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雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
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4/13

コトノハさん視点です
「皆さん今日は楽しめましたか? 今日のオフ会の時間が皆さんにとって意義のあるものになっていれば主催した僕も嬉しいです。しばらくすれば新人賞も募集を始めるので、そちらでの皆さんの活躍をお祈りして、今日は解散とさせていただきます。それではお疲れ様でした」

 オフ会の最後は、主催者である宮内涼雅がそう締めくくった。

「マキ、帰るぞー」
「わかってるわよ。ていうか、あんたを待ってたんですけど」

 俺がノートパソコンを鞄に仕舞いながら言うと、マキは怒っていた。
 実際には、俺のせいで遅れているのに一つも悪いと思っていないような発言だからだろう。

「そうだな。ちょっとだけ待っててくれ」

 文字が印刷されたA4紙をまとめ、クシャクシャにならないよう綺麗に鞄に入れる。
 マキは「適当でいいから早くしろ」と言うが、これは俺にとって宝物だ。初めてのオフ会でたくさん仕入れた知識の塊。宮内が言った来月末に始まるなりたいを利用した新人賞にもフルで活用してこれからの活動の糧にする。だから、大事に扱わなければならない。

「悪い悪い。行こうか」

 マキと一緒にカフェを出る。代金は宮内がまとめて払うと言っていたので自分の分を渡した。
 コーヒーがおいしいおしゃれなカフェだった。こういうところには女の子と来たいものだが、この顔ではなかなか恋人もできず、その機会すらやってこない。
 外に出ると店先で話している少年と少女が見えた。どちらかというと少女が一方的に話しかけているように見えるが、それでも傍から見た様子はさながらカップルのようである。
 考え事で少しだけ憂鬱になっていたのだが、その様子を見たことでさらに増してしまう。

「あの子、そういうことなのかな。どう思うよ」

 天野と穂積を見ながらマキに問う。

「それ以外ないでしょ。なに、狙ってんの。モテないからって中学生に手を出すのは犯罪よ。通報していい?」
「ちがうわっ」
「じゃあ男の方? そういえばあんたここに来る前、天野しぐれって女だと思ってたもんね」
「それは言わんでくれ」

 あの時は本当にがっかりした。作風とか名前から同年代くらいの女性かなって期待して来てみたら、その正体は俺より一回りほど下の男子高校生。あわよくば仲良くなってみたいな想像していたのに……。
 見るからに落ち込んでいる俺の肩を軽く二度叩くマキ。

「ゆうたろ……ドンマイ…………」
「おい、哀れみの目を向けるな」

 この女性はMaKiというペンネームで活動しているなりたいユーザーだ。
 俺と同じく社会人。仕事で発生したストレスを小説の執筆で発散し、リフレッシュしているらしい。プロになりたいわけではないらしいが、一応年間ランキングにも入っていて、今日のオフ会メンバーの中では一番高い評価を受けている。

「まあ、あれは完全に落ちちゃってるよね。天野くんかっこいいし」
「やっぱりか。結局は顔なのかね」
「そうね、人にもよるけど第一印象は顔だからね。あんたなんてただの厳ついおっさんだしね」

 指さしてニタニタと笑いながら言う。
 俺の顔が厳ついのは昔からだ。その顔に似合わず優しいと言われ、学生時代は優しいクマさんなんて言われて泣きそうになった。
 そんなに酷いか。酷いのか。

「まあいいや。若者のことは若者に任せるよ」
「そもそもあんたが邪魔してただけじゃない。ていうか、なに邪魔してんのよ」
「いや俺は悪くない。最近の中高生が悪いんだ。俺らが学生だった時は男女共に慎みを持っていてだな」
「それはあんたがモテなくて好きな人に告白する勇気がなかっただけでしょ。普通にカップルいたし。それと、なんかそういうの年を取ったなって感じるからやめて」

 事実、年は取ってるんだからいいじゃん。
しかし失礼なことを言う。別に告白する勇気がなかったわけじゃない。ただ、相手にも好きな人がいたから遠慮しただけだ。
彼女は告白されたら無下にはできない優しい子だった。困らせたくなかったから告白しなかったんだ。ほんとだぞ……本当だぞ!
 ちなみにこのマキという女。俺と同じ会社でしかも同期の同部署。ていうか、幼なじみというやつで小学校から大学まで同じ。もう俺が行くから選んでんじゃないのってレベルで一緒。大学はさすがに違うだろって思ってたら同じ学部、同じゼミ、同じサークル。
 そしていつも俺を馬鹿にしてくる。俺を最初にクマと読んだのもこいつだ。それを友人が面白がって優しいクマさんのできあがり。
 現在も仕事からプライベートまで二十四時間体制で俺をいびり倒す。迷惑極まりないな。

「あんさ、やっぱり書籍化ってしたい?」

 いきなり話題を変えられた。
マキから話題を振るのは珍しいので覚えている。オフ会の時にもマキがそんな感じの話を振っていた。
小説家になりたいで連載されている長編作品の中には、実力が認められ書籍化の話がくることがある。そうなればプロ作家となり、趣味で書いた小説で収入を得ることができる。元々それを目指して投稿する人もいるらしく、書籍化にはなりたいユーザーにとって憧れだ。話が始まって早々にそういう結論になり、その話題については二、三分程度しか続かなかった。

「なにかあったのか?」
「ん……」

 その様子から悩んでいるのがわかる。
普段からあまり悩み事がないようなマキだから、俺は驚いた。
 書籍化というワードが何か彼女を深く考え込ませている、俺に弱いところを見せないからきっとこの場でも強がるのだろう。どうせ、俺には詳しく教えてくれないんだろう。

「やっぱりいいや、なんでもない」

 案の定だった。しばらく沈黙が続く。
 どれだけ馬鹿にされてもやはり幼なじみ。悩んでいることくらいわかるし、なにかしてあげたいと思ってしまう。

「夕飯どうする?」

 同じアパートだからご飯も一緒に食べている、その方が効率がいいし、そもそもマキは料理ができないし彼女の両親にも頼まれている。

「あーなんでもいいよ」
「さいですか……」

 夕日の落ち始めた街道で、隣を歩く女性の心中を伺いながら夕飯の献立を考える。

「それなら、今日はシチューだな」
「やった」

 美味しいものを食べて少しでも気が晴れてくれるといい。そう思って彼女の好きな食べ物をポツリとつぶやいた。
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