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雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
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「それでは、また。メール待ってますね」
「うん、じゃあまたね」

 僕はずっと使ってない表情筋をどうにか動かし、精一杯の笑顔で手を振る。
 本当はここで僕も帰りたいところなのだが、宮内涼雅に呼び止められているのでそうもいかない。まったく何の用なのか聞かされていないので面倒にしか思えない。
 穂積さんが見えなくなったところで店内に戻る。宮内がココアの入ったカップを両手で持ちながら座っている。

「で、なんなの」

 素っ気なく聞く。できるなら早く用を済ませて帰りたいところだ。

「まずは今日一日時雨くんを拘束しちゃったこと謝らないと。ごめんね」
「詫びはいらない。早くしてくれないか」
「うん、そうだね。早く帰らないとママに怒られる」

 なにこいつマザコンかよ……。高校生がママはないだろう。ありえない。せめてお母さんが限度だ。
 目の前の男の発言に驚くが、当の本人はそんなことを思われているとも知らずに続ける。

「ボクは小説が書けないんだ」
「あ、そうですか」

 だからどうしたとしか言えなかった。書けないなら書かなければいい。僕のように諦めてしまえばいい。大人になったら黒歴史だったと笑い飛ばせばいい。それが一番楽だ。だから僕もそうした。辞める決意をした。

「ボクはライトノベルが大好きなんだけど、最近のはなんかパターン化しているというかなんというか、つまらないんだよ! じゃあ僕が書こうって、そう思って書き始めたんだ」

 夢中になって話す。
 彼が好きだというものなんて僕は知らない。そんな僕が彼に相談されたところでどうにもならない。やはり聞く必要はない。そう思った時だった。

「話は考えられる。とびきりおもしろい話がね。だけど、どうしても文章にすることができないんだ」

 ドキリとした。
 僕とは真逆の悩み。僕にできることが彼にはできず、彼にはできることは僕にはできない。
 なぜだか、先程までの考えは吹っ飛んでいた。
 彼はどういう判断をするんだろうか。僕のように諦めるのか。それとも――
 彼が発したのは、僕が思いつきもしなかったことだった。

「だったらボクが原案を考えて、誰か別の人に書いてもらえばいい。そしたらちょうど君がいた」

 は……? 一瞬、思考が停止した。
 つまりあれだ。この男は僕と手を組んで小説を書こうと言っているのだ。
 普通小説というのは一人で書くものだ。今まで二人で小説を書いているという話は聞いたことがない。僕が知らないだけかもしれないが、いたとしても僕らが上手くいく保証はない。
 意味がわからない。少し前の自分だったらそう言って一蹴していたことだろう。しかし、この時の僕は自分の決断を疑い始めていた。
 今日出会った穂積さんやコトノハさんたちは、全員が高みを目指す意志を持っていた。穂積さんは一年目だというのにすごいペースでたくさんの話を作り、更に技術を得ようとしていた。ある人は五年かけてようやく年間ランキングに入ったと言っていた。そんな人がオフ会へ技術を学ぼうとやってきていたのだ。彼らは努力をしている。
 もちろん僕だって努力はしている。してはいるが、まだ甘かったのではないかと思えて止まない。良い作品を作ることに対する執念が足りなかった。
まだ諦めるのは早い。今になってそういう思いがふつふつと湧いてきた。

「ねぇ、どうせ捨てる才能ならボクに貸してよ」

 それもいいかもしれない。たった数秒であったがそう考えてしまうほどに僕は冷静さを欠いていた。
 落ち着け。深呼吸をして冷静になる。
 そうだ、夢を見てはいけない。それはいつか僕に牙を剥く。
 そしてなにより、ひとつ問題があった。
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