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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから―― 作者:疲労困憊

第八章 勇者冒険編・亡国の姫君

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第193話 ケイカハーバーの災難!

 最後のたまごを見つけ損ねた俺は、妖精ディナシーの緊急連絡によって辺境大陸にあるケイカハーバーへとやって来た。

 妖精の扉を抜けると、夜空が見えた。
「え?」
 出た先は町長屋敷の二階、窓のない部屋のはずだった。


 セリカが隣で絶句する。
「こ、これは……」

 町長屋敷は半壊していた。
 右半分の屋根や壁が押しつぶされるように崩れていた。


 その時、夜の闇を貫く鋭い音が鳴り響いた。
「ウガァァァア!」「シギャァァァ!」「ブルワァァ!」
「モンスターなのですか!?」
 セリカが驚きの声を上げた。
 確かに、人ではない声だった。

 俺は太刀に手を添えつつ、首を傾げる。
「そんなはずは……俺とラピシアで完璧な結界を張ったはずだ」
 その時また、化け物の咆哮が聞こえた。
 同時に、人々の悲鳴も混じった。
「助けてぇ!」「もう、ダメ」「みんな、川はダメだ! 港へ逃げるんだ!」
 聞き覚えのある声。ナーガ族の族長、ダリアだ。
 ――ナーガ族!? そうか、船団護衛で来ていたのか!


 俺は我に帰る。
「助けに行くぞ! セリカとミーニャは人々の避難優先! ラピシアは怪我人の介護をしてくれ!」
「はい!」「わかった」「がんばる!」

 崩れた2階の床を蹴って往来に出た。
 セリカたちはすぐに悲鳴のほうへと駆け出して行った。


 町は広い河口の島の上にある。
 その時、夜空を照らす大きな月に、黒い影がよぎった。
 長い首を持つドラゴンの頭。

 それが、1本、2本と増えていく。
「なんだこいつ!?」
 5本の首を持つドラゴンが辺境の町を襲っていた。胴体は水の中にあり、全長は数十メートルありそうだった。

 俺は真理眼で化け物を見た。
--------------------
【ステータス】
名 前:クイーンヒドラ
種 族:魔竜族
職 業:魔王軍遊撃部隊隊長
クラス:魔獣Lv80 司令官Lv50
属 性:【腐水】【滅炎】

 攻撃力:1500×5
 防御力:2000+1500×5
 生命力:3000+2500×5
 精神力:4800+1000×5 

【スキル】
 噛み付く:大きな口で噛み千切る。防御破壊攻撃。
のしかかる:巨体で圧し掛かる。範囲攻撃。
  ブレス:各首からブレスを吐く。火、氷、酸、毒、麻痺、など。小範囲攻撃。
 噛嵐連撃ストームバイト:三つ以上の首で敵を狙って噛む。二つ目からはダメージ2倍ずつ増える。確率で速度低下付与。
 飛翔圧撃プレッシャーダウン:飛び上って体で押しつぶす。大範囲攻撃。
五炎煉獄破フィフスフレイム:首が5本以上あるとき発動。首をそろえて超高温の炎を吐く。熱量五倍。大範囲攻撃。

 倍速再生:すぐに再生する。首を切り落とされた場合、2本に増えて再生する。
 命換卵生:人間を10人食べるごとに、一つ卵を産む。
--------------------
 ヒドラ!
 ――強いな。
 胴体と首は数値が別のようだ。
 しかも伝説通りの高い再生能力を持つ。
 一気に倒すしかない!


 ――と。
 裏返ったかん高い声が上空から響いてきた。
「ひぎゃぁぁぁ! 助けてぇぇ!」
「町人か!? 待ってろ、今――ん?」

 ドサッと家の影に悲鳴の主が落ちる。
 ズル……ズル……と石畳を這いながら暗闇から出てきた。
 真っ白い肌をした太った男。
 その顔に見覚えがあった。

「お前は、ジャン! どうしてここに!」
 ドルアース町長の息子にして、リオネルの兄。
 一度はミーニャを手篭めにしようとした最低な男。

 そいつが目の前を泣きながら這っていた。
 しかし奴の体の異常に気付いて、俺は眉をひそめた。

 ジャンの下半身がなかった。ホースのような腸が後方に伸びている。
 すでにヒドラに食われていたようだ。

 ジャンは、泣き顔ををくしゃくしゃにして訴える。
「お願いだよぉ……助けてぇ……ひぎゃあっ!」

 突如、ジャンの上半身が上空へ飛ばされた。
 まるで一本釣りにでもされたかのように。


 見れば、ジャンの下半身を喰ったらしいヒドラの頭が、腸をぐいっと引っ張っていた。
 そして空に上がったジャンの上半身を、別のヒドラが食べた。
 鋭い牙の並ぶ口にくわえられつつ、ジャンが叫ぶ。
「いやぁぁぁ! だずげでぇぇぇ――ぎぃっ」
 ヒドラの口が閉じられ、ゴリッと鈍い音が夜空に響いた。
 ごくっとヒドラの喉が上下してジャンを飲み込んだ。彼の断末魔とともに。

 あっという間の出来事。
 助ける暇もなかった。
 ――というか、なんでジャンがここにいるんだ?
 リオネルは無事なのか!?


 疑問が頭を掠めたが、今はそれどころじゃなかった。
 太刀を抜くとヒドラへと向かって走る。
 ヒドラは川に体を沈め、長い首を動かして島の町を襲っていた。

 島の端へ来ると、大空へ高く飛び上がった。
「はぁっ! ――《烈風斬》!」
 緑に光る太刀を真横に一閃。

 ザァンッ!

 小屋よりも太い首を一撃で斬り飛ばした。
 切られた首が、大きな弧を描いて遠くの川面に落ちた。大きな水柱が上がった。

 俺は下へと落下しながら呪文を唱える。
「――《波上流歩》」
 水面に着地した。水面を歩ける魔法。
 ヒドラは長い首をうねらせて襲い掛かってきたが、軽く避けつつ様子をうかがった。

 首の一つを斬り飛ばされたヒドラは「キシャァァ!」と叫びつつ、他の首を振って暴れた。切られた首からはどす黒い血が滝のように流れ落ちる。


 ――と。
 切り口から紫色をした肉が盛り上がる。
 そして新しい顔が2つ出てきた。
 同時に首が縦に裂けて、新しい首となる。
 つまりヒドラの首が6本になった。

 思わず顔をしかめた。独り言が出てしまう。
「想像以上に再生が早いな……これは、一気に首と胴体を狩らないとダメか? いや、ヒドラを倒したヘラクレスは、再生しないように松明で焼いたんだっけか」

 その時、ヒドラの首の一つが島と陸を結ぶ橋を見た。
 橋の上はまだ逃げる人々が大勢いた。
 ヒドラは橋ごとのみこめそうなほどに大きく口を開ける。
 並んだ牙が、月光を浴びて冷たく光った。

「こっち、見た」「あぶない!」「早く、早く!」
 人々は叫ぶが渋滞のようになった橋の上では逃げることもままならない。


 ――悩んでる暇はないな。
 俺は太刀を抜くと指先で擦った。
「……我が名に従うそよ風よ 激しく猛りて磨耗せよ! ――《風乱摩熱》!」
 刀身が赤々と熱を発した。
 火の神ではないけれど、風を激しく巻き起こし、摩擦熱を生じさせるぐらいならできる。

 俺は太刀を構え、水面を蹴って夜空へ飛ぶ。
「覚悟しろ、化け物! 神の名前を冠した町ケイカハーバーを破壊した罪は、死を持って償え! ――《轟破嵐刃斬》!」

 ヒドラを中心に、風が無数の刃となって、嵐のように荒れ狂う。
「キシャアアアア!」「ギュガアアアア!」「ギャアアア!」
 6本の首がのた打ち回りながら叫んでいた。

 さらに追撃。
 ザンッ!

 一本の首を斬り飛ばした。
 切り口がジュウッと焼けて、焦げ臭い匂いを放つ。


 が、ヒドラは切り刻まれながらも残った5本の首を、俺に向けて揃えた。
「チッ――! フィフスフレイムか!」
 俺はまだ着地前で身動きが取れない。

「「「クォォォォ――!!」」」
 ヒドラの喉の奥で、赤い光が膨れ上がる――。準備段階だというのに、熱気が顔に当たり、和服の裾がはためいた。

 俺の背後には橋を渡る人々。
 というか、この高温が5倍になるなら、町の半分は灰になる。

 ますますヒドラの喉が赤く輝く! 
「くそっ、やばい! ――なんてな」


 俺は川面へ着地するなり、太刀を下段に構えた。切っ先を川の流れに差し込む。
「お前ら、最悪な場所で戦ってるんだよ。思い知るがいい! ――我が名に従う清流よ 猛き牙となりて あまねく天地を轟き喰らえ! ――《波轟土石流》!」

 ズドォガァァァ!!

 川の水が盛り上がると、牙をむいた竜のような激しさでヒドラへと襲い掛かった!
 水は土や岩を含み、怒涛の勢いでヒドラの首や胴体に当たる。
 ゴスッ、ドゴォッ!
 と鈍い音が連続して鳴る。

「ギャシャアアア! ――ゴポッ」「グギャアア――グガッ」
 強烈な水圧がヒドラの炎と動きを止め、石や岩がヒドラの体を砕いてえぐり取っていく。
 一瞬にして首や胴体から骨が見えた。


 ――だが、こいつには再生がある。
 俺は島に向かって大声で叫んだ。
「セリカ――!」

 その瞬間、島から美しい光が放たれた。
 夜空に上った一条の光は、角度を変えてまっすぐに落下してくる。
 ――セリカの姫騎士スキル【流星光破スターライトストライク】遠距離範囲攻撃。

 ズドォォ――ンッ……。
 飛来した光がヒドラに当たって大穴を開けた。あたりの水が冠状に吹き飛ぶ。

 さらにセリカの剣、フローズンレイピアの効果発動。
 辺りの川ごと凍りつかせる。
 もう首の根元しか残っていないヒドラが惨めな氷の彫刻となる。


「上出来だ。あとはこんがり焼いてやる――《魔鬼水斬滅》!」

 5本の首の根元を一度に切った。
 さらに返す刀で胴体を真っ二つ!

 熱した刀身によって焼かれた肉が、焦げ臭い匂いを発した。
 ド、ドォン……。
 胴体が左右に別れ、凍った水面を割る。巨大な水柱が2つ上がった。
 そして水の中へと沈んでいった。

 真理眼で見たが、首も胴体もHP0。
 もう再生しなかった。

 橋の上にいた人々が少し遅れて騒ぎ出す。
「「「おおおおお!」」」
「すごい!」「あんな化け物を!」「さすがケイカさま!」「我らの神!」
 人々は橋の上で踊り始めた。

「終わりか――いや、リオネルは無事か!?」
 人々の大部分は港の倉庫に逃げ込んで無事なのはわかっていた。
 けれど特徴的な金髪少年だけが見当たらない。

 俺は太刀の血を払って素早く鞘に収めると、水上を駆けて島へと戻った。



 島に上がるとセリカが出迎えた。急いでいたようで、息を切らせている。
「お疲れ様です、さすがケイカさまですっ」
「セリカもよくやってくれた……っと、そんなに急いでどうした?」

 セリカの顔が辛そうに歪む。
「リオネルくんが、大変ですっ!」
「なにっ! すぐ案内しろ!」
「はい、こちらです、ケイカさま!」
 セリカが金髪を後方になびかせて駆け出した。

 そのあとについていく。舗装された道に下駄の音が良く響く。
 ――いったい何があったのか。
 彼女の焦り方が気になってしかたがなかった。
GAノベルより3月15日に2巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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