美少女幽霊が憑いてる
「ぼぼぼ、僕と付き合ってください!」
カナさんの前に跪き、薔薇の花束を差し出す。タキシードでバッチリ決めているし髪も念入りに梳かしてきた。ここまですればどんな女の子もメロメロ……そう思っていたのに。
「ヒッ……な、なんなんですか急に! もう近付かないでください」
カナさんは呆然とする俺にそう吐き捨てるとさっさとどこかへ行ってしまった。
四十代も半ばを過ぎた。
男は四十からだと自分に言い聞かせ、いろいろ頑張ってはみたけれど成果は一向にあがらず。今日に至るまで彼女いない歴=年齢の称号をほしいままにしている。
昨今話題の草食系男子のようにじっとしているわけではない。むしろ貪欲に女性にアタックしている。なのにこのざまだ。
なぜこんなに努力をしているのに彼女ができないのか。自分の胸に手を当ててジッと考えてみたが全く分からない。
そうしているうちに俺は一つの結論のようなものに辿り着いた。
そう、オカルトだ。
先祖の因縁、祟り、呪い……なにかは分からないが、そういった超常現象めいた力が作用して俺の恋愛をことごとく邪魔しているのである。そうとしか考えられない。
そこで俺はネットで評判の霊能力者の元へ助けを求めに行ったのである。
「……と言うわけで、俺がモテないのは呪いや祟りのせいなんですよ」
ここにやってきた理由を一通り話し終えると、霊能力者は難しい顔で口を開いた。
「なるほど。ちなみにこの前振られたカナさんというのはどういった女性で?」
「ええと、バイト先の同僚で二十歳の大学生です。あっ、写真見ます?」
スマホの待受にしているカナさんの写真を霊能力者に差し出す。霊能力者はそれを一瞥し、低く唸った。
「なるほど……これは良くない」
「ええっ、なにが問題なんですか?」
「実はですね、あなたに幽霊が取り憑いているのです。その幽霊があなたの恋を邪魔しているわけですね」
「や、やはりそうでしたか」
「ええ。どうします? 除霊します?」
「もちろんです! お願いします!」
そう言って頭を下げると、霊能力者はどこからともなく数珠を取り出し、辺りに塩を撒き始めた。緊張からか自然と背筋が伸びる。
「この者に取り憑く霊よ〜出て行き給え〜」
霊能力者は塩を撒きながら俺の周囲をグルグルまわる。
俺も幽霊を追い出そうと固く目を閉じ、心の中で出ていけと何度も念じる。
「この者に取り憑く女の霊よ〜この者に寄ってくる女に嫉妬し、恋を邪魔するのは止めるのだ〜」
むむ、憑いていたのは女の霊だったのか。女の嫉妬とは恐ろしいものだ。
「黒髪ロリ顔巨乳の女よ〜この者に抱きつくのは止め、迅速に成仏するのだ〜」
そうか、幽霊は黒髪ロリ顔巨乳の女で、俺に抱きついて……
「えっ、ちょっと待って」
「ん? どうされましたか、気分が悪いですか? 恐らく除霊の影響で」
「いやそうじゃなくて……俺に憑いてるのって、その、ええと……」
「黒髪ロリ顔巨乳の美少女幽霊がどうかされました?」
「あっ、それそれ! その幽霊ってあの……な、なんで俺に取り憑いてるんですかね?」
尋ねると、霊能力者は宙に向かって口を開いた。
「おい、どうしてこの者に取り憑く? ……ふんふん、ではこの者を好きになったと言うわけだな。それでこの者に近づくライバルたちを邪魔したと。全くけしからん霊だ」
「ほほほ、本当ですな……ち、ちなみにその幽霊、どんな感じの女の子なんですか?」
「そうですな、年の頃は十代後半くらいでしょうか。ん? Fカップ女子高生? そんなことは聞いておらん! お前は黙っていろ!」
「え、Fカップ……女子高生……」
思わず生唾を飲み込む。
それと同時に、霊能力者がなにやら慌て始めた。
「こら! やめろ、この者の頭に胸を乗せるのはやめろ!」
「乗ってるんですか!?」
「は、はい……今あなたの頭を幽霊の胸が包んでおります。すいません、すぐにやめさせますから。こら、この淫乱幽霊め! なんて破廉恥な……な、なにをするつもりだやめろ……う、うわあああああ」
「なんですか!? いったい何を!?」
「どうぞご勘弁ください。私の口からはとても……」
「ええっ、そんなぁ!!」
「申し訳ありません、すぐにでもこんな破廉恥な行為をやめさせたいのですが何分霊の力が強く、あなたをとても気に入っているようで。祓うのには相当時間がかかるかと。しかし誠心誠意除霊させて頂きますのでどうぞご安心を」
「……いいです」
「はい?」
「いやその、無理に祓わなくても良いかなーって。別に悪さする訳じゃないし、無理矢理離すのは可哀想かなーと」
「何言ってるんです、その霊のせいであなたに彼女ができないんですよ?」
「いやぁ、生身の女なんか別に興味ないっていうか……はは、ではこれで失礼」
俺はニヤニヤしたくなるのを抑えながら席を立ち、そそくさと霊能力者の家を出た。
早く帰って霊能力をつける訓練をしないと。
「待っててね、すぐ君を見られるようにするから」
俺はその辺を漂っているであろう美少女幽霊に笑いかけた。
「一人芝居お疲れ様です」
霊能力者の弟子は先ほど出ていった客のお茶を下げながら笑う。
霊能力者はと言うと、頭を抱えながら苦笑いを浮かべていた。
「はは、聞いていたか」
「ええ。素晴らしい熱演で」
「そう嫌味を言うなよ、あの人にはああ言うのが一番良かったんだ。言っちゃ悪いがあの人、結構な歳だろ。金や地位があるわけでもなし。あんな若くて美人な女ばかりに付きまとったところで迷惑がられるだけだ」
「いっそ存在しない理想の美少女幽霊と結ばれたほうがあの人も周囲も幸せ……って感じですか?」
弟子の言葉により、霊能力者はその苦笑いをいっそう深くさせた。
「いっそ本当に誰か取り憑いてくれりゃあいいのにな」
「ま、幽霊にだって選択権がありますから」