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雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
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3/13

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 三日後、指定された場所に行くと未成年らしき人物は二人、成人が四人いた。

「こんにちは、穂積うたです。私はファンタジー世界を舞台にした恋愛小説を中心に書いています。まだ書き始めて間もないので、今日はしっかり勉強させていただきます!」

 中学生だった。僕が中学の頃はほとんどの女子がショートカットで一年やそこらでそれが変わるわけもなく、少し長めのショートカット。僕の中学三年生の妹もこんな感じだ。
 挨拶は時計回りに行われているらしく、穂積さんの後に大人が全員やると次は僕の番だった。
 あまり乗り気ではなかったが、それを彼女らに見せる必要もないので自己紹介くらいはしっかりしよう。

「天野しぐれです。現代の高校生が実際に抱えそうな悩みを題材にして物語を書いていました。今日はどうぞよろしくお願いします」

 数人の男性が残念そうにした。何があったのだろうか。
 それはともかく、僕は過去形で話したが、活動をやめたことをはっきりとは口にしなかった。彼らには関係のないことだし、言えばなぜここに来たのか問われるだけだ。意味がない。だから、言わなかった。

「さて、ボクの番か」

 おそらく隣にいた僕だけが聞こえただろう。ずっとうつむいていた彼の小さな呟きからは、僕よりもやる気がなさそうに見えた。
 自己紹介を六人が終えて、僕を招待した人物の名はあがっていない。考えずともこの少年が主催者であるとわかる。しかし、ではなぜこんなにも気怠げなのか。
 少年を不可解に見ていると、バッと勢いよく立ち上がる。それに従って彼の顔も見えたが、先ほどの声とは一致しない雰囲気がその表情から醸し出されている。
 整った顔立ちだ。男子高校生なら誰もが悩むはずのニキビもなく、実に羨ましい限りである。

「今回オフ会を主催させていただきました。宮内涼雅といいます。急な招待にも関わらず、全員に参加していただけたようで本当に嬉しいです」

 やはり、この少年だった。
 はじめは僕だけでなく、ここにいる全員が強制的に集められたのだったと思ったが、どうやら違うようだ。なぜ僕だけが強制参加だったのだろうか。この男は何を考えている。
 彼を横目にそんなこと思っているだなんて知るわけもなく、宮内は話し続ける。

「今回は物書き同士、小説のことについて語り合いましょう! ストーリーについてでもいいですし、技術的なことでも何でも構いません。是非、自分から積極的に話しかけてくださいね。
あ、もちろんボクも大歓迎です!」

 そうやって、僕にとっては謎のままのオフ会が始まった。
 積極的にと言われても僕には関係のないことで、今日はずっと一人でコーヒーを飲んでいるだけになるだろう。そんなことを思っていた時期が僕にもありました。

「あの、天野さん!」

 ふわりとした香りを漂わせている真っ黒な髪。さっきの中学生だった。
 オフ会が始まって早々、大人とあの主催者は盛り上がっていたが、僕と同様にこの少女もすぐには馴染めなかったようでしばらくの間は一人で紅茶を飲んでいた。
 まさか話しかけてくるとは思っていなかったので、驚いたが邪険にするわけにもいかないので、自然に接しようとする。

「は、はい。なんでしゅか」

 だがやはり、家族を除けば久しぶりに人と会話する僕には動揺を隠す余裕なんてなく、案の定それが表に出てしまう。年下に敬語になってしまったことは礼儀で片付けられるが、噛んでしまったのはどうするべきか。触れないでくれると助かるけど。

「もしかして緊張されてますか?」

 はい、思いっきり触れちゃいましたね。もう素手でガラスのハートを触っちゃって指紋でベタベタでございますね。さて、どうしたものか。

「私、オフ会とかって初めてで、やっぱり緊張しますよね。でも、私は天野さんより年下でしょうし、敬語じゃなくて良いですよ?」

 先にフォローしてくれちゃいますかマジ感謝。自分から緊張しているって言うのに躊躇っていたところにタイミングよくフォローを入れる。この子、すごくいい子なんですけど。
 なんだかすごく僕が惨めに思えてくる。本当にこの少女は中学生なのだろうか。もう、僕よりお姉さんって感じしかしないんですけど。なんなんですか。僕、もっとしっかりしろよ。

「そうだね。それで、どうしたの?」

 話しかけてきた理由を聞く。まあ、恐らくというか十中八九小説のことに関係するのだろう。
 愚問だったが、一応行う必要があった確認ではある。

「私ずっと天野さんの書いた小説を読んでいて、心情の描き方とかお話の組み方とかすごくて、プロみたいだなって思ってたんです。今日、私がオフ会に参加したのも天野さんが来るって聞いたからなんです! よかったらお話聞かせていただけませんか?」

 遠慮がちに、それでいて強い意志を感じられる。自分に足りない技術を盗んでいこう。今後のために何か必ず。そういう意思だ。

「いいけど、僕よりも彼らの方が適任なんじゃないかな」

 柔らかく断る。
それに、諦めてしまう人間から学ぶよりも向上心を持って努力している人から学んだ方が役に立つだろう。
 だが、穂積さんは譲らない。

「そんなことないですよ! 技術に関しては絶対に天野さんがこの中で一番だと思います」

 穂積さんが立ち上がり、その勢いによって椅子が少し後ろに下がる。
 この子はすごく純粋で素直なんだろう。だから僕の言葉をそのままの意味で捉えてしまった。


――技術に関しては……。その言葉が僕に刺さる。
 わかっていたことだ。自分でも何回も言っている。それにこの言葉に深い意味は込められていないかもしれない。しかし、他人に言われるのは何かが違った。はっきりと事実として突きつけられたような気がした。

「ごめん、やっぱり僕じゃ力になれないよ」

 僕は小さい人間だ。彼女はわざとああ言ったわけでもないし、ただ純粋に褒めてくれたのかもしれない。
 でも、どうしても心のどこかでしていた期待をあっさりと抉り取られていった感じがして、ものすごく大事なものを落としてしまったような気になった。

「わかりました……。無理言ってしまってすみませんでした」

 穂積さんは身体を縮こませ、椅子に座り直す。
 僕の小説を読んだと言っていた。もしかしたら僕がやめることを知っていたのかもしれない。それで僕を止めようとしたのだろうか。もしくは少しでも自信をつけようとしていたのだろうか。どちらかでもどちらでもなかったとしても彼女は悪くない。
 二人の間に気まずい雰囲気が流れた。

「あ、いーけないんだーあーまーの」

 そんな空気を壊すためか、少年が茶化すように近づいてきた。僕を強制的にこの場に呼んだ宮内涼雅だった。
 僕がここに来て中学生の女の子と気まずい感じになってしまったのは、元を辿ればこいつのせいだ。
 いつもなら人のせいにすることはないが、この時だけはそうしたい気分だった。

「なんですか、宮内さん」

 話すつもりはないと他人行儀に返事をする。事実、彼は他人だから心が痛むこともなかった。
 心の中では宮内と呼び捨てにしているが、それを口にしてしまうと勘違いされてしまう可能性があるので、進んでしたくはなかったが仕方なく『さん付け』で呼んだ。

「そうカリカリしないでよ。こう見えてもボクは君と仲良くなりたいんだよ?」

 馴れ馴れしく僕の肩に手を置いてきた。
 乱暴にその手を払いのけ、「何か用ですか」冷淡に言う。

「後で君だけに話があるんだ。残ってくれない?」

 恐らくこれが僕を呼んだ目的。僕のオフ会への強制参加はそのついでだろう。
 一体、僕に何の用があるというのか。検討がつかなかった。別に友人はいないから執筆活動をしていたことがバレても問題ない。恥ずかしいなどと感じることはないからこそ本名で投稿をしていたのだ。それくらい、僕を知っている者ならわかるだろう。秘密を隠すかわりに……なんて小説にありそうな展開はないと言える。

「わかった」

 結局のところいろいろ思考を張り巡らせても、聞かない限りはわからないので頷く。
 せめてなにかヒントのようなものが欲しい。
どんな話なのか聞くと、「内緒だよ」と可愛く言った。その仕草と言い方に少しだけドキッとした。
 なぜだ。相手は男だぞ。いや女の子にもドキッとしたことなんて妹以外いないし、そうしたら僕が男に惚れてしまう可能性もなくは――いや、ないだろ。ていうかだめだろ。そもそも可愛く見えてしまったのだから仕方がない。そうだ、僕が変なんじゃない。この男がおかしいのだ。
 などと阿呆なことを考えていると、宮内が僕だけに声が聞こえる距離まで近づいてくる。

「もう少し話した方がいいよ、君のためになるから。ほら、ちょうど彼女がいるじゃない」

 これで言いたいことは全て言ったらしく、元の場所に戻っていった。
 僕はやめるから、もうそういうのは必要ない。僕が教えられることもない。とはいえ、こういった席で物静かにいられるのも主催者側からしたら困るのか。わからない。
 わからないから、そういうことにしておく。

「あのさ……」

 穂積さんに声をかける。しょんぼりとしているのがよくわかるように座っていた彼女は、僕の声に気が付くと驚いてこちらを見た。

「さっきはごめん。よかったらだけどなにか教えようか? 今更だし、どうでもいいなら別に断っても良いけど」
「い、いえ! いえいえ!」

 穂積さんは嬉しそうに慌てる。もう話すことはできないと思っていたのだろう。
 一度、紅茶を飲ませて落ち着かせる。

「あの、よろしくお願いします」

 そんな様子を見て、僕も少しだけ嬉しく感じた。



 その後、穂積さんが質問をして、スマートフォンで開いた僕の小説を例に使いながら詳しく説明するというのを三十分近くしていた。事前に聞きたいことをまとめてきていたそうだ。まとめる前は倍以上あったらしい。
 それに対して、「本当に僕の小説を読んでくれていたの?」と聞いてみると、すごく好きで何回かメッセージでやりとりもしたそうだ。思い出してみると、投稿を始めた当初から僕に感想のメッセージを投稿する度に送ってくれていた人が一人だけいた。ハンドルネームが違ったので気付かなかったのだが、もしかしたらその人だったのだろうか。
 悪い方向にばかり考えていたが、読んでくれている人はちゃんといるのだと実感できた。

「天野さんの説明すごくわかりやすかったです。今日から執筆に活かします」
「うん。そうしてくれると僕も説明した甲斐があるよ」

 質問も終わったようなので、一つだけ聞きたかったことを聞いてみる。

「あのさ、穂積さんはファンタジー世界を舞台にした恋愛小説って言ってたけど、どういう話を書いてるの?」
「あ、そうですね。天野さんと違って純文学じゃなくて恥ずかしいんですけど……」


「ははっ、そんなこと言ったら俺らのはもっと恥ずかしいじゃねえか。恥じることはないんだぞー若人よー」

 不意に後方から声が聞こえる。思わず身体をびくっと震わせてしまい警戒する。
 声の主は社会人で仕事の合間に執筆しているというコトノハさんだった。
 今日ここに集まっている七人は共通して小説投稿サイト『小説家になりたい』を利用している。そこでペンネームとして使っているものはユーザーネームでもあり、僕や穂積さんのようにペンネーム寄りの人とコトノハさんのようにゲームのユーザーネーム寄りの二パターンの人がいる。
 僕個人としてはペンネーム寄りの方が好みだが、こちらには難しすぎて読むことが困難な漢字をやたらめったらに使う人がいるのでどっちもどっちだ。

「ああ、すみません。そんなつもりじゃなかったんです!」
「全然謝る必要ないよー。要はもっと自信持てってことだから!」

『なりたい』では確実にファンタジージャンルの話が多い。恋愛もバトルもファンタジーを舞台にした話がランキングの八割近くを占めている。
 文学はジャンル自体はあるものの作品数は少なく、そもそもそういう小説を読む人は素人が書いたものに見向きもしないために需要がない。僕が評価されない理由の一つである。そんなことを言っても言い訳にしかならないのでずっと気にせず書いていた。だが、ユーザー同士で集まれば大半がファンタジー小説を書いているという事実に僕は少しだけ興味が湧いた。
 そんなに面白いものなのか、と。

「で、どんな話なの?」
「えっとですね……」

 ファンタジー世界を舞台にした恋愛小説。騎士や貴族、魔物と戦う冒険者など現実には存在しない人々の恋愛事情。純愛や悲恋などのいろんな話を書いているそうだ。大体が女主人公らしいのだが、最近は男性視点で書くのも面白く感じたようで、少しずつ挑戦しているらしい。
 書き始めて一年くらいで長編は書いたことがなく、投稿済みの五作品と未投稿の一つは全て短編小説だそうだ。
 僕が最初に挑戦したのは長編だった。初めて書いたものは書き切ることができずに途中でデータを消してしまった。その後は半年間短編を四つ書いて、中学二年生の夏から一年かけて連載で長編を一つ完成させた。中学三年生の時は短編を一つ投稿して一つは途中で執筆を中止。そして高校生になってからはこの間投稿したものを含めて短編を五つ。完結させた話は全部で十一作品になる。
 正直言ってあまり書いていない。特に今年は五つだけ。一年目の穂積さんよりも書いていない事に気が付く。

「ごめんなさい。気持ち悪いですよね。結局は妄想ですし女の子が妄想なんてほんとに」

 最後の一年間、僕がまったく本気で取り組んでいなかったことを今になって知り、少しだけを後悔をしていた時だった。その僕の顔を見て、穂積さんの小説をよく思ってないと勘違いしてしまったみたいだ。

「そんなことないと思うよ。今度読ませてもらうね」
「ほんとですかっ、ありがとうございます!」

 僕が読むと約束したことに少しオーバーぎみで喜ぶ。
 そんなに嬉しいことだろうか。僕を好きな小説の作家さんに置き換えて考えてみた。僕と同等に考えるのは恐縮ではあるが、確かに嬉しい。
 僕が脳内で考察していると、穂積さんはじゃあと言ってポケットからスマホを取り出す。
 僕が中学の頃は携帯は持たせてくれなかったのだが、妹も持っているし最近の中学生では当たり前なのだろうか。もう一年早くやって来ませんでしたかね、当たり前さん。

「私と連絡先交換しませんか?」
「は……?」

 いきなりすぎてまったく意味がわからないが、感想が欲しいのだろうか。だったらサイト内メッセージでよくないか。まあ交換することは構わないんだけど、むしろ良いんですかって感じだけども、意図がわからんぞ。

「あ、いえ、あれあれれれれあれです! 無料アプリのえと、お友達機能のあれです! それと、小説の感想が欲しいので」
「あー……」

 あの中学生とか高校生がよく使っているというスマートフォンのアプリですかね。無料でメッセージ送れたり通話したりと便利らしいが、僕は使う相手がいないのでやってない。

「ごめん。僕それやってないんだよ。メアドでいいかな?」
「もちろんです! それじゃあ、これ」

 今度はポーチから手帳を出して、一枚白紙のページをちぎってそこにサラサラッと文字を書いた。メールアドレスだ。
 それを僕に差し出す。

「うん、ありがと。読んだらメールするね」
「はい、待ってます!」

 にっこりと可愛く笑った。守りたいこの笑顔、

「なあ」

 野太い声。コトノハさんだ。僕の肩に手を置いて体重をかけている。
 なんだこの人。もしかしてずっと聞き耳立てていたのか。もしそうなら趣味が悪い。さっきのやりとりを見て、もしかしたらいい人なのではと思っていた分がっかりだ。
 そもそもなんでこんな体重かけてくるの。

「すごく重いんですけど」
「知らん。それより、感想だけならなりたいで使えるメッセージでよくないか? 連絡先なんてそんなぽいぽい渡すもんじゃないと思うんだが」
「えっ!? いや、その……」

 穂積さんは彼の核心を突いた言葉に狼狽える。
 これはコトノハさんに同意だ。中学生がましてや女の子が会って数十分の男にメールアドレスを渡すなんてしない方がいいに決まっている。サイト内メッセージで十分だ。僕に連絡先教えてところでへたれだから何もしないんだけど。

「あ、そうだ。あの機能使いづらくて私苦手なんです!」

 まるで今思いついたかのように言ったが、これもまた同意できる。メッセージ送るたびに確認させられたり、無駄に書くスペースがあって送信のボタンまで結構スクロールしないといけなかったり不便ではある。それに比べてメールは楽ちんだ

「確かにそうだよね」
「はい、そうなんです!」

 コトノハさんは納得がいかないのか、「そうか、そういうことなのか……」とぶつぶつ言っている。
 いいじゃないか。穂積さんがいいって言ってるんだから。
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