第九十八話 ほろ酔い
本鈴が今にも鳴ろうとする時間。扉付近から、話声が聞こえてきた。
「あれー、辰美どうしたの?そんなところで突っ立っていないで中に入ったら?」
「あ……でも……」
「いいから入ろ?おはよー!みんな!」
副会長がテンション高く友達にあいさつをする。その後ろからおずおずとついて来ているのは……タツミである。二人が教室に入ってきたのと同時に、本鈴が鳴り響いた。ぎりぎりまで入ることをためらっていたらしい。
「今、旦那ご指名のお客様が御来店なさいました」
「……どこから突っ込んでよいものか」
今の俺に、その突っ込みどころ全てを突っ込めるほどの精神力はないのだが。
「本鈴鳴ったのに、何で健三さんは来てないんだ!」
「突っ込むべきところは、そこではない!」
健三さんが遅いのはいつものことだから!
……それが当然と思ってしまうよう、俺たちを洗脳した健三さんはある意味凄い。最低限の、担任教師としての仕事くらいはしっかりしてください。
「旦那、石川さんと話とかせんの?」
「……別に話をする必要はないだろ。用件もないし」
「それが本音か?素直になれよ」
「……単純に気まずいだろ。……あんなこと言うんじゃなかった……」
「旦那も少しは酒に酔ってたんだな」
進められても舐める程度にしか飲んでなかったはずだが、その可能性は大いにあり得る。そうでもないと自分の行動が信じられん。
「……くそう、こんなことなら前後を失うくらい豪快に飲んでおくべきだったか……!」
そうすれば、少なくとも今こうして悩むことはなかったわけである。……意識がないうちに何かを口走ったり、奇妙な行動をとっていたかもしれないが、それはそれとして。
「旦那が犯罪をしておけばよかったと悔やむ日が来るとは思わなかったよ」
犯罪と言われればその通りだけれども。それでも今は自責の念ばかりで心が埋まっている。それならいっそのこと―――と思うのも人情ってもんだろう。
「……はーい、席についてください……うおっぷ」
「どうしたんですか先生?気分が悪そうですが」
「宴会で飲みすぎまして……うおぷ……朝から二日酔いが激しいんですよ……げぷ」
…………。
「旦那はああなった方がよかったと」
「……すまん。それ以上は言わんでくれ」
人間、あそこまでは落ちたくないものである。
……お願いですから、仕事場(しかも学校)に二日酔い(今にも吐きそう)で来ないでください……。
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