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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから―― 作者:疲労困憊

第一章 勇者試験編

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第15話 試練の塔 性格の悪い謎なぞ(3層目・後編)


 試練の塔三層目。
 コンサートホール並の暗闇が広がる空間に、幅50センチメートルほどの細い道が蛇のようにうねっていた。
 その両脇は底知れぬ深い穴が広がっている。
 時々下から風が吹き上がったり、また吸い込まれていく。
 一歩一歩、慎重に歩く。

「親父は周囲の警戒、あとかがり火に異変があったらすぐに教えてくれ」 
「任せとけ」
「セリカは荷物が多いから足元に特に注意してくれ」
「わかりました」

 《真理眼》で見たところ、ところどころに罠があった。
【崩落床】踏むと崩れる。
【バネ床】踏むと跳ねてバランスを崩す。


 俺は細い道の上で立ち止まる。
「ちょっとストップ――《水青印》」
 幅50センチメートルの床の上に魔法で線を引いた。青いインクでぐるっと罠を取り囲む。見える範囲の罠すべてを丸で囲んでいく。

 後ろで見ていた親父が言う。
「罠か?」
「ああ、踏むと崩れる床、踏むと跳ねるバネ床がある」
「こんな細い道に仕掛けるたぁ、性格悪いな」
「どうしても殺したいんだろ――行こう」

 うねうねと曲がる細い道に沿って歩いていく。
 10個ぐらいの罠を慎重に乗り越えていった。なかなか進まない。
 しかも視線を遮るものはないから、ゴールの扉がずっと見えている。
 それなのにたどり着かないのは、心を焦らせる効果があった。


 ――と。
 半時間ほど歩いた頃。
 うねうね道が広間の右端まできた。そこから折り返すように、広間の中央をまっすぐ左端まで横切っていた。ひゅうひゅうと両脇を風が吹き降ろしていく。

 足を止めて目を細める。
 すると罠が数歩ごとに設置されていた。
 しかも――。

「――道がさらに細くなったな」
 幅が30センチメートルほどしかない。
 親父が眉を寄せながら言う。
「罠も増えたんじゃねぇか?」
「ああ、そうだ」
 セリカが形の良い眉をしかめて疲れた吐息を漏らす。
「これは相当、床に注意して歩かないといけませんね」
「そうだな。――いや、いい読みだぞセリカ。よくやった」
「は、はい? そんな褒められるような……」
 セリカが困り顔で首を傾げる。


 俺は顔を上げた。天井を見る。
 真っ暗な闇が広がっているだけのように思える。
 しかし当然俺には見えていた。というか【ステータス】が見えていた。
--------------------
【ステータス】
名 前:ダークネススパイダー
属 性:【闇】

 攻撃力: 800
 防御力: 100
 生命力:1500
 精神力: 300

【スキル】
 蜘蛛の糸:糸を吐いて攻撃。速度低下。
 蜘蛛の網:敵一体を大きな網で絡め取る。行動不能。
  毒の牙:麻痺と睡眠の効果。
  酸の液:相手を溶かす。
--------------------
 あとは【黒糸の巣網】も表示されていた。


 俺は口の端を歪めて笑った。
「ふんっ、足元に最大の注意を払わせておいて、上から襲わせる。性格の悪い設計者が考えそうなことだ」
「えっ、なにがでしょうか?」
「どうかしたのか、ケイカ?」
 俺はあごで上を示す。
「上に真っ黒い蜘蛛がいる。ダークネススパイダーだ」
「まじかよ!」
「どうしましょう、ケイカさま?」

 さっそく魔法を唱えた。
「みんな足を踏ん張れよ。……我が名に従うそよ風よ 荒れ狂う刃となりて 暴れ狂え――《暴風刃斬》」

 ゴォォォ――ッ!

 天井付近で嵐が起こった。
 風の刃が吹き荒れて、バツン、ザァンと鈍い音を幾度も響かせる。

「キシャァァア!」
 蜘蛛の断末魔の叫びが広大な暗闇に反響した。
 そして体液を噴き出しながら穴の底へと落ちていく。
 その姿は家ぐらいもある大きさだった。
 ――この細い足場でまともに戦ってたらやばかったな。


 嵐が収まり、静けさが戻る。
「親父、背中のかがり火は大丈夫か?」
「なんともないぜ。緑の炎だ」
「よしっ、行くぞ」
「おうよ」
「はいっ」
 俺たちはまた細い道を、罠を避けながら慎重に歩いていった。


 細い道を渡り始めてから1時間。
 ようやく向こう岸へとたどり着いた。
 教室程度の広さの床。
 目の前には大きな扉と、5本の蜀台。
 扉の一部が格子状でその後ろに下り階段が見えた。
【階層扉】次の階層へ通じる扉。
【緑火の蜀台】緑の炎を灯した5本のロウソクを奉げると鍵が手に入る。

 罠はなさそうだった。
 俺は背中のかがり火を降ろす。
 ずしっと重みで床が揺れた。

「やれやれ。セリカ、さっそくろうそくを灯して蜀台に差してくれ」
「はいっ」
 セリカは背負い袋からロウソクを取り出し1本ずつ火をつけては差していった。
 5本灯した時、蜀台にささったロウソクの炎が大きくなり、大きな緑色の光の固まりとなった。

 そして緑の光の中に、2つの鍵が現れた。
 一つは青い光に包まれ、もう一つは赤い光に包まれている。
 同時に文字も現れる。

 セリカがすぐに美しい声で浮かんだ文字を読み上げた。
「えーと『男だけで進むなら青い鍵を、女だけで進むなら赤い鍵で開けよ』と書かれています」
 親父が太い首を捻る。
「おいおい。男女混合パーティーだったらどうすんだ?」


 俺は無言のまま目を細めて鍵を見た。
【男ダミーキー】階層扉に使うと毒ガスが出る。パーティー全員、もだえ苦しんで死ぬ。薬、魔法、無効。

「ここにきてまで罠かよっ!」
「どうした、ケイカ?」
「男用の青い鍵を使うと毒ガスが出て全員死ぬみたいだ」
「なんじゃそりゃ。じゃあ正解は女用の赤い鍵か」


 俺は赤い鍵を見た。
【女ダミーキー】テンタクルスライムが降ってきて、服と鎧だけを溶かし、触手で手足を絡めとって開かせ、徹底的にもてあそばれる。死ぬまで快感を与え続ける。

 思わずセリカに目を向けてしまう。
 セリカは、はっとして大きな胸を細い両腕で隠して身をよじった。金髪を乱し、細い眉をしかめて睨んでくる。
「い、今、何か、ものすごくいやらしいことを考えられましたね、ケイカさまっ!」
「な、なぜわかる!」
「やっぱりですかっ! 好きな人の考えてることぐら、い……わかり」
 いきなりセリカは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 親父がニヤニヤと笑って下手くそな口笛を吹く。
「ひゅーひゅー、やるねぇ」
「ち、違います、その勇者さまとして、好き、なので……うぅ」
 言葉の語尾がかすれて消える。ますます顔が赤くなる。


 俺は、困ってしまって頭をかきつつ話題を強引に変えた。
「赤い鍵は触手スライムが落ちてきて死ぬまでいろいろされるらしい。どちらも罠だ」
「ほう。両方とも罠ってか。今、扉を調べたが魔法の鍵が掛かってるぞ」
「何か見落としがあるのか?」
 扉を見て、蜀台を見て、今まで来た細い道を振り返った。
 けれども何もなかった。

 セリカが心配そうな声で言う。
「どういたしましょう……? 言われたとおりしたはずですのに」
「クリアさせる気がなかったんじゃねぇのかね」
 親父が腕組みしながら言った。


 俺は顎を撫でつつ考え込む。
「特に問題はなかったはずだ。殺す気まんまんなダンジョンなのは明白だが、クリア不可能なものは作らないとも断言できる」
「どうしてでしょう、ケイカさま?」
「そっちの方が楽しいからだよ。クリア不可能だと、いつ死ぬかの楽しみしかない。ところがクリアできるのに挑戦者が迷いながら失敗して死んでいくと、正解を知る者は挑戦者のバカさ加減を笑えて、何倍も楽しくなる」
 セリカの眉間に嫌悪の深いしわが寄った。
「……そんな、最低なことを喜ぶ人がいるのですか……」
「ああ、いるんだ。このダンジョンはその最低な性格の奴が設計してる。だからこそクリア方法がある」
 ――魔王だとは言わない。二人が萎縮するかもしれないからだ。

 親父が険しい顔をして言った。
「でもよ、最初の指示通りやっただろ? ロウソクに火をつけて運べば扉が開くとかなんとか」
「確かにそうだが……詳しくはなんだったかな?」
 俺が尋ねると、セリカが長い睫毛の瞳を閉じて考えながら口を開いた。
「覚えていますわ――確か『ろうそくにかがり火の炎を移して進め。さすれば緑の扉は開かれん』だったかと」
「緑の扉……なるほど。だから青や赤の光は違うのか――まてよ?」
「ケイカさま?」


 俺は床に降ろしていた、かがり火に近付いた。
 緑の炎がごうごうと絶えることなく燃えている。
 よく見ると、濃緑の光の固まりが見えた。
【階層鍵】次の階層へ続く扉を開ける鍵。

 俺は呆れた笑いを浮かべつつ、袖を捲り上げてかがり火の中に手を突っ込んだ!
 ひっ、とセリカが悲鳴を上げる。
 俺は抜き出した手を二人の前に見せ付けた。
「これだ」
 緑色の鍵が光っていた。
 親父が呆れて叫ぶ。
「そんなところに出現するのかよ! これ、かがり火運んでなかったら、5回行き来してたところだぞっ!」
「ほんとにな」
 まともにやっていたら、魔力と時間と集中力をロスさせる、とてもいやらしい迷宮といえた。

 セリカが駆け寄ってきて、すべすべした白い手で俺の腕に触れた。
「ケイカさま、それよりお怪我は?」
「いや、大丈夫だ。これぐらいなんでもない――《快癒》」
 みるみる火傷が治っていく。
 セリカが青い瞳に心配そうな光を満たして俺を見上げる。
「今更ですが、あまり無茶はなさらないでくださいね。わたくしが手足になりますから」
「ばか。その綺麗な肌に傷でも残ったらどうするんだ。俺がやるよ」
「うぅ……ケイカさま」 
 セリカは悔しいのか嬉しいのか。赤い唇を噛んで上目遣いで睨んできた。


 俺は袋を背負うと鍵を持って扉へ向かった。
 鍵を入れて回すと、カシャンと軽快な音を立てて開いた。
 扉を押しながら言う。
「『緑の扉』って言葉と、親父の言った『男女混合だったらどうするのか』というのが最大のヒントだったんだろうな」
「失敗の代償が即死じゃ、やってらんねぇぜ」
「まったくだ」

 奥には下り階段があった。
 覗き込むと、中は明かりが少なく薄暗い。
 妙に空気が湿っぽく、石の壁には水滴が浮いていた。

「……今、入って何時間だ?」
「6時間ちょっと、と言ったところだな」
「あと4時間か……残り2階層、頑張ろう」
「おう」
「はいっ、ケイカさま」
 信頼と尊敬のこもった声に励まされつつ、俺は階段を下りていった。
GAノベルより3月15日に2巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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