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雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
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6/13

「返事は来週、またこの場所で」

 来週の今日と同じ場所と時間にもう一度このカフェで会う約束をして、僕たちは解散した。
 翌日、彼から新規のメッセージを受信していて、そこにはこう書かれていた。

『今日は来てくれてありがとう。共作の話についてはいきなりでごめんなさい。でも、ボクも本気だから、もし今日渋った理由に読んだことない分野だからってのがあったら下に作品名かいておくから読んでみてくれないかな。一応、ボクの考える話に近い雰囲気のものとか気に入ってる話とか選んだから、君も気に入れば嬉しいけど。穂積ちゃんのもあるよ。良い作品だから読んであげて』

――僕はライトノベルというものを知らない。
 彼が言った通り、僕が決断できなかった原因はそこにあった。書くどころか読んだことすらない分野のことを決めつけで判断はできない。興味のないことならともかく、少し心が揺らいでいた僕は考える時間を欲した。
 来週までの間にその分野を少しでも知ろうと思っていたのだが、彼は僕の心中を察して、親切に作品の紹介までしてくれた。彼を信用するわけではないが、判断材料にさせてもらおう。
 WEB小説が四作と書籍が二作。早速一番上にあった『魔導騎士の現代社会生活』のURLをクリックする。リンク先はその作品の目次ページで、タイトルとあらすじの間にはコトノハと書いてあった。それはオフ会にいたコトノハさんの小説だった。
 そこで気が付いた。宮内のメッセージには気に入った作品とあった。そこにコトノハさんと穂積さんの小説が入っている。さっきのメッセージにあった他の三作品も開く。
 MaKi、紋桜、結城蓮斗。どれもオフ会にいた人の名前だった。宮内は昨日来ていた全員を気に入っているということだ。
 自分が面白いと思ってるだけでなく、他の人も面白いと感じることのできる作品をどのような人たちが作っているのか。その姿を僕に見せて伝えようとしたのか。
 それぞれをブックマークに追加し、パソコンを閉じる。スマホでそれを確認するとその日はもう寝た。小説の新しいネタも考えず、彼のことも考えず、逃げるように布団に入った。。


******


「おはよう、我が友よ! 昼だっ、共に飯を食べようではないか!」

 昼休み、スマホでコトノハさんの小説を読んでいるとメガネの男が話しかけてきた。

「僕は君の友人ではないです。人違いじゃないですか? あ、ご飯はどうぞおひとりで」
「その反応はさすがに酷くない!?」

 メガネの男こと谷内行平は声を荒げる。
 この男とは友人ではない。ただ彼が一方的に絡んでくるだけ。
 入学式の日に他の友人とはクラスが離れてしまったらしく、たまたま同じ中学だった僕が教室にいたから話しかけてきたそうだ。
 僕は谷内のことを知らなかったので迷惑だったのだけれど、彼はそんなことを一切気にせず当たってくる、こんなにも邪険にされているというのにすごいメンタルだ。

「ねぇ、ひとりで食べてって言わなかったっけ?」

 しれっと僕の目の前に座り、弁当箱の包みを広げていた。

「いいじゃん。というか、なんでスマホ触ってんだよ。校則違反じゃん」
「今は緊急だから」
「どう見ても小説読んでるだけなんですが、それは」

 うるさい野郎だ。そんなにこうそくをいはんの注意してまじめくんアピールをしたいなら、そこらでゲラゲラ笑っているリア充共に言えばいい。むしろ常習犯である彼らの方がタチ悪いし、お前の正義感も満たされるだろう。まあ、カーストトップの連中にはなにも言えないんだろうが。
はっ、雑魚めっ!僕も言えないけどね!

「いいよ、俺もラノベ読むし」

 と言ってポケットから文庫本を出して読み始めた。
 ラノベという単語を開き、僕の頭の中で何かが引っかかる。

「ラノベってなんだっけ」

 つい最近聞いたようなそうでもないような。
へいしり、らのべけんさく! とか言えば最新のスマートフォンは勝手にインターネットで検索してくれるらしい。だが、僕は使ったことがないし、使う気もないから目の前にいる男に聞いた。

「ライトノベルだよ。どうせお前もオタクきもいラノベきもいとか差別するんだろ」
「しないけど」

 ああ、そうか。ライトノベルか。
 宮内が進めてきた書籍は二つともそのライトノベルというものだった。いわゆる若者向けのセリフが多い小説らしいが、どうせよく見る萌え系のイラストが苦手で敬遠していた。その二つはそういうイラストではなく、せっかくだから参考に読んでみようと思ったのだ。

「なあ、谷内。このライトノベルって知ってる?」

 スマホを机において画面を見せる。
 宮内に勧められた小説の情報が載ったページだ。

「ああ、知ってるさ。両方ともに全巻揃ってる」
「そーなん」

 ずっと絡むのを避けていて都合が良いと思われるかもしれない。しかし、文庫本とはいえそこそこに値段がする。それを一気に買うというのもできず、読むかどうか迷っていたところだ。
 コトノハさんたちの小説はあくまでアマチュア作品。それだけでわかることもあるだろうが、実際にプロとして出版されているのも読んでみたかったのだ。

「読ませてもらえないかな」
「ほう、ライトノベルに興味があるのか?」
「まあ、一応」

 少しバツが悪そうにして答える。谷内はスマホの画面と僕を交互に見て、うんうんと唸りだした。

「よし、いいだろう。普段は人に貸したりしないが、友人がどうしてもと言うのだ」

 特別だぞ、と言った彼に人が良いなと素直に感じた。
 その仕草が気持ち悪かったことと友人ではないということは黙っておくことにした。やっぱりやめたと言われては困る。

「ふふふ、このまま徐々に萌えに触れさせていってラノベ仲間にしよう。そうすれば天野も友と認めてくれ、更にはラノベについて語り合うこともできる。これで俺もようやく……あだっ、痛い!?」

 何か変な方向に考え込んでしまっているような気がしたので叩いておいた。僕は悪くない。

「明日持ってくるよ」

 変ではあるが、いいやつなのは確かだと知ったのだった。


 僕がコトノハさんの小説やあのライトノベルを読む気になったのは、先に穂積さんの作品を読んでから。約束を守ろうと読んだ短編小説が思っていた以上におもしろかったのだ。未熟さもあり、文章は拙いがストーリーは抜群のおもしろさ。普段は恋愛小説自体あまり読まないのだが、架空の世界や職業だからか自分と切り離して読み進めることができ、他人の恋愛話を聞いているかのような気分になった。それが非常によく、女子が恋バナをしたがるのが少しだけわかった気がする。
 財布から適当にちぎられた紙を一枚取り出す。
 そこに書かれている穂積さんのメールアドレスを見ながら、メールの宛先に入力する。
 簡単に直したら良くなるところや逆に良かったところと、あといくつか感想を書いて送信した。感想ということもあって少しだけ上から目線になってしまっただろうか。良い作品だとは思っているのでそれが伝わってくれればいい。

「なに、メール?」

 谷内が前から画面を覗き込もうとしてくるのを慌てて制止する。
 人のスマホを勝手に見ようとするなんて行儀の悪い。

「見んな馬鹿」

 この日はメールの返信がなかった。
今週は毎日
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