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農業の崩壊。

※このお話はフィクションです。登場人物、団体、その他全てが実在のモノとは関係ありません。全てが空想の世界のお話とお受け止め下さい。
隠された事実
隠された事実 その3
 それは、ノゾミにとって大きな感動であった。

「ホントなのですか。素晴らしい・・・。
 素晴らしい発明です。博士・・・」

 元々薬学博士を目指していたノゾミは、マゾカが3年前にいきなり持って来た、この向マゾヒズム薬の出所に大変な興味を抱いており、その開発者に対し多大な尊敬の念を持っていた。
 一度会ってみたいと思っていたのだ。

 ただこの薬品が表だって許可を得た新薬ではなく、影で秘密裏に製造され、しかもごく少数の限られた仲間内での違法薬であったのだ。その為、自らマゾカに問い質すことは避けていたのである。

「ノゾミ、君にも内緒にしていてすまなかった。本来なら君には、真っ先に伝えたかったのだが、私の一存で教えることは出来なかったのだよ。すまない」

「いえ、そんな・・・。
 その意味は、私も理解しておりますから」

 マゾカは信頼する秘書にまで黙っていなければならなかったことは本位では無かったのだが、TTPP大魔法反対議員同盟の間での取り決めで止むを得なかったのだ。

 しかし、ここに来て日の魔国が加速度的にTTPPに浸食される状況を考えた時に、秘密に行動する制約感が、返ってTTPP潰しへの障害になるとの考えになり、信用出来る者とは極力秘密を共有しようと言う動きになったのである。
 今回、マゾカがノゾミとミツコを連れて来たのはその行動の一環でもある。

「ノゾミは、大凡想像はついていると思うんだが、ミツコも居ることだし一応詳細を説明をさせてくれ」

「はい、お願いします」

 ノゾミは目を輝かせながら応え、ふとミツコの行動が心配になり、顏を覗き込むと、以外にも珍しく真剣な顏で頷いていた。

 へ~、ミツコも興味があるのか・・・。

 ノゾミは以外なミツコの対応に関心しつつ、マゾカの話に耳を傾けた。
 マゾカは左右に座る二人の顔を確認してから、ゆっくりと話し出した。

「元々この薬は、サディスト症候群に対する治療薬として博士が開発した薬品なんだ。
 人間にはサド型とマゾ型が居るのは言うまでもなく承知のことと思う。まあ、中には共存している人もいるが・・・。

 このサドとマゾだが、その内マゾ型というヤツは直接人に害を及ぼすことは、まず少ないから問題は無い。しかし、サド型と言うヤツは厄介で、我欲が強く、攻撃的で、優位性を好む傾向があるのは、感覚的に分かると思う。

 ノゾミは既に察していると思うが、博士の開発したこの”向マゾヒスト薬”は、簡単に言うと、このサド型をマゾ型に変えてやろうと言う薬品で、向精神薬の一つにあたるんだ。

 数値的に言うと、博士はこのサドマゾ値を[-5]~[+5]に区分しており、0を平均的人間としている。+がサドで、-がマゾ型を表している。
 この薬を適量投与することにより、この値を平均2ポイント弱下げることが出来るんだ。

 私たちが取り敢えず行っている戦法は、その効能を利用して奴らの貪欲までの自己利益主義に対する気持ちを、一人でも多く変えてやろう。そう言う地道な戦法なのだ。知っての通り陰からこっそりとな・・・。

 単に、致命傷を与えずに弱体させている訳ではないんだ。そうですね、博士?」

 語尾を少し言いずらそうにして、マゾカは残りの話をノノグチ博士にふった。

「その通り、利点だけを言えば100点満点だ。
 マゾカ君も私の前で言いにくいのだと思うから、私の口から欠点を付け加えさせて頂くよ。

 この薬は相手の本質をマゾ型、即ち”攻められ好き型人間”に変えるだけの薬なんだ。
 ただ、ある程度性質を”攻められず好き”に変えたるだけであり、相手の行動や考え方までを変えられる訳ではないんだよ。単に気持ちが衰えているだけなんだ。

 だから、投与された本人の意思が周りに及ぼす様な効果は殆ど期待が出来ないんだよ。
 そう言う意味では地道な作業となってしまうんだ。

 元々の開発の意味が治療薬だから、それ程強い薬でもないんだ。
 それにこの薬の効能は持って、5年がいいところだ。人によっては1年も持たなかったりする。だから根本的な打開策となっていなるのは非常に難しいんだよ」

 博士が話を終える頃には、マゾカとノゾミの気持ちはすっかりなえてしまい、暗い雰囲気に包まれそうになる。しかし、そんな時でもミツコは一人明るい。

「へ~、先生があいつらをやっつけているお注射って、そんな薬だったんですか~、凄いですね!
 ねねね、ノゾミ姉さん?」

 怒っている時以外は、どんな時でも明るいのがミツコなのだ。そんなノー天気なミツコに、
 
「おまえ・・・」

 と言いかけて、ノゾミは言葉を止める。

 この話はノゾミもある程度は予想していた内容であり、マゾカに内緒でミツコにも話してあったことなのだ。だから、本来はミツコがちゃんとノゾミの話を聞いていれば、全く驚くことではない話しなのである。

 それでも、言葉を途中で止めたのは、このミツコのノー天気さが、何か明るくさせてくれる。そんな気がしたからだ。それに、それよりも肝心なことを、博士に聞かなければならないことがあるのだ。

「先生、博士の畑のことですが・・・」

 ノゾミが小声でマゾカに促すと、それにマゾカは小さく頷いてから口を開いた。
 
「博士、ところで畑はどうされたのですか、あんなに荒れ果ててしまって・・・」

 外の畑がすっかり荒地になってることが、マゾカの一番気になっているところだ。

「マゾカ君に少しでも”向マゾヒズム薬”を分けてあげたかったんだが、奴等の罠に嵌まってあのザマだ。申し訳ない」

「いえ、そんな・・・。
 私達も秘密で栽培をすることが出来ております。なんといっても我が国の主要農産物の”コメー”と全く見分けの付かない苗であることが。秘密の栽培には助かっております」

 マゾカは褒め言葉で言ったつもりであった。だが、

「その見分けの付かないところで。やられてしまったのだよ」

 正反対の言葉が返って来てしまった。

「それは、どう言うことでしょうか」

 マゾカは、不思議そうに博士を見詰めた。

「この辺り一体は、元々コメーの産地であった。マゾカ君が3年前来た時はそうだったはずだ。
 覚えているだろう」

 すっかり忘れてしまっている記憶力には蓋をして、マゾカは控えめに覚えているふりをして肯く。

「ところが、今は見たと思うが、一面が胡散臭い”大魔豆”ばかりだ。
 これも、TTPP大魔法の施行のせいでなのだよ。

 TTPP大魔法により、一方的な農業の保護と言うことで関税だけではなく、農家の個別保障制度までもが撤廃されたのは知ってることと思うが。え~と、何年前だったかなぁ・・・」

 博士が思い出すよりも先にマゾカ割り込む。

「はい、5年前です。
 あの治外法権の”ISD毒饅頭条項”の下に、複数のエゴリカ企業から農家の個別保障が違反だから訴えると、政府を脅されたのがきっかけでした。

 所詮、裁判を行うのは魔界銀行傘下の”魔界投資紛争解決センター”と言うところなのです。
 どうせ負けることは解っている。それならば、いっそ違約金を払わないで済む様にと、政府はエゴリカと内々に農家の個別保証を取り止める約束を結んでしまったのです。

 一応、エゴリカもその2年後に同じく廃止すると言う不平等ながらも、一応一方的ではないと言う表向きの元にではあったのですが・・・」

 マゾカの言葉は歯切れが悪い。それはその後のシナリオに、自分が気付かなかったもどかしさからである。
 マゾカは続ける・・・。

「それで、それまで間違い続けていた政策による小規模野菜農家の生活苦からの離農と、関税の自由化によりコメ―農家の離農に加え、個別補償制度が無くなったことで、食料自給率の低下に拍車がかかってしまいました。いや、拍車どころかムチを入れてしまいました。

 TTPP賛成論者はコメ―は、海外農家と闘えると言ってましたが、結局はTTPPが起こした産業の空洞化での大量失業と賃金の低下が起り、我が国の高いコメ―は売れなくなってしまった。
 更に同時に関税撤廃によりコメ―が売れると分ったエゴリカ国のコメ―農家の意識の変化により品種改良されてしまった。そうなると全く国土の狭い我が国に勝ち目はないのさ。
 だから、あれ程私たちは反対したんだ。全く甘い奴らだ・・・」

 マゾカは、途中から怒りの言葉に変わってしまい拳を握り始めた。そして続ける。

「そして、待っていたかの様に個別保障制度が撤廃された翌年に、ご存知の通り世界的な不作がやって来てしまった。その為、食料自給が出来ない我が国は全く弱い立場に陥ってしまった。
 食料を輸入をしてもらう条件と引き換えに、サドリカの農業保護政策の継続を認め、その保護費用の半分以上を支払うことになってしまったのです。

 それどころか、唯一国民の反対でサドリカも押し切れなかった、サドリカでさえも許可になっていない遺伝子組み換え作物の許可までもが、権限の諮問機関”バイオ食料魔法国家技術委員会”を作らさられることにより、事実上の権限も握られ、受け入れることになってしまいました」

 結局、TTPP締結により自国の農業の既得権益を止めるところか、他国のもっと大きな既得権益に加担することとなってしまったのです」

 うな垂れるマゾカ。
 ノゾミは出来ればそんなマゾカを慰めたかったが、そんな態度は失礼ではないかと自重いていた。
 ところが、気が付くとミツコがマゾカの背中に手を当てているのである。
 その大胆さに、

 ミツコ~、偉そうに、くそ~・・・。

 とムッとはするが、取り敢えず怒れる場面ではく、気持ちを飲み込む。攻めて何か言葉をと思うが、そこに博士がマゾカの言い難い部分を代弁した。

「あれは、食糧危機魔法だったんだろ」

「はい、恐らくは。実際はそれ程でも無かったのだが、マスメディアを通じて世界の人に掛けた”意識魔法”だったと思います。まんまとハメられてしまいました」

「それは君のせいじゃないさ・・・」

  今度は博士にやられてしまうノゾミである。

 それぞれが、それぞれの気持ちでしんみりと暗くなっていく。
 窓から射すオレンジ色の光は、その雰囲気に拍車を掛ける様に室内の四人を寂しく照らしている。いや、三人である。一人は至って元気一杯。 

「は~い!その~、さっきの”ISD毒饅頭条項”って言ってましたけど、一体何ですか~?」

 ミツコが元気に手を挙げて質問する。

「ミツコは元気だな~」

 そのノー天気さにマゾカが笑って見せる。

 それを見て、

 しまった、またミツコにやられた!

 そう思うノゾミであった。

<つづく>

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