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雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
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7/13

 次の日の朝、返信があった。

『読んでくださってありがとうございます! 確かに少し展開が速いなと思っていました。でも字数のこととか考えていたらどんどん進めなくちゃって思ってしまって。自覚はあっても人から言われないと直せなかったようなのでありがたいです。……あの、次の小説のことでちょっとお願いがあるんですけど、今度会えないですか?』

 僕が約束通り読んだ事への感謝と指摘だしをした箇所への素直な反省を見て、いい子だなぁと、なぜかほっこりする。
 展開の他にも指摘しようかと思っていたが、あまり言い過ぎるのも良くないと思っていた。そのため戦争が背景にあるのに、殺伐としたシーンがなく長閑であることという次に重要な部分を言えていなかった。次会ったときにでも言おうかと思っていたのだが、こうも早く機会がやってくるとは。
 しかし、ここは断るべきなのか、力になるべきなのか。僕は他の人に教わりながら上達していったわけじゃない。世に出回っている作品を読んで得た知識のみで書いている。だから今、その人になにを教えなくてはいけないのか、なにを教えてはいけないのかの判断がつかなかった。

「さて、どうしたものか……」

 そうして声を出してみたところで悩みが解決するわけもなく。僕は仕方なく大人に頼ってみた。
 僕の身近に頼れる大人はいない。その中で少しでも面識があるのが、コトノハさんだった。彼は社会人だ。それなりの判断力はあるだろう。それに一応、彼も大人なのだ。
 メッセージを送ってみると、以外にも勧められた。こういう経験は教えられる側はもちろんのこと、教える側にも意義のあることだと知り合いの作家さんに聞いたことがあるらしい。人脈もそこそこにあるようだ。
 ただ、最後に「手は出すんじゃないぞ」と冗談めかして付け加えられていたところは、やっぱりそういう人なんだなと少しだけがっかりする。
 まあ、ここは彼の――知り合いの作家さんを信じることにしよう。木曜日の放課後に会うことになった。
 そしてそれが今日。普通に学校へ行ったあと、五時に例のカフェになっている。
 部屋から出て、階段を一段降りる度に頭が揺れる。だが、僕自身に揺さぶれる感覚はない。例えば……そう、頭に乗っけた帽子が風に飛ばされそうになる感じ。
 実際に揺れているのは盛大に寝癖のついた黒髪だった。

「時雨、寝癖ひどいよ?」

 そんな僕を笑ったのは妹の小雪。もうそろそろ高校受験する中学三年生だ。
 まだ七時だというのに、既に中学校の制服を着ている。

「おはよ小雪。今日もかわいいね」
「はいはい、私もう行くからね」

 僕の褒め言葉を華麗にスルー。妹が兄に冷たいなんて進歩しすぎた現代社会の弊害だ。兄弟は仲良く、これ常識。
 ていうか、

「早くない? 一緒に行こうよ」
「やだよ」

 即答ですか、そうですか。そんなに僕のこと嫌いなんですね。ううぅ……。
 軽くショックを受け、ほろりと涙を流す。
 本気で泣いたわけじゃないが、僕の様子に優しい小雪は慌てる。

「ああ、違うよ。別に時雨のこと嫌いになったわけじゃないから。今日は生徒会の仕事があって早く行かないといけないんだ」
「そうなのか。それなら仕方ないね」

 妹は成績優秀で働き者だ。そんな彼女に中学の教師や後輩達は頼り、委員長を辞めた今もわざわざ生徒会に特別枠を設けてまで仕事を手伝わせている。彼女自身頼られるのは嬉しいようで、文句も言わずに励んでいる。手伝い程度とはいえ、受験勉強に一切支障が出ていないのは流石である。

「うん。だから明日また一緒に行こうよ」
「そうだね、ごめんね」

「じゃあ行くね」と慌てて出る。
 僕はこの間のぎこちない笑顔をしていた人物とは思えないくらい自然な笑顔でひらひらと手を振る。
 なんだか慌ててばかりだな小雪のやつ。どう考えても僕のせいだな、ごめんよ。その姿がかわいいからやめないけどね。
 僕を見た母がため息をついて言った。

「ご飯食べないの?」
「あ、ごめん。すぐ食べる」

 一体いつになったら妹離れするのやら。恐らく、僕に聞こえないように小さく言ったのだろうが、バッチリ聞いてしまった。
 小雪かわいいまじ天使。妹離れなんてするもんか。
 すっかり冷めたスープを啜りながら、心の中でつぶやいた。


 僕は教室で貸してもらったライトノベルの四巻を読みながら、ホームルームが終わるのを待っていた。
 普通の小説よりも会話が多く、その上想像していたよりも面白かったために読み進めるのは容易かった。
 なるべく早くカフェに行った方が良いだろう。ホームルームが終わってすぐに帰る準備をしていると、メガネが話しかけてきた。

「ほう、既に三巻を読み終えているとはなかなかだな」
「……」
「そろそろ天野も他のラノベに興味が湧いてきた頃であろう。特別に我の蔵書を見せてやらんこともないぞふふっ」
「…………」
「さあ行こう。すぐ行こう。目指すは我が拠点」
「………………」

 僕は無言で立ち上がる。

「おい、どこへ行く。はっ……そうか! 話す時間も惜しいということか!」

 すたすたと無言で歩き始める。

「あぁっ、ごめん。待っておいていかないで、俺も行く。待って、ねぇ!」

 僕の様子から止まることはないと悟ったのか。走って追いかけてきた。
 玄関まで来ると、靴を履き替えるために立ち止まる。そこでようやく止まった僕を改めて家に招待する。

「なあ、遊びに来いよ。友達じゃんかよー」
「いや友達じゃないし、お前といるとかぎ括弧が多くなるからめんどくさい」
「なにそれどういうこと」

 自分で言っといてなんだが、本当にどういうことだろう。ボクヨクワカラナイ。

「……それに今日は用事がある」

 カフェに行かねばならんのだ。年下の女の子を一人で待たせるわけにはいかないのだ。こんな男の相手をしている暇はない。

「お前に用事だと!? ふふんっ、わかったぞ。どうせまた妹だろう!」
「だったらいいんだけどなぁ」

 もし仮に今日の用事が我が妹に関係するならば、こういうやりとりすらしない。もう呼ばれたら速攻行く。秒で向かう。
 しかし、彼女は僕になるべく頼らないようにしているようだ。なぜだか相談をまったくしてこない。最後にされたのは小学六年生の頃だろうか。それ以来ないはずだ。
 問題なく中学校生活を送れたのなら構わないが、思春期の多感なお年頃に悩みがひとつもないというのもおかしい。たまには頼ってほしいものだ。
 まあそれはいい。今はとにかくカフェに行かなきゃだ。

「じゃあな、今度また誘ってくれ」

 この時の僕は冷静じゃなかったようだ。いつもなら気をつけて発言するところだが、この時は不用意にも後に僕を苦しめる発言をしてしまっていた。
 そのことに気が付かないまま、カフェへ向かっていた。
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