きっと顔を真っ赤にして恥ずかしがるぞ。うん、なんかそれ、いいな。サイコーだ。サイコーだよ、そんな未来。

 でも現実はそううまくなんていかない。

 夢の中だって、ほら……

「そろそろ、帰らなきゃ」

 由香が心の底から残念そうに言った。

 その声に、その事実に、ドキリと胸が高鳴った。

「ちょっと、どうしたのよ。ホント今日はらしくないわね」

 わがままを言うわが子をあやすような、そんな甘い声で彼女は言った。らしくないのはお前もいっしょだぞ。うん。

「じゃあ、目を閉じて」

 言われたとおりに目を閉じる。やさしい闇が体を包んだ。

 彼女はやさしい声で、なつかしい子守歌を歌った。小学生のころ、歌を知らなかった僕たちがいつかいっしょに歌っていた曲だった。

 とん、とん、とゆっくりとした子守歌のリズムで、由香が僕の胸をたたいている。だんだんと、ねむく、なってきた。

 ねむ、く……

「たまなら良いけど、やっぱり物足りないわ。はやく元気になってお互い皮肉り合おう?」

 ちゅ、と。

 甘い何かが一瞬だけ唇にふれた気がした。 ………………。

 …………。

 ……。

「……とまあこんな夢をみたんだが。これって欲望が夢になったってヤツ? なんか末期症状だよなあ。なあ、おれってあいつに告白するべきかなあ?」

「なあ親友。知ってるか? ばかは風邪ひかないってよくいうけど、夏風邪は誰がひくのかさ」

「??」


 名残惜しいと(せみ)が鳴く、9月1日のとある日常。

 どっかの彼女が数分前、彼氏の親友に愚痴をこぼしていたことに彼氏が気付くはずも無く。


SSっていいなー、とかぼーっと考えてたら空から物語が降臨しました。突発シリーズ第一弾。ついでに初SSです。なにがしたかったのかは不明。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひぇ〜遅くなって申し訳ありません! 早速評価に移ります! まず文章ですが、ややテンポが悪いように感じました。 それは全体に渡るもので、描写が余計だったりする箇所が前半に多々あるように感じまし…
[一言] 実は言われる前から見つけて読んでいた蜻蛉です。 初のSS……SSって何だ?(シネ ショートストーリーの略だと思って書きます。 物語は確かに何がしたいのか不明。とりあえず作者の妄想と捉えて、ア…
[一言] 同じくウィザブレファンの青葉です。掲示板から飛んできて、読ませて頂きました(笑) 作品全体の読後感は爽やかながらも、夏特有の熱っぽさが感じられてとてもよかったです。あの後の展開も尾をひく感…
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