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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから―― 作者:疲労困憊

第七章 勇者地固め編・貴族動乱

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第164話 王都防衛!(その4)

 夕暮れ時の曇天の下、俺は王都の北側へ向かって空を飛んでいた。
 髪が激しく乱れてなびき、和服の裾がはためく。

 1.5キロメートル先には、雲に頭がつくほどの巨大なレイス。
 城から見たときは数百メートル先だと思ったが、実際には間違えていた。
 あまりの大きさに距離を測り損ねていたのだった。

 冬枯れした平原に立つ、巨人の半透明な体は筋骨たくましかった。顔は彫りが深く威厳がある。生前は強い戦士であり、王だったことを思わせた。

 でもなぜか沈鬱な表情を浮かべている。
 目はなく、黒い眼窩が悲しげに覗いていた。


 巨人レイスの動作は遅い。スローモーションかのように、ゆっくりと動いている。
 けれど一歩進むだけで数百メートルは進む。
 しかも、足を踏み下ろすだけで大地が割れて青白く凍った。
 何かのスキルを発動しているらしい。

 王都まで、あと3~4歩の距離に来ている。絶対に侵入させてはならない。
 ただ、どうやって倒すか。
 水を撒いて浄化の魔法を唱えても、効果が薄そうだ。
 小指の爪一枚だけ浄化とか、そんなレベル。

 かつては魔王四天王の一人だった霜巨人たちの王。
 俺は高速飛行しながらステータスを見た。
--------------------
【ステータス】
名 前:ヨトゥン
種 族:霜巨人霊フロストールレイス【魔神】
職 業:使い魔 王
クラス:豪傑Lv99 死霊Lv99 キングLv99
属 性:【霜天】【闇冬】【極光】
状 態:隷属

 攻撃力:9999
 防御力:   0
 生命力:   0
 精神力:9999

【スキル】
  剛殴撃パワーストライク:威力2倍で殴りつける。
 氷結嵐撃フリーズストーム:冷気を帯びた攻撃で相手を凍りつかせて行動不能にする。複数回攻撃。小範囲。
霜生踏鳴破フロストスタンプ:大地を踏みつけ、地震とともに冷気で凍てつかせる。範囲攻撃。
氷結烈風斬ホワイトアウト:相手を永劫の眠りへといざなう。武器装備必須。

 時流氷結エターナルシフト:永遠の冬を生み出す魔法。

【パッシブスキル】
威圧プレッシャー:パッシブスキル。相手にプレッシャーを与え攻撃順位を遅らせる。
気象同調ウェザーコンバート:周囲の大気から永続的に魔力を変換取得する。ただし自分の属性と同じ大気状態でないと発動しない。
-------------------- 
 生命力0か。精神依存ってことで、これを削りきればいい。

 しかし、パッシブスキルの気象同調ウェザーコンバートで無限にMPを回復するようだ。
 しかも時流氷結エターナルシフトで自在に冬を作りだせる。
 無敵じゃないか。


 一気に浄化させるしかないが、これだけの巨体は想定外だったので、さすがに清めの水が用意できてなかった。
 あるにはあるが、今は使えない。

「ま、奥の手使う前に試しておいたほうがいいな」

 俺は、すいっと上へと飛び、雨雲の底辺まできた。
 目の前には大きなヨトゥンの顔。
 相変わらずの悲しげな顔。虚ろな眼窩が開いている。

 太刀にひょうたんの水をぶっかけて唱える。 
「蛍河比古命の名に従う、神代の時より流れしせせらぎよ、一束に集まり激流と成せ――《魔鬼水斬滅》!」

 太刀を振り上げ、空を疾駆する!
「ハァァッ!」

 ズアァァァン――ッ!

 頭から足先まで一気に切り下ろした。
 青く輝く聖なる水の刃が、ヨトゥンの山のように大きな巨体を切り裂いた!

「クォォォン……」
 ヨトゥンが銀髪を振り乱して苦しげに鳴いた。


 地面に立って《真理眼》で見上げれば、精神力が0になっていた。
 ――が。
 猛烈な勢いでMPが即座に9999まで回復した。

 俺は一つ頷く。
「ふむ。予想通りか。斬撃では倒せない。とするなら――っと!」


 ヨトゥンが体を捻って拳を繰り出してきた。
 俺は即座に斜め上へと飛翔する。

 ヨトゥンは俺がいた場所へ攻撃を加えた。
 ドゴォォォンッと工事現場でしか聞かないような轟音がして、地面が広範囲に深く陥没する。

 さらに、ヨトゥンは片足を上げて踏み下ろした。
 もう俺がいない場所への追撃。
 これまた地面が砕けて、周囲が白く霜が降りた。
 霜生踏鳴破フロストスタンプのようだ。

 ヨトゥンは攻撃に満足したのか、体勢を戻すとまた歩き出した。
 俺の存在は視界に捉えていないようだ。
 そして体が斜め横を向いたために、王都とは違う方向へ一歩踏み出していく。

 ――目が見えてないのか。
 幽霊なのに。
 生前の意志や記憶が強いと、肉体的な特徴を色濃く引き継いでしまいやすい。
 ひょっとしたら意志が強く聡明な王だったのかもしれないな。


 そんなことを考えていると、ヨトゥンは足を上げたままの姿勢で動きを止めた。
 足を下ろし、体の向きをじわじわと変える。
 王都へ向き直ると、またゆっくりと足を持ち上げ始めた。

 ――これ、誰か操作してるな。
 でないと目が見えないのに正しい位置を把握なんてできない。

 それと、操るために目を潰したのかもしれないな。
 魔王とゲアドルフは利用するためにはなんだってするようだ。
 同じ仲間だったはずなのに。
 少しだけ同情する。


 それにしてもどこにいる?
 貴族と面会していた魔族が「私が操ろう」と言っていた。
 土の魔族だったか。

 土の中にいるのか?
 俺は辺りの地面を見回した。
 冬の平原は閑散としていて、枯れ草が点々と生えるばかり。
 《真理眼》で見てもステータスウインドウは見当たらなかった。

 ――いや、まてよ。
 指示を出すなら見晴らしの良いところにいないとダメなはずだ。
 だとすると――。

 俺は上空を見上げた。
 薄暗い雨雲が低く垂れ込めている。

「いた」
 ウインドウが出てきた。
--------------------
【ステータス】
名 前:ガルゥ
種 族:邪土魔族
職 業:魔王近衛隊騎士
クラス:魔法騎士Lv70 悪魔Lv45
属 性:【魔】【腐土】

【スキル】
スラッシュ
  大地斬アースブレイク:縦一列攻撃。確率で行動不可(小)にする。
重破腐食撃ヘビィストライク:防御値無視攻撃。確率で武器破壊(中)。

 暗黒砂塵ダークストーム:真っ暗闇の砂嵐で攻撃する。 
 地震撃動アースクェイク:大地震による範囲攻撃。確率で行動不可(中)。
 魔魂使役イビルサーバント:邪悪な存在を意のままに操る。
土人形生成ゴーレムクリエイト:人型の無機物をゴーレムにする。
--------------------
 魔魂使役イビルサーバントを使ってヨトゥンを操っているんだな。

「よし。土なら水が効くな」
 太刀を構えて上空を目指そうとすると、ステータスウインドウが激しく動き回り始めた。
 どうやら俺の意図に気がついて、雨雲の中を隠れながら逃げ回るつもりらしい。

 鼻で笑いつつ、北西を千里眼で見る。
「頃合いだな。両方一辺に片付けてやる」


 すると、王都の方からどよめきが響いてきた。
 町の人たちが騒いでいる。
「だめだ! 勇者さまでも倒せない!」「逃げましょう!」「で、でもまだ外には魔物の残党が!」「もうおしまいだぁ!」

 さらにヨトゥンが一歩、歩いた。
 ズズゥゥン……と地面が重い音を立てて揺れる。
 衝撃で王都の街壁が揺さぶられて一部が崩れた。

 王都からの声が一際高くなる。
「イヤァァァ!」「キャァァァ!」「ウワァァァ!」
 言葉にならない恐怖の叫び。
 風に乗って聞こえてくる悲鳴だけで、王都がパニックに陥っていることがうかがえた。

 あと2歩で王都に着く。というか踏みつける。
 家も人も何もかもぺったんこになるだろう。
 人々の恐怖が最高潮に達した。


 その時だった。
 北西の方から土煙が上がった。
 急激に大きくなり、地響きを連ねて駆け寄ってくる。

 街壁や建物の上から見ていた人々が叫ぶ。
「なんだあれは!」「新たな魔物の群れか!」「どうなっちゃうの、あたしたち!」「いや、あの旗は――貴族軍!!」

「「「うぉぉぉ!」」」
 貴族軍が雄たけびを上げて突撃してきた。
 騎兵300に歩兵800ほど。
 町の人たちも新たな援軍に歓声で応えた。


 先頭を駆ける初老の騎士団長プレヴァーが叫ぶ。
「いくぞ! 決してひるむな! 相手の動きは遅い。同じ箇所を狙え!」
「「「おおー!!」」」
 声を揃えて果敢に突進していく。

 さらに騎士団長の隣にいた貴族ミルフォードも歌うように高らかな声で言った。
「王と民を守るのが我ら貴族の使命! このミルフォードが必ずや悪霊を撃退してみせよう!」
 マントを翻して歌うように宣言した。

 計ったような救援の到着に、街が熱気に包まれた。


 軍勢にも雰囲気が伝播したのか、さらなる声を上げた。
 しかし時間がないゆえの強行のため、全員装備は布や皮鎧の軽装で、武器も剣や槍が一つだけ。
 騎兵も1500はいたはずだが、5分の1になっているのは、残りの馬を空身で走らせ、途中で馬を変えて走り続けたため。
 徒歩の兵士にいたっては、大半が脱落しただろう。

 本来なら貧弱な装備と疲労のため、戦いにならないはず。

 王都救出の演出が最重要だったのだ。
 これで少し戦った後でヨトゥンを引かせれば、勇者すら勝てない化け物を倒したとして貴族たちの評価は跳ね上がるだろう。


 ――だが、しかし。
 俺は口元を笑みで緩めつつ、手を前に出した。
 ヨトゥンと貴族が接触する瞬間を見極める。
「これで、すべてお仕舞い――今だ!」

 パチンッと指を鳴らした。

 その瞬間、上空を覆っていた雨雲から、バケツを引っくり返したような雨が降り注いだ。

 ドドドドドッ!!

 特に、巨人と貴族軍辺りは打たせ湯の滝のように降り注ぐ。
「うわぁ!」「なんだ!」「雨で前が見えない! ――ひぎゃあ!」
 馬に乗っていた騎士が前のめりに転んだ。

 不思議なことに降り注いだ雨は、一瞬にしてぬかるみになった。
 兵士たちは次々と突然生まれたぬかるみに足を取られていく。
 貴族軍は大混乱となった。


 そして雨雲が急速に晴れた。
 夕方の赤焼け空の下に現れるのは、黒い翼を広げて飛ぶ魔族!

 浅黒い肌のガルゥは驚きの声を上げる。
「くっ! この雲は魔法だったのか――! ありえん、こんな規模の大きな魔法ありえんぞぉ!」

 俺は高速で一気に飛行しながら語りかける。
「死ぬ前に知れてよかったな、ガルゥ」

 驚き戸惑っていたガルゥがさらに目を丸く見開く。 
「我が名を知っているとは、勇者だな! ――待て! 私を殺せばジャイアントレイスは止まらなくなる――」

「ああ、知ってる。他の魔族も同じだったからな。むしろ望むところだ」
「な、なんだと!? ――貴様は何を考えて……」

 俺はニヤリと笑いつつ、ガルゥの横を駆け抜けながら太刀を振った。
「完全勝利だ――《水月斬》!」

 ザァンッ!

 頭から腰へと三日月を描くように斬り裂いた。 
「ヒギャアァァ!」
 あまりの剣撃に、ガルゥは空中で粉々に砕け散った。


 俺は空中に止まると地上を見下ろした。
 貴族軍はヨトゥンの目の前で身動きが取れないでいた。

 ――大成功。
 上空を覆っていた雨雲はただの雲じゃなかった。

 俺が前日から仕込んでいた雨雲だったのだ。
 神特製の雨雲。含んでる水の量が桁違い。

 というか俺が作った雲だから、自分にだけ雲間から光を当てるなんていう細かい動作ができたのだった。


 そして地面が一瞬にしてぬかるみになったのは、ラピシアとのあわせ技。
 だから試練の塔のアンデッド処理が終わったら街の西へと向かわせておいた。
 しかもエルフの世界樹を塩害から守るときに一緒に魔法を使っているので、今回は離れた場所からでも協力することが出来た。

 すべては作戦通り。
 貴族軍はヨトゥンの目の前で戦闘不能に陥っていた。
 そしてヨトゥンは目が見えないので、攻撃された相手を半自動的に殴りつける。

 ――もう攻撃中止を命令する奴はいない。演出的な撤退もない。

 ヨトゥンは小山のように大きな拳を握り締めて、足元に出来たぬかるみへと振り下ろす。
 晴れ渡った夕焼け空へ、兵士の悲鳴が響き渡った。
GAノベルより3月15日に2巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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