第八話 救済
「……ん。おい三井、そこの女子は誰だ」
ようやく小倉さんが、こっちで起こっている現状に気付いたらしい。
「小倉さん、こちら、転入生で、一年の、石川さんで、入部希望、です」
「どうした?言葉が途切れ途切れになっとるぞ。涙目のようだが、怪我でもしたか」
その通りです。しかも現在進行形で怪我が酷くなってるんですが。もう小指の細胞の90%が立ち直れない傷を負ったに違いない。だから早く足どけてください保護者さん。
「……顧問の先生ですか?」
おおビビってるビビってる。小倉さんもあまりプレッシャーを与えてやらないでください。素人ですから。一般人ですから。
「ああ、小倉という。体育教師をやっとる。兼、水泳部顧問だな」
「よろしくお願いします」
「ああよろしく。そこに掛けてくれ。入部は決定でいいのか」
「はい」
「それなら入部届けに記入してもらう」
「わかりました」
小倉さんに気押されず、しっかりと答えるタツミ。あんたは立派だよ。そして保護者。黙って立ってないで練習を見に行ってやれ、俺の足を踏むのを止めて。土下座で止めていただけるのであればいくらでも、むしろ喜んでさせて頂きますのでどうかご検討くださいお願いします。
「古木、浜口たちのメニュー続けさせろ。手を抜くようなら最初からやり直しだと伝えとけ」
それを聞くと、保護者はしぶしぶ足をどけ、プールサイドへと去っていった。若干こちらを気にしながら。
……そ・れ・に・し・て・も。
神だ!小倉さん神だよあなた!俺を救ってくれたのは、キリストでもブッダでもなく小倉さんという名の神だった!
「……おい三井。何をやっとる」
「土下座です」
有言実行は俺のポリシーだ。今なら喜んで小倉さんの靴の底を舐めることができるだろう。それほどまでに足の痛みはやばかったのである。今もまだ痛いけど。
「……何があったのかは知らんが、不気味だから止めろ。それとさっさと着替えて泳いで来い。遅刻したから時間もないだろう」
「仰せのままに」
なんだってやりましょう。ただし、キックが打てるか自信ないので悪しからず。理由を聞かれても正直に答えられないのが痛い。保護者に報復されそうだし。……告げ口はよくないよね!そういう理由にしておこう!
「三井が壊れてるねー」
「旦那は体と心に多大なダメージを受けていたみたいだからな。この数分でかなりヘタれてしまったようだ」
「やーいヘたれヘたれー」
やかましい。お前らもさっさと着替えんかい。実況用のそこの机と椅子も片付けろ。どれだけ用意よかったんだお前らは。
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