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軍人編 第1話

遅れて申し訳ありません。

免許取得に絶賛苦戦中です。

これからも苦戦するでしょう。

今回は色々詰め込んだ感がありますが暖かい目でお読み下さい。

お願いします。

1909年 春


 ドイツに移り住んでから二年目の春を迎えた。

 この二年間は色んな出来事があり充実していたと言えるだろう。フランツの父親に会いにベルリンに行ったり、フランツの兄に会いにハンブルクに行ったり、エーリカの別荘に招かれたり、海へ行ったり、キャンプしたりと数多くのイベントをやった。フランツの父親と兄はオレが会いたいから行ったのだが、それ以外の行事はほとんどがエーリカの発案だった。……アクシデントが毎回起きて、てんやわんやしたことは今では良い思い出だなぁ…… 

 二年で変わったことと言えばまずソーフィヤがロシアに帰ったこと。まあこれは仕方が無い。もともと旅行でドイツに訪れていたのだから帰るのが普通だ。ベネディクトは落ち込んではいたが長期の休みの時は会いに来るのであまり寂しくは無いようだ。手紙もロシア語で書いては送っているようだし。

 次に友人が大量に増えた事だ。これはマイヤーの取り巻きが全員友人になり、さらにそのツテで次から次へと集まってきた。そして総じてやんちゃであるが悪いわけではない。そのための纏めるのが大変だが、街の人からは以前よりも断然大人しくなった、と言われているので良かったと思う。


 三つ目は…………








「やっぱり行っちゃうの?」


 落ち込んだ口調と今にも泣きそうな表情になっているエーリカにアドルフは困っていた。


「いや行かないと俺が捕まるからね?逮捕されちゃうからね?それに俺だけじゃなくて、ベネディクトにヤーコブ、フォルカー。それにフランツたちだって行くんだから」

「でも……会えなくなっちゃう……」

「休暇かとかで会えるよ。それに入営地はミュンヘンの郊外にあるんだから、大丈夫だよ」


 そうアドルフ言うが、尊くしたような顔では無いエーリカ。


「毎日会えない日が三年も続くのよ!?そんなのおかしいわよ!」

「そうは言っても、兵役は義務だから仕方がないよ」


 三つ目は兵役が始まることである。

 今年の四月に二十歳になったアドルフ。今年中に二十歳になるベネディクトにヤーコブとフォルカー。アドルフと同じく四月に二十歳なったフランツ。それに今年のうちに二十歳となるハンスにクルト、エドガー、クランツ。

 そしてマイヤーとその他多数が一気に兵役に就くことになっている。

 エーリカはそれが不満なのだ。


「普通の兵役じゃなくて一年志願兵にすれば良かったじゃない!」

「お金が無いから出来ない」

「お金は、私が出すわよ!」

「自費じゃないからダメだ」

「何でよ!?」


 そう二人の言い合いを向かいで聞いているヤーコブ、フォルカーはうんざりしていた。

 ただでさえ狭い馬車なのに、何度も同じ会話を延々と聞かされていては、息苦しくなり気分が下がる。


「二人とも……もう少し静かにしてくれないか?」

「「えっ?」」


 全く同時に同じ反応を示した二人に思わずため息が出た。




 アドルフ達が乗る馬車の後ろを走る馬車の中には、ベネディクト、フランツ、クルト、ハンスが乗っているが、緊張した様子もなく和気あいあいと会話をしていた。


「やっと夢にまでみた兵士になれるな!」

「俺たちの力を他の奴らに見せつけてやるぜ!」

「いや、見せつけても何にも成らないと思うぞ?」

「僕は心配だな……。訓練について行けるかな?」


 ベネディクトはもともと兵士に成る気でいたのでやる気十分。クルトは喧嘩にでも行く気なのかやる気満々。そのクルトの言葉に呆れながら口にするハンス。そして口では不安そうに言葉を発しているが表情は笑顔であるフランツ。

 四人は一体どんなことをするのだろうか?と大きな期待を持ちながら到着を待った。




 そのまた後ろを走っている荷馬車には多くの青年が乗っていた。

 マイヤー、エドガー、クラウス達がその中にいた。そして乗っている全員が面識があるので、緊張などはなく普段通りの雰囲気での会話をしていた。


「しかし入営地がミュンヘンの郊外で助かった。顔見知りが多いし、休暇の時はすぐに帰れるからな」

「けど、ミュンヘン以外から来る連中もいるんだろ?」

「そいつらは運が無かったと思うしか無いな。なんせこっちにはアドルフとフランツがいるんだからな!そうだろ?みんな!」

『オオォ!』


 エドガーとクラウスの会話に横からマイヤーが入り込んできた。彼は彼でミュンヘン以外から来る人たちに対してやる気満々だった。そしてそれに答える友人たちもやる気満々だった。エドガーとクラウスは無事に兵役期間を終われるのか、不安になった。






 ミュンヘン郊外にあるドイツ帝国陸軍の駐屯地では、今日やってくる新兵への歓迎準備が進められていた。

 歓迎準備とは言っても、食べ物や飲み物、催し物などは一切無い。あるのは身体検査に軍服、軍靴、そして笑みを浮かべている教官たちである。


「今年はどんな子供たちが入ってくるんですかね?」

「去年と変わらんだろう。軍隊というものを舐めているお坊っちゃんたちさ」

「違いねえ」


 そんな毎年しているような話をしながら、今日から一般社会とはかけ離れた軍隊という社会に入る若者たちを待っていた。


 たが軍人たちはすぐに気がつく。


「おい、馬車が来たぞ」


 その声を聞いてぞろぞろと正門へ向かっていく教官たち、そして遠目から音を立てながらやって来る馬車を見た。


「………何で荷馬車じゃなくて、普通の馬車で来ているんだ?」

「今年は本当のお坊っちゃんが来るのか……」

「あと騒がしくないか?」


 少し不安になりながらも、馬車を見守る教官たちだったが段々と近づいてくるにつれ、聞こえてくる声も大きくなり、先頭の馬車が横揺れしているのが見えてきた。


「……だ、大丈夫だろうか」


 一人がそう呟くが、誰も大丈夫とは言わなかった。全員が不安になっていた。


 そしてその馬車が目の前で止まるが、まだ中で口論しているようだった。

 おおかた軍隊に入りたくないダメ息子に説教をしているのだろうと思っていた。しかし目の前の馬車の中から聞こえてくるのは、男と女の声だった。


「だから!行かないと俺は捕まっちゃうの!遅かれ早かれ行かないといけないから、早く行って終わらせたいの!」

「徴兵逃れなんてお父様のコネがあれば一人や二人なんて余裕で出来るわ!だから行く必要は無いわ!」


 外に丸聞こえの声量で口論を続けているが、対面する出入り口とは反対側から降りてきた青年二人が教官たちの前に歩いてきた。

 そして目の前で立ち止まった。


「本日からお世話になります、フォルカー・ブンゲルトです」

「同じくヤーコブ・ビーカーです」


 丁寧な挨拶をする二人に教官たちは好印象を受けながらも、後ろの馬車で繰り広げられている口論が気になっていた。そしてその教官の中から二人の前に立ったのは、大柄で鍛えられた肉体を持った軍人だった。


「私は、アーベル・バルト軍曹だ、よろしく。そして二人に聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「後ろのアレは何だ?」


 代表して質問をするバルト軍曹に対して、申し訳なさそうに答えるフォルカー。


「申し訳ありません。アレはですね、女の子の方が駄々をこねて男の方を離さないという事態になっており、男の方が必死に振り解こうともがいている状況です」

「………何で女の子はそんなに嫌がっているんだ?」

「恐らく、寂しくなりたくないから抵抗しているのでしょう。我々友人が皆徴兵されるので独りぼっちになるので、それを阻止するためにあのような行動をしているのかと」

「なるほどな……。で、なぜその男なんだ?行かせたくないのなら貴様ら二人にも行かせない様にするだろう?」

「それはですね……」


 そう言うと、フォルカーはヤーコブを見た。そしてフォルカーの考えている事をくみ取り、未だに横揺れしている馬車のドアを握り、開いた。


「エーリカ退けろ!動けないだろうが!」

「動かなくていいのよ!こうしていればアドルフは行けないもの!」

「だから行かないといけないんだって!法律で決まってるの!兵役に着くのが俺たちの義務なの!なので退けろ!」

「いーやーだー!」


 アドルフがエーリカに馬乗りをされている姿があった。

 その姿にフォルカーは両手で顔を覆い、ヤーコブは天を仰ぎ、バルト軍曹以下教官たちは固まってしまった。

 そしてそのことに気が付かないアドルフとエーリカだった。

 そんなところに


「お~!これはお二人ともお熱いことで!」

「見ているこっちが恥ずかしくなっちまうな!」

「おい二人とも、こういう時はそっとしておくのがマナーだぞ!」


 後ろの馬車から降りてきた、ベネディクト、クルト。その後ろの荷馬車から来たマイヤーが思いっきり良い笑顔で二人に聞こえるような声で喋った。

 その声でやっと気が付いた二人。

 そしてそんな二人を見つめる、フォルカー、ヤーコブ、ベネディクト、クルト、マイヤーにフランツ、エドガー、クラウス、荷馬車に乗っていた青年たち、バルト軍曹と教官たちがおり、様々な表情を浮かべていた。笑っている者も居るが、羨ましそう表情や恨めしそうに見つめる者、衝撃的な光景を目の当たりにして固まっている者など様々な表情をする男たちが二人を見ていた。


「あ、えっと……その………」


 口をごもらせながら顔を赤くしていくエーリカに対して、アドルフは気まずそうな顔をしながらも、抵抗する力が弱まった隙に、馬乗りしているエーリカを持ち上げて、イスに座らせた。

 そして何事もなかったかのように、馬車を降り、乱れた服装を正し、教官たちの目の前に立った。


「アドルフ・ヒトラーです。本日からよろしくお願い致します」









「初っ端から大恥かいた……」

「良いじゃねえか!いつものことだろ?」

「小っ恥ずかしいたらありゃしないぞ?みんなの目の前であんなこと気づかずにしてた上に、軍人の目の前だったんだから……」


 ケタケタと笑うマイヤーから視線を外しながら周りを見た。

大よそ三百人の同世代の若者たちが立っていた。ある者は友人と和気あいあいと話をしていたり、ある者は不安そうに周りを見渡したり、ガチガチに緊張している者や眠そうにしている者など、いろんな人物がいた。

 運動場に集められざっくばらんに散らばっている居る青年たちを見て、軍隊という組織はこういう空気なのか?とアドルフは勘違いしそうになった。

 運動場を囲うように立っている軍人たちの目を見れば、自分たちが一般人として最後の時間が与えられてるに過ぎない、と。

例えるなら、カエルを見るヘビ、羊を見る狼、ヌーを見るライオンのような関係だと。もちろんアドルフ達がカエル、羊、ヌーで教官、軍人がヘビ、狼、ライオンだ。


「マイヤー、ベネディクトとクルトはまだ来ないのか?」

「まだどっかほっつき歩いてんだろ」

「そうか……あとその手でオレに絶対に触れるなよ」


 鼻をほじりながら答えるマイヤーと若干距離を開けたアドルフ。

 そこに噂をしていたベネディクトがやって来た。


「お!アドルフにマイヤー、ここにいたのか!」

「お前らどこ行ってたんだ?少し心配したぞ?」

「いや~!ちょっとここに居る青年諸君と交流を深めてただけだぞ~?」

「そうそう!交流は大事だからな!」

 ニヤニヤと笑うベネディクトとクルト。

 アドルフに悪感が走り、ベネディクトに内容を聞こうとした。


「全員直ちに整列しろおおぉぉぉ!!」


 その大声に遮られ聞けなかった。声の出所を見ると一人の軍人が木で作られた台の上に立っていた。

 そして周りに居た軍人たちも一斉に声を上げ、青年たちを追い立てる。


「とりあえず一列に並ぼう」


 アドルフが言うと誰も反論することなくアドルフの後ろに並んだ。

 他の青年たちは未だに右往左往しており、追い立てられ怒鳴られている。しかしそんな中でも良い動きをしている人間がおり、何の躊躇も無く、アドルフの列に並んでいった。


 怒鳴られながらも、何とか整列した約三百人の青年たち。

 そしてその前に立っている軍人たち。

 また怒鳴られるのではないかとビクビクしていたが怒鳴り声はこなかった。

 台の上に立っていた軍人が口を開いた。


「私はこの駐屯地の責任者であるハインリヒ・アドラー中佐である。簡単に言えばここで一番偉い人間だ。そして今日から諸君らの上官でもある!諸君!今日から諸君らは三年間の兵役に就くことになる!つまりは我らが帝国の軍人として祖国に命を捧げることになる!我々は諸君らを立派な軍人にするために訓練を徹底して行う!諸君らの命は我らが皇帝陛下と帝国の為にあるのだ!そのことを忘れぬように!以上」


 中佐の訓示が終わると、バルト軍曹が台に上がり青年たちとその他の軍人に指示を出した。


「直ちに兵舎の中へ移動し、別命あるまで各自自室で待機せよ!かかれ!」

「さっさと歩けノロマ共!貴様らは家畜の豚か!」

「私語をするな!前歯叩き折るぞ!」

「隊列を乱すな!まっすぐ歩くことも出来んのか馬鹿たれが!」


 などなど一斉に罵倒怒号が浴びせられた。

 がアドルフたちはそそくさと先頭を歩く教官の後ろにぴったりとくっ付いていた。

 しかし問題が発生した。

自分たちの部屋は何処なのかが分からないのである。事前に知らされてはいないし、兵舎に入ったのはこれが初めてであるため内部構造も把握していない。


「教官殿、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「我々は事前に自室の割り当てを聞いておりません。一体どこへ向かえばよろしいのでしょうか?」


 そこまで言うと、教官は急停止し、振り向いた。

 質問をしたアドルフをじっと見つめながら、口を開く。


「自室など無い。早い者勝ちだ」


 そう言うとさっさとどこかへ行ってしまった。

 置いてけぼりを食らったアドルフ達は呆然としてしまった。


「どういうことだ?」

「自由に部屋を選べるって事か?」

「多分そうだと思う」

「そうとなれば早く行こうぜ!」


 真っ先に動いたのはベネディクトだった。彼は何のためらいも無く階段を駆け上がっていった。次に動いたのはクルト、マイヤーの二人。彼らもベネディクトを追い駆け上がっていった。


「俺たちも行くか」

「そうだね」

「とりあえず二階に上がるか」


 アドルフ達もそれに続いて二階へと上がっていった。

 上がると何やら騒いでいる三人がいたが無視して、それぞれ部屋を見ることにした。


「ここは六人部屋」

「こっちも六人部屋だよ」

「ここも同じだな」


 開ける部屋全てが六人部屋だったので、ベットの具合などを確認しながらどの部屋に入るか決める事になったが……


「さて部屋割りをどうするかだな」

「ベネディクト、クルト、マイヤーは一緒の部屋で良いだろう。俺たちはどうする?」


 アドルフ、ヤーコブ、フォルカー、フランツ、ハンス、エドガー、クラウスの七人の部屋割りを決めなければならないが、必ず四人は知り合いでは無い人間と暮らす事になる。その四人を決めなければならなかった。


「僕は、みんなと同じ部屋がいいな……」

「俺は殿と一緒が良い」

「僕はどっちでも良いけど」

「俺も出来れば見知った顔の方がいいな」

「俺も」

「じゃあ、フォルカー、エドガー、クラウスがベネディクト達と同じ部屋でいいな」


 あっさりと部屋割りが決まり、フォルカー達三人はベネディクト達が待っている部屋へ向かった。

 もう部屋の中で大声で笑う声を聞いて、アドルフはフォルカー達がストレスで倒れたらどうしよう、と不安になった。


「あいつらの隣は止めとこう。うるさくて寝れない可能性があるからな」


 ヤーコブは無言で頷き、フランツは苦笑いをしたが反論は無かった。


 部屋はベネディクト達がいる部屋から五つ横に離れ、反対側の角部屋を選んだ。理由はベットが綺麗だったのと、窓から外がよく見えたからである。


 三段ベットが二つあり、窓際には机が置いてあった。たったそれだけしかなく、大変質素な部屋である。


「呼ばれるまでゆっくりしてるか」

「そうだね」


 アドルフはドアから見て右側のベットの一段目に私物を無造作に置き腰を下ろし、フランツは反対側の一段目に腰を下ろした。

 ヤーコブはアドルフの上のベッドに上がりそこで寝っ転がる。そしてハンスはフランツの一段上のベッドに上がった。


「それにしても想像していたよりも厳しそうだね。僕、緊張してて軍人さんが何を話したか覚えてないよ」

「オレは逆にもっと厳しいのかと思ってたから、少しホッとしてる。あんな大恥かいた後だったからなおのこと、何言われるかビクビクしてたよ」

「だが俺たちはもう軍人だぞ。堂々としていれば良いだろ」


 ヤーコブの言葉でアドルフはあることに気がついた。


「俺たちの軍服はどこだ?これから貰うのか?」


 部屋には軍服などはどこにも無かった。そしてなぜ部屋で待機させられているのかも何となく、言葉を発しながら分かった。


「これから貰いに行くんだな。きっとそうだ」

「でも何で先に渡さないで、部屋選びを先にさせたのかな?」

「……それは分からない」

「えぇ……」


 部屋の外が多数の声が聞こえてきたのはそんな時だった。その声は大多数であり何やら部屋の事で話しているのが聞こえてくる。


「こうなるから、先に部屋を選ばせたのかな?」

「たぶんそうだと思う」


 何と何しその声達を聞いていると、ドアがノックされた。コンコンッ、と軽いノックが部屋に響き、アドルフ、フランツ、ヤーコブハンスがお互いの顔を見合わせ、声を上げること無くアイコンタクトのみで意思疎通を図った。


 フランツは「僕がやろうか?」とヤーコブの目は、「殿がやるべき」とそしてハンスは「お前がやれ」と言っているようにアドルフは感じた。と言うことでアドルフが扉の前に立った。


「どちら様?」

「入っていいかい?少し話がしたいんだ」


 再びアイコンタクトの意思疎通が行われる。ヤーコブ、ハンスはベッドから降り、明らかに警戒している。フランツは、「入れても良いと思うよ」と言う目をしている。


「どうぞ」


 そう答え、ドアを開けるとそこには一人の細身な青年が立っていた。


「入らせてもらうよ!おっ!やっぱりベッドが余ってたな。いや~どの部屋もベッドが埋まってて困ってたんだよ!余ってても、『お前みたいな奴とルームメイトになりたくない』とか言いやがって入れてくれなかった。本当、余ってて良かったぜ!」


 いきなり入ってきて、もう俺たちルームメイトだよね?みたいな顔で見てくる青年にアドルフ達は呆然とした。

 だが立ち直るとアドルフがまず口を開いた。


「ルームメイトになるのは良いけど、君の名前は?」

「お?名前を言ってなかったなこりゃ失敬。俺はカイ・シャハト、よろしくな」


 差し出された右手を何の躊躇も無く握るアドルフ。


「こちらこそよろしく。オレは…」

「アドルフ・ヒトラーだろ?知ってるぜ。で、ベッドに座っているのがフランツ・ベッケンバウアー、俺をさっきから睨んでる二人がヤーコブ・ビーガーとハンス・ノイバートだろ?」


 いきなり名前を言い当てられた四人の顔は二つに分かられた。アドルフとフランツは驚き、ヤーコブとハンスはさらに警戒心を強めた。


「あれ?どこかで会ったことあったけ?」

「いいや、今日が初めてだな」

「じゃあなんでオレたちの名前を知ってるんだ?」

「簡単だ。聞いたんだよ、お前達の友達に」


 その答えで誰がカイに教えたすぐに分かってしまった。


「もしかしてベネディクト?」

「大正解だ、アドルフ!あいつからお前らの名前と特徴を教わったんだ」

「ベネディクトと友達だったのか?」

「いいや今日初めて会ったな。運動場にいる時に」

「あの時か……だからあいつニヤニヤしてたのか……」


 あの時のあの顔を思い出した。だが自分が想像した悪いの予感が当たらなくて良かったと少しホッとしたが、勝手に人のことを言い触らすなと、後できつく言っておこう。そう思っていた。


「あとお前の彼女であるエーリカちゃんとのやり取り、特に今日のじゃれ合いを、事細かく且つ大声で言ってたぜ」

「ちょっと殴り倒してくる」


 真顔で外に出ようとするアドルフをヤーコブが後ろから止める。


「ヤーコブ、安心しろ。半殺しにするだけだ」

「では全力で止めさせていただく」


 二人の攻防をカイは楽しそうにフランツは苦笑い、ハンスは呆れ顔で見ていたが


「クルトも悪乗りであること無いこと言ってたな」

「ちょっとクルト君を叱ってくるね」


 今度はフランツが満面の笑みを浮かべて外に出ようもするがハンスが止めた。


「フランツ、落ち着け。あいつには俺がきつく言っておくから落ち着け」

「いやいや僕が行ってくるよ。クルト君の悪乗りは全部嘘だからね。友達に迷惑掛けるようなことはしないように言ってるのに……だから改めて僕が直接言うよ」


 カイは笑う、アドルフは真顔、フランツは満面の笑み、ヤーコブは緊迫した表情、ハンスは怯えた表情。

 何ともカオスな空間となった部屋であった。




 なおこの攻防戦は、部屋に呼び出しが来るまで続いた。



 その後、体育館で身体検査を受け、自分に合った軍服をその場で着させられ、全員で食堂へ移動し夕食を取り、この日は終わった。




 三年に渡る兵役生活が始まった。














「ところでエーリカちゃんは誰が連れて帰ったんだ?」

「どこからともなく現れたメイド達に連れて行かれました」

「なんだそりゃ?」


 一体どういう状況だったのか分からなかった、カイであった。


今回の新キャラのカイは、この小説を書くに当たり、初期段階のキャラ設定から存在してるキャラです。やっと出せたぜ……

ご意見ご感想ご批判等をお待ちしております。励みになるので!


あとE-4が突破できない……PT小鬼嫌い……

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