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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから―― 作者:疲労困憊

第九章 勇者冒険編・天

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第201話 月の花畑の秘密

 無酸素、低重力の月面世界。
 俺とラピシア、海邪神リヴィアは月面の花畑にいた。
 白い花が無数に咲いていた。


 見渡す限りの宇宙空間。頭上には青い星が光る。
 俺は呆然と花畑を眺めるしかない。非現実的な美しさが広がっていた。

「こんなところに花が……」
「月の花じゃな。茎や葉が弱くて、低重力でしか育たぬ花じゃ」
「光はあるとして、水はどうするんだ」
「誰かが世話をしておるのじゃろう。何のためかはわからぬが」

 確かに花畑はちゃんと畝が作ってある。
 世話をする人がいるとしか思えなかった。


「わー……――」
 ラピシアが歓声を上げながら花畑へと入っていった。途中で手を離したので声は伝わらない。
 綿のような白い光が舞い上がった。
 まるで地上から空に向かって雨が降るように。
 少女の周りを白い綿が飛び交い、美しい光景を作る。
 長い髪と服の裾が水中のようにゆっくり揺らめく。
 背中に背負う柄の長いハンマーが星明りを浴びてキラリと光った。

 最初は駆けるラピシアに花びらが当たって飛んだのかと思ったが、違った。
 綿のような白い虫が一斉に飛び上がったのだった。
 魔物かもと思い、真理眼で見る。
【月虫】月の花の蜜を吸って生きる虫。毛はとても軽くて丈夫。月光糸の材料となる。


「こんなところに虫が生きられるのか」 
「虫を集めるための花畑かも知れんの」
 光景に圧倒されながらたたずんでいると、ラピシアが戻ってきた。

 花畑が楽しかったようで、満面の笑み。
 小さな手を握ると声が伝わる。
「ケイカ! いっちばん大きい宝石、あった!」
「どこだ?」
「この畑の下!」
「ふむ。畑を潰すのは申し訳ないが、掘り返してから元に戻すしかないか。ラピシア、掘り出せるか?」
「やってみる!」
 ラピシアが地面に両手をついた。


 ――と。
 脳に直接響く声が聞こえた。
『おやめください』
 息を飲んで辺りを見回す。

 花畑のずっと向こう側に、3人の女が立っていた。
 姉妹のようにそっくりで、無表情な美しさを持つ。
 着ている服は白く、これもまた月の人間なのかもしれない。

 そう思って真理眼で見た。
--------------------
【ステータス】
名 前:ファスティナ
種 族:魔導人形
職 業:召使い
クラス:花育士Lv50 糸紡ぎ人Lv50
属 性:【土】【光】
--------------------
 残り2人もステータスはまったく同じ。ツヴァイアとミツコというらしい。
 戦闘スキルなどはない代わりに念話テレパシーを持っていた。

「……人形?」
「製作者は凄まじい技術の持ち主のようじゃの」 
 俺はラピシアに手を伸ばして立たせた。
「攻撃力は皆無だが、罠があるかもしれない。気をつけるんだ」
「わかった!」


 広い畑の向こう側にいる人形たちに、心話で話しかける。
『畑を荒らしてすまない。だがこの下に埋まっている宝石が必要なんだ。できるだけ元に戻すから掘り返すことを許可して欲しい』
『それはできません。花畑は宝石の力を利用しています。お父さまの言いつけを守れなくなってしまいます』

 リヴィアが不敵な笑みを浮かべる。
「ならば力づくで、もらうしかないのう」
「まあ、待て。相手は戦闘員じゃない。それに彼女たちは召使いなんだから、主人に話せばいいだろう」
 うむ、となぜかラピシアが偉そうに頷いて同意した。


 俺は心話で語りかける。
『戦うつもりはない。俺は勇者ケイカ。お前たちの主人と話がしたい』
 そう伝えたとたん、彼女たちがにわかに騒いだ。

『まあ、勇者さま!』
『どうしましょう! お父さまの言われたとおりだわ!』
『でもお父さまとは連絡が取れない……指示を、次の指示を!』

『ん? お前たちの「お父さま」とやらは、今どこにいるんだ?』
 尋ねると、人形たちは揃って天を指差した。
 青く美しい惑星。

『なるほど。月では生きていけないから、人形だけを飛ばして作業させたって訳か』
 人形のファルティナが言う。
『本当に勇者さまかどうか、確認させていただけませんか?』
『おっと、それもそうだな』


 俺たちは畑を迂回して人形たちの元へと向かった。
 近付くと3人とも本当に美しい姿をしていた。人形と言われなければ気付かない。
 特に腰までの黒髪が艶やかで美しかった。

 懐から銀色のメダルである勇者の証を出して見せる。
『ほら、これが勇者の証だ』
 人形達は手にとって、裏表をよく眺めていた。
 そして悲しげな表情を浮かべてメダルを返してくる。

『本物の勇者さまと認めます。……ですが、申し訳ありません。作業はまだ途中。宝石はお渡しできません』
『お前たちの主人が地上に住んでるなら、場所を教えてくれたら会いに行くが』

 人形たちは首を振った。長い黒髪が空間に広がる。
『いえ、住んでた場所は魔王に滅ぼされたようです……』
『末娘が言うには、お父さまは亡くなられたと』
『本当は900人で作業をするはずだったのですが、7人目以降、新しい娘は届きませんでした』
 口々にそう言った。

『いったい、何の作業をしているんだ?』
『花畑を育て、月虫を呼び、綿毛を集めて糸を紡ぎます』
『なんのために?』

 人形は目を伏せた。とても辛そうに見える。
『それがわからないのです。糸の量がある程度溜まったら、次の指示を出すと言われたのです』
『指示がこないまま、糸だけが途方もなく長くなってしまいました』

 端にいるミツコが言う。
『でも勇者のためだとおっしゃってました』
『勇者のため? ――ふむ』
 俺は顎に手を当てて考えた。


 隣にいるリヴィアが痺れを切らして言う。
「だいぶ前の話であろう? 勇者が直接出向いたのだから、どうでもよいではないか。さっさと宝石を掘り出して帰ろうぞ」
「そうしても問題はなさそうだが――ちょっと気に掛かる」
「なぜじゃ?」

「魔王に狙われたことから勇者の協力者だったのは間違いない。そして高度な人形を作り、月まで届ける技術を持っている。それほど賢い奴のやっていたことを理解しないまま行動を起こすと、取り返しのつかない失敗につながる可能性がある」

 リヴィアが嫌そうに眉をひそめた。
「神が何を言っておるか。慎重にもほどがあるぞ」
「もう二度と失敗はしたくないんだよ――神としてな」
 俺の気持ちを察したのか、リヴィアはそっぽを向いたが何も言わなかった。


 ラピシアが繋ぐ手をぎゅっと握ってくる。
「らぴしあも知りたい! わくわく」
「そうだな。人形達の主人が何をしようとしていたのか。糸を作る理由――なあ、リヴィア。あの糸で服や防具を作ったら、強いのか?」

「天女の羽衣と呼ばれるものができる。火と水と斬撃に耐性のある防具じゃ。ただし着るとシースルーになる」
「いいな、それは――そのために糸を作らせていたのか」
「さあての」
 なぜかリヴィアは怒ったように頬を膨らませた。
 少し糸を貰って帰ろうと思った。


 俺は心話で語りかける。
『その糸で勇者一行の防具を作るはずだったんじゃないか?』
『違うと思います。とてもたくさん必要になると言っておられましたから』

『まさか軍隊用? ……う~ん。情報が少ない。その主人の住処を探ってみる必要がありそうだ。――どこに住んでたかわかるか?』


 すると、人形達は声を揃えて誇らしげに言った。

『『『妖精界です』』』

 俺の背筋に電流に似た衝撃が走る。
『まさか……名前はなんていう?』

『大妖精ハーヤさまです』
『やっぱりか! あの、30センチほどのちんちくりんの妖精だよな!』

 妖精界は魔王に滅ぼされたし、ハーヤは逃げ回っていたから月面にまで手が回るはずがない。
 そして人間と見間違うほどの完璧な魔導人形制作。
 辻褄が合う。


 ところが人形たちはいっせいに首を振った。
『いえ、全然違います』
『『全然違います』』

『2回もハモって言うな。――あいつ、なにも言ってなかったな……ひょっとして』

『お父さまは勇者さまより背が高いです』
『カイゼル髭と、銀色のステッキがお似合いでした』
『お父さまは、まごうことなき紳士です。ちんちくりんな妖精などではありません』
 3人の人形たちは次々と、強気な口調で言った。


 思わず、あっと声が出る。
『そうか。死んで転生したから記憶がないのか。ただ前世の技術だけは受け継いでいた』
 だから人形作りは完璧だし、ロケット製作も迷わず一発で成功させた。

 ……ただ問題は、今のハーヤが昔のことを覚えているとは思えないこと。

 俺は頭をかいた。
『困ったな。妖精界はきれいさっぱり刷新してしまったし、ハーヤは昔のハーヤじゃない。月で何をしようとしてたか、誰か知らないか?』

 人形たちは顔を見合わせた。
『知ってる?』
『わたしは……』
『妹たちなら?』

『ほかにもいるんだったな。会ってみよう』
『こちらです』
 人形たちに連れられて、花畑を離れた。
 夜空より暗くも明るい宇宙の下、月面はどこまでも静かで、綿毛のような月虫たちがふわふわと漂い続けていた。
GAノベルより3月15日に2巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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