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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから―― 作者:疲労困憊

第五章 勇者冒険編・東

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第117話 ナーガの夜明け、人魚の挑戦

 外輪船の旅が暇なので、俺は妖精の扉を使っていろいろ出歩いていた。
 一度、屋敷に戻って御神体のある物置に世界樹の枝を仕舞う。妖精界の宴会が終わったらハーヤかヘムルじいさんに武器化を頼もう。

 次に人魚の島へ向かった。
 扉を新たに設置して使用した。

 砂浜で、漁に出る前の族長ガーランドと会った。筋肉質なたくましい体が昼の日差しに映える。
「これはケイカさまではないか。どうされた?」
「前に話してた人魚の誤解を解く話を進めようかと思ってな。試しに2人ほど人間の港町で暮らしてみないか? あと別の数名を選んでちょっとした仕事を頼みたい」

「どのような者がいい?」
「前者は人間に捕まらない、だまされないような人魚。後者は劇の演技が得意な人魚がいい」


 ガーランドは頷くと、近くの岩場にいた桃色の髪の少女と、漁の準備をしていた灰色の髪の男を呼び寄せる。
「アリア、パーカー。ケイカさまと一緒に行ってくれるか?」
「はーい」「わかりました」
 小悪魔的な表情をする十代後半の若い少女と、執事的な雰囲気を持つ渋いイケメンのおじさんだった。

「演技が得意な者は、すぐにはわからないのであとで知らせる。急ぐか?」
「数日中に欲しい」
「では2日後にまた来てくれ」
「わかった。では、行こうか……抱えたほうがいいか?」
 浜辺に佇む2人の人魚に尋ねた。

 パーカーが静かな声で答える。
「わたくしは風魔法が使えるので浮かべます」
「そうか。えっと、アリアは?」
「使えるけど……ケイカさまに抱き上げてもらいたら嬉しいなっ」
「――浮遊レビテーション
「あ、なにするのよ、パーカー! アタシまで浮かべることないじゃないっ」
「勇者さまにご迷惑をお掛けしてはいけませんから」
 ぷくっと可愛らしく頬を膨らませるアリア。でも流し目で俺を誘うのを忘れない。
 ――騙されないかもしれないが、逆に騙すタイプかもしれないぞ、こいつ。


 浮かんだ2人の手を引いて、妖精の扉へと向かった。
 人魚は妖精なので、そのまま通れた。

 出た先は港町ドルアース。
 崖の上に立つ町長の別荘は階段を下まで降りると、プライベートビーチに通じていた。

 夜明け前の海岸。
 2人を青黒い海に入れて言う。
「岸沿いに西へ行ったらドルアースの街がある。その手前に入り江ケイカビーチがあってナーガたちが見張りをしているから、俺の名前を出してしばらくそこで待機しててくれ」
「わかりました。――行きましょうお嬢さま」「はーい」
 二人は身を翻して、水面を尾びれで叩いた。そして泳いでいった。
 洗練された泳ぐ姿が美しい。

 千里眼で見ていたが魔物に襲われることもなく、夜警のナーガともすぐに話がついたようで、無事ケイカビーチに入った。
 ナーガたちは突然の人魚の出現に少なからず驚いていた。


 それから俺は薄暗い街道を歩いて、まずは高台にある町長の屋敷へ。
 こんな時間で悪いと思ったが、町長のフランクはすでに起きて仕事をしていた。
 リオネルを移籍させることと、別荘を借りてナーガたちなどと利用することを了承してもらった。この「など」が重要だった。
 別荘は俺の名前に変えさせた。

 町長の屋敷を出ると夜明けの朝日がさした。
 坂の上から見下ろす、漆喰の白壁に赤い屋根の街並みが輝く。
 人々が起き出す。漁師の朝は早い。それに合わせて朝食を出す店が開店する。

 驚いたことに、行き交う人に混じってナーガたちが普通に大通りを歩いていた。水着とパレオの上に上着を1枚羽織った姿。蛇体をくねらせてずるずると進む。
 ナーガたちは人に混じって屋台で朝食を買ったり、喫茶店で珈琲とパンを食べたりしている。
 街の人とも気軽に話し、時には店のおばちゃんと冗談を言って笑いあっていた。


 そんな光景がさも当たり前のごとく展開している。
 人とナーガがともに生きる街。
 ――この風景、俺が作ったんだよな。
 金と信者が欲しかっただけなのに。自分のためにやったことなのに。
 なんで見てるだけで、こっちまで笑顔になってしまうんだろう。
 俺は嬉しいような楽しいような、浮っついた気持ちになってしまい、思わずオープンテラスでサンドイッチを食べている若いナーガに話しかけた。

「おはよう。ナーガたちも早くから起きるんだな」
「おっはよー、そうですよ~。わたしは朝一の高速便なんです。この黒いの飲むと目が冴えるんですよ~……ていうか、どちらさまです?」
「ああ、すまん。勇者ケイカだ」
 懐から【勇者の証】を見せつつ言った。

 ナーガの切れ長の目が見開かれた。机に蛇体がぶつかってガタッと鳴る。
「こ、これは、申し訳ないです! ナーガ族の恩人ケイカさまに軽い口をきいてしまって! 本当にごめんなさい!」
「いやいや、いいんだ。俺の顔を知らないんだから――あれ、でもそうか! この街に俺の銅像はなかったのか。あとでケイカビーチにでも置こう」
「それならみんなも顔を覚えられますので、とってもいいかも! 毎日綺麗に磨きますっ!」

「それで、族長のダリアか副長のイエトゥリアはいるか?」
「イエトゥリアさんは昨日の午後便だったので王都泊まりです。ダリアさんは非番かな? 港にいるはずです」
「ありがとう。仕事前の忙しい時間に邪魔して悪かったな」
「いえ、とんでもないです! お話できて嬉しかったです!」
 ナーガはイスから立ち上がってぺこぺことお辞儀をした。言葉に嘘はないようで、頬を染めてぼうっと憧れの眼差しで俺を見ていた。

 ――やってよかったな。
 川下りの最中イエトゥリアと偶然出会い、ナーガ族の居場所を作ってやると宣言して。
 まさかここまでになるとは予想してなかった。
 出会った頃はイエトゥリアもダリアも生意気だったな。
 そんな事を思い出したら、ふっと笑みが漏れた。

       ◇  ◇  ◇

 緑の鱗に覆われたたくましいダリアは港にいた。他のナーガよりも一回り大きい。
 桟橋の上で船への荷物の積み込みを指示している。

 すぐに俺の姿に気付いて、激しく蛇体をうねらせて来た。大きな笑顔を作って。
「ケイカさま! 久しぶりだな!」
「おー、元気そうだな、ダリア。非番じゃないのか?」
「新しい荷役屋との初仕事なのでな。手筈を教えておったのだ……ところで、こんな朝早くからどうしたのだ?」

「ちょっと頼みたいことがあってな」
「ほう。我にか? それとも我らにか?」
「うーん、ナーガ族全員かな。仲良くしてもらいたい種族を連れてきたんだ。ナーガたちほど強くないから、時には守ってやって欲しい」

「うん? ケイカさまの頼みならそれぐらい構わぬが……いったいなんの種族だ?」
「直接会ったほうがいいだろう。ケイカビーチにいる」
「わかった――シェリル、ここを頼むぞ。では海から行ったほうが早い。上に乗ってくれ」
 シェリルと呼ばれたナーガは敬礼して答えた。

 ダリアが海に飛び込んだ。俺はすぐに蛇体の上へ飛び乗る。
「話が早いな」
「では行くぞ」
 ダリアは海を掻き分けて泳ぎ出した。


 眩しい朝日の差す中、ケイカビーチに着いた。
 ダリアは人魚を見るなり言葉を失っていた。
「なっ……」
 俺は互いを紹介した。
「こいつはナーガ族の族長ダリアだ。こっちの少女人魚がアリア、男人魚はパーカーだったはずだ」
「アリアです。よろしくかしら、ダリアさん」「お初にお目にかかります、パーカーでございます」

 ダリアは完全に固まっていたが、急に頭を振ると俺の肩に掴みかかってきた。
「何を考えておるのだケイカさまは! 人魚を人里に連れてくるなど、危険極まりないではないか! 人の欲望は果てしない。我らでも守りきれんぞ!」

「やっぱりそうか。でも、人魚だってナーガ族と同じだぞ?」
「どういう意味だ!?」
 目を剥いて尋ねてくるダリア。


 俺は腕組みをしながら言った。
「ナーガ族は魔王によって人と仲違いさせられ住む場所を失った。人魚もまた食べれば若返るとの迷信が広まり人と暮らせなくなった。ずっと考えていたんだが、その迷信を広めたのって、いったい誰なんだろうな?」
「「「えっ!?」」」
 そう。
 なんで異世界なのに、地球と似たような迷信があるのか。
 そんな偶然はありえない。誰かがわざと流したんじゃないかと、ずっと思っていた。

 ダリアが声を震わせる。
「ま、まさか、その噂を広めたのが魔王であると……?」
「確証はないがな。ひょっとしたら昔いた海の四天王かもしれん。思ったんだが、お前たちほど人から制海権を奪うのに邪魔な存在はいないからな。人とナーガと人魚が共同戦線張ったら、かなりやっかいだ」


 人魚のパーカーが顎に手を当てて考える。
「ふむ……確かにそうですな。人は数が多いものの船でしか移動できず、水中からの攻撃には対処できない。海ではカモでしょう。しかし我らが共同で守って戦えば、魔物たちも苦戦は必至かもしれません」
「そうなるな。お前たちでは倒せない魔物であっても、海面にさえ押し上げればあとは人間たちの数の暴力でどうにでもなる」

 ダリアが驚きで目を見開く。
「た、確かに。海を荒らしたメテオホエールの時も、魔法で水面に追い立ててから、縄を結んだ銛を打ち込みまくって潜れないようにし、勇者が倒したそうだ」
「な、なるほど~。それならアタシでも手伝えるかも?」
 か弱いアリアが感心して頷いた。濡れた桃色の髪が揺れる。

 ダリアは深く頷くと、大きな胸をドンッと叩いた。
「わかった! ナーガ族の誇りをかけて、そなたたちを守ろう。そして迷信を覆すために尽力しよう!」
「あ~、そのことなんだがな。迷信は否定せずに利用する方向でいくから」
「ん? どういうことだ?」
「それはだな……料理を使って……」
 俺は料理を使って迷信を利用する方法を話した。


「そ、そんな方法を! ケイカさまのお考えか!? や、やはり……高速船もそうだったが、いつもとんでもない考えを思いつく!」
 ダリアは空いた口が塞がらないといった感じで、あんぐりと開けていた。

 俺は言う。
「ナーガ族は長生きするか?」
「人よりは長いぞ?」
「だったら、それは人魚の料理のおかげと言うようにしてくれ。あとは勝手に噂が広まる」
「わかった。それぐらいならたやすい……さらっと、よく思いつくな。さすがだ」
「まあな。勇者だからな」


 と、アリアが平たいお腹を撫でた。
「料理って。アタシ、お腹すいちゃったぁ。パーカー、魚取ってきて」
「はい、お嬢さま。話し合いが終わりましたら、すぐに行ってまいりましょう」

 その言葉に俺は首を捻った。
「ああ、そうか。お前たちも食べるためには仕事しないといけないな」
「そっか。人と暮らすってことはお金稼がなきゃだもんね。さっき、警備のナーガさんと話したけど、みんな船や港で働いてるって。羨ましいかな」

「人魚の得意なことってなんだ? 男たちは漁をしてたが、ナーガみたいに船を引くか?」
「うーん……ナーガさんたちほど力強く泳げないし、ちょっと無理じゃないかな?」
「他にやってたことと言えば、歌と演奏か」
「アタシ、歌はとっても得意なのよ! みんなめろめろになっちゃう」
「ほう」
 ――島の宴で聞いたときは、歌声に魔力がこもっているように感じられた。名物になるかもしれない。


「よし、それはいいな。ただ陸に上がるのはまだ危険だ。まずはケイカビーチでときどき歌謡ショーをして知名度を上げる。顧客が増えたら、別荘で食事を出しながらディナーショーだな」
「では、わたくしが楽器を弾きましょう」
 パーカーが胸に手を当てて自身ありげに言った。

 ところがダリアが太い首を傾げた。
「別荘? それはなんだ?」
「ああ、まだ言ってなかったか。ここから東に行ったところにある町長の別荘を無期限で借りた。プライベートビーチから階段を使って崖上の建物に入れる。ナーガや人魚で使ってくれ。ちなみに別荘の名前はケイカハウスという」
 ――名前を売り込むチャンスは逃さない。

「ほう。それはありがたい。最近人数が増えて住む場所が手狭になっていたからな」
「有効に使ってくれ。俺や勇者パーティーも利用するから――ああ、言っておかないと。頭にクラゲを被った新種の魔物ルーナが利用するが、味方だから攻撃しないでくれ」
 ルーナは侯爵のところで練習を終えると妖精の扉を使ってドルアースの海まで来ていたのは、勇者の証を通して知っていた。
「ふむ、わかった。それに別荘はドライドとも話して利用させてもらおう」


 その時、ミーニャの声が聞こえた。
『ケイカお兄ちゃん、ナナが変な声で鳴いてる』
 お守りを通じての連絡。俺の巫女なので声は鮮明だった。

「すまん、急用ができた。――じゃあ、ダリア。あとは頼んだぞ。アリアもパーカーも大変だろうが、頑張ってくれ」
「任せておけ!」
「うん、頑張ってみる!」「精一杯、力を尽しましょう」
 芯のある強い声を背に、俺は急いでケイカハウスへと戻った。

GAノベルより3月15日に2巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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