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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから―― 作者:疲労困憊

第十章 勇者冒険編・決戦、浮遊大陸!

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第234話 楽天家な友達

 浮遊大陸の真ん中にある建物で、俺たちは魔王ヴァーヌスと戦っていた。
 しかしヴァーヌスは俺の攻撃を軽々とあしらった上に、魔物を召喚して俺の大切な街や村を襲った。


 暗い部屋の中には幾つものスクリーンが浮かんでいた。
 そこには煙に包まれるケイカ村が映し出されていた。

 桁違いに強い魔物・ハミーの放った魔法によって、結界は消し飛ばされていた。
 村から、煙が上がる。周囲を囲む外壁すら一部溶けていた。


 セリカが見開いた青い瞳から涙をこぼしつつ、声を震わせた。
「そんな……そんな……っ」

 俺は歯軋りするしかなかった。
「くそっ! やってくれたな、ヴァーヌスっ!」

 ヴァーヌスは俺の太刀を掴んだまま、少年のように幼い顔でケタケタと笑う。
「そう! その顔だよ! 無力な者が打ちひしがれる、その姿! それでこそ弱者だよ!」
「くそぉ……!」

 ぎりぎりと手に力を込めるが、掴まれた太刀はピクリとも動かない。


 ――と。
 煙立ちこめる画面から、盛大な笑い声が響いた。
「ふははははっ! どうした、魔王のしもべよ! 我輩を倒さぬ限り、勇者の村にはたどり着けんぞ!」

「え?」
「なんだって!?」
 俺とヴァーヌスは思わず画面に食い入った。


 煙の晴れている空中には、黒い燕尾服にマントを羽織った地獄侯爵が浮かんでいた。
 鋭い犬歯をぎらつかせ、尊大な態度でふんぞり返っている。

 村の大半は無事だった。

 背中に羽根を生やしたミノタウロス、ハミーが大きな目をギョロ付かせた。
「な、なんだと! 確かに我が持つ、最高の魔法をぶつけたはずだ!」

 侯爵は仰け反りながら高笑いを続ける。
「ふはははっ! どうした、驚いたか! ううん? 不思議そうな顔をしておるな! ――いいだろう、教えてやろう! 我輩はあらゆる「死」を司る! 劫火さえも我輩の前では死すべき運命にあるのだよ! ふははははっ!」

 背を仰け反らせすぎてブリッジのような体勢になる侯爵。

 大層なことを言った割には、プスプスと燕尾服から焦げる煙を上げていた。
 ――防げてないじゃん。


 ハミーは、巨大な牙を噛み締める。
「なんだと! そんな、非合理的な話があってなるものか!」

「非合理、けっこう! 非論理、けっこう! 我輩は既成概念を超越する! 命を持たぬものまで死なせられなくて、何が死の王だ! 我輩こそが新しき概念となってみせよう、ふははっ!」

 まあ、化学や物理学は既成概念を疑うことから始まるといっても過言ではないからな。
 ある意味、侯爵は科学者向きといえる。うむ。


 ハミーはギリギリと歯を噛み締めていたが、ふいに口の端を緩めた。
「ふんっ。たった一人で何が出来る? お前の力はしょせん単体か、村も巻き込む大範囲。全力など出せぬわ。――行け! ものどもよ!」


「「「ウオォォォ!!」」」
 村を取り囲む魔物たちが吠えた。

 侯爵が直撃を防いだものの、侵入を防ぐ結界自体は消滅している。
 無数の魔物たちが、村の四方から津波のように押し寄せた。

「むう! 卑怯だぞ! 我輩と一戦交えんか!」
 侯爵が叫んでも聞く耳持たず、魔物たちは波となって外壁を取り囲む――。


 ――が。
 突然、村の中央辺りから、閃光が走った。

 チュィィィ――ンッ…………ドゴォォン……ッ!

 一瞬遅れて、大地が無数の魔物ごと爆発する。
 東から来ていた魔物が消滅した。


 ハミーが目を見開く。
「な、何事だ!? 我より強い炎の魔法だと――っ!?」

 俺は千里眼で見た。
 村の中央、代官屋敷の屋根の上に、ドレスを来たエトワールと、巨大なアメーバのような神獣アイがいた。
 代官屋敷は立派で大きいので、屋根の上は村を囲む外壁より高かった。


 エトワールは風を受けて逆巻く赤毛を華奢な手で押さえつつ、片手に持ったメモを握り締めていた。
「ほ、本当にこの呪文を読み上げていいんですの!? 怒ったりいたしません!?」

 アイはこくこくと大きな目玉を上下させて頷いた。

「で、では、読みますわ――『どうした化けもの、さっさと撃たんか!』ですわ!」

 チュィィィ――ンッ!


 アイの目が赤く光るとともに、またしても赤い炎の光線が放たれた。
 北東から押し寄せた王蟲のような大軍を、一撃でなぎ払う。
 灼熱のエネルギーが大地ごと魔物を吹き飛ばす。

 凄まじい火力。
 天地創造に使用したスキル・天変眼光カラミティレイの威力は伊達じゃない。
 まるで星を七日間で灰にするほどの威力だった。

 ……まあ、同じ王女だから合っているのかもしれない。
 アイと初めて会ったとき「遅すぎたんだ、干からびてやがる!」とでも言えば、喜んでもらえたのかもしれなかった。
 今更フラグを立てるつもりなどないが。


 ハミーがアイを視線で捕えて驚愕する。
「なっ!? 神獣ビホルダーゲル!? なぜ、こんな村に!」

「どこを見ておる! 油断していては我輩に勝てぬぞ、ふははははっ!」
 呆然と突っ立ていたハミーに、頭上から侯爵が襲い掛かる。

 ――ザァンッ!

 銀色に輝く鋭い爪が、ハミーの肩を浅く切りつけた。三条の切り傷。
 辺りに鮮やかな血が赤く散る。


 ハミーは鼻で笑った。
「不意を付いてこの程度か。しょせんはヴァーヌスさまの御心がわからぬ俗物よ。次はこちらから行くぞ、覚悟するがいい! ――なんなら命乞いをすれば助けてやらんでもないぞ、がはははは!」

 同じく侯爵も鼻で笑い返す。
「長い講釈を述べた後で悪いがな。――うむ、先に忠告しておこう」
「なに!?」
「次からは、地獄侯爵をなめないほうがいい。……次はないがな」


 侯爵はパチンと軽快に指を鳴らした。
 それと同時に、浅い傷口から大量の鮮血が噴出した。
「うぉぉぉ!? な、なんだ、これは!?」
 ハミーは溢れ出る血を止めようと、左手で肩を押さえた。

 しかし血は液体。
 どれだけ強く押さえようと、指の隙間から沸き水のように溢れ出る。

 ――侯爵の持つスキル、吸血エナジードレインか。
 相手に触れるだけで攻撃力分の生命力を吸い取る。すでに血を流している場合、離れていても吸う能力。
 しかも恐ろしいのは、侯爵の持つ能力の中で最弱のスキルがこれということだ。
 死の支配者にふさわしい力だった。


 侯爵は憐憫の眼差しでハミーを見る。
「言ったであろう? 地獄侯爵を見くびらないほうがいいとな」
「うおお! やめろっ! 止めろぉぉぉ!」

 ハミーは叫ぶが血の流出は止まらず。
 一分も掛からずに、流れ出た血は侯爵がすべて吸い取った。


 ミイラのように干からびたハミーが、前のめりに倒れる。
 地面にぶつかり、トスッと乾いた音を立てた。

 侯爵は笑っていた。
 赤い血で濡れた犬歯がギラリと光る。
 そして満足そうな手つきで、口元を白いハンカチで拭った。

「まずい血だ」
 マントをはたはたと風が揺らしていく。


 それから悠然と辺りを見渡す。
 魔物の残りが呆然と突っ立っている。

 侯爵は櫛を取り出してオールバックの髪を整えると、ニヤリと悪そうに笑った。
「では、デザートもいただくとしようか」
「「「う、うわぁぁぁぁ!」」」
 魔物たちは逃げ出そうとしたが、もう遅かった。

 普段から血に餓えていた侯爵だ。
 あとは殺戮が繰り広げられた。

 その一方的な戦いは凄惨の一言に尽きた。

       ◇  ◇  ◇

 浮遊大陸中央の建物の中。
 俺はヴァーヌスから離れて対峙していた。
 侯爵というあまりのイレギュラーの出現に、魔王も思わず太刀を手放していたのだった。

 セリカが大きな胸に手を当てて、ほっと息を吐く。
「村が無事で、本当によかったですわ」

「どうだ、魔王。目論見が外れた気分は? 無意味なことをした気分を味わえただろう?」


 悔しがるかと思ったが、ヴァーヌスは髪を揺らして素直に頷いた。 
「うん、驚いたよ。まさか地獄侯爵やビホルダーゲルを配置しているなんてね――でも、村にいるってことは、ほかは手薄。楽しみが先に伸びただけじゃないかなぁ?」
「そうはさせるか! ――《水月斬》!」

 俺は太刀を振るってヴァーヌスに仕掛けた。
 一直線に伸びる水の斬撃は、軽いステップでかわされた。


 俺は剣聖の剣技を繰り出し、ヴァーヌスを追い詰める。
 しかし、へらへら笑いながら太刀を紙一重で避けていた。

 ――でも、それでいい。
 魔法を使う暇を与えなければいい!


 けれども、ヴァーヌスは心の底を見透かしたように笑った。
「急に必死になってどうしたのさ――あ~、ひょっとしてアレかな? 魔法を使う暇を与えないっていう浅い考えなんじゃないかなぁ?」

「くっ! それがわかったところでどうした! 実際、使う暇はないだろう!」
「そうだねぇ――今はね!」
「え!?」


 ヴァーヌスは黒いオーラをまとう右手で剣撃を払いながら笑う。
「いつから異形召喚パンデモニウムが一回だけと思っていたんだい? 一度で全部召喚するのにさ。ほら、次は……そうだね、ドルアースにしよう。くふふっ」

 薄暗い部屋の中に無数にきらめくスクリーンを指差した。

 映し出されるドルアース。
 急に街中の映像もドルアースになったので、人とナーガたちが驚き戸惑っている。

 そこへゴゴゴゴゴ……と重い音が押し寄せてくる。

 津波のような何かが港町へと迫ってきていた。
GAノベルより3月15日に2巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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