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雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
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 カタカタカタカタ……。
 カリカリカリカリ……。

「今何書いてるの?」
「新作」
「だよね」

 カッカタッカタッカッカタッ……。
 カッカッカカカッカッカカッ……。

「進捗はどう?」
「もう少し必要かな」
「わかった」

 いや、そうじゃないだろう。もっと話さないといけないのに。
 キーボードを叩く音と紙に文字を書く音だけが響く。その空間にいるのは二人の少年。しかし、その間は常に無言で、たまに片方が話しかけるが長くは続かなかった。


 カフェでは今後の話を少しだけした。
 作業の分担とか目標とかの話。とはいえ、僕は話を考えられないから宮内に任せることになるし、宮内は文章を書けないから僕が書くしかない。分担も何もそれしか手段がないのだ。
 当面の目標の方は、小説家になりたいが出版社と提携して行われる新人賞で大賞を取ること。簡単ではないが、それしか目指すものもない。ギリギリ入賞してデビューすることだけを目標にしても意味がない。彼は最初に最近のライトノベルはつまらないと言っていた。どんなに奇抜な話であっても、読む側が面白いと思わなければそれは面白くない話。他の作品に負けるような話では駄目なのだ。大賞を取るほどの実力がなければライトノベルの世界を変えるなんて無理だ。
 だから、目指すのは大賞を経てデビューすること。

 意外にもすんなりと僕らの意見は合った。
 打ち合わせ等をする拠点を僕の家と決めてすぐに僕の家にやってきた。
 しかし、それより後に会話らしい会話は一度もない。
 先程のように、宮内が僕に問えば僕は一言だけ返し宮内は追求をしない。そして僕の質問に宮内が答えて僕は頷くだけ。これではいけないのだ。
 僕は人と深く関わり合った事なんてないからよくわからないけど、人と組むのに信頼というのは大きく関係してくるはずだ。僕が過去に読んだことのある小説の中でもパートナーというのは何かと重要視されていた。
 他の人とは違ってちゃんと話をしなければならない。

「最初から長編でやるのか?」
「そうだね。君、長編完結させたことあるよね?」
「まあ、一応だけど。大丈夫か?」
「大丈夫でしょ、君と僕なら」

 宮内が一切の迷いもなく言い切った。
 これは信頼なのだろうか。もしも過信だったら、いずれ痛い目を見るのではないだろうか。
 このまま放っておいてもいいのか。
 自分の中でそんな問答を繰り返している。そのせいで、僕はずっと話さないままでいる。
 そしてその後に僕も宮内も話を切り出すことができず、長い沈黙が続いた。
 だが、

「時雨、知らない靴あったけど誰かお客さん来てるの?」

 今日は出かけているはずだった我が愛しの妹によって、静寂が破られる。
 突然開けられた扉を見て固まる僕らと見知らぬ少年に目を凝らす小雪。しばらくの間、そのおかしな状態が続いた。

「誰?」

 小雪が正常になり、ようやく三人とも動き出す。

「こいつは宮内。この子は妹の小雪」

 どうもと互いに挨拶をする。
「時雨に友達ができた……?」とか小雪は思っているのだろう。そんな表情をしている。
 甚だ不本意な評価を受けていることに多少苛立ちはするが、小雪の惚けた顔もいつもとは違った可愛らしさがあり、それを見られたのだからプラスマイナスで言えば結果はプラスだ。
 そんな馬鹿な考えをして二人を放っていると、無駄に時間を使うだけなのでそろそろ事情を話した方がいいか。

「友達?」
「違う、僕はこれから宮内と一緒に小説を書くことになったんだ」
「小説書く友達?」
「違う」
「はっ、彼氏?」
「違う」
「誰?」

 僕と宮内は何なのか。今の僕らは関係性が曖昧だ。友達とは言えないし、もちろん彼氏ではない。僕は普通に女の子が好きだ。小雪とか小雪とか小雪とか。

「まあ誰でもいいよ。時雨が家に連れてきたってことはある程度信頼できる人なんだろうし」
「ん……まあ、たまに来るかもだから」
「了解」

 僕が頷くと、小雪は適当に返事して部屋から出ていく。
 面倒くさいことにならなくてよかった。昨日みたいに小雪が暴走し始めたら対応が億劫に感じるので、できるなら避けたい。ふうっと息を吐く。

「へえー」

 油断した矢先に宮内の声。嫌な予感がする。

「ボクのこと信頼してるんだ」
「してない」
「ちょっとはしてるんでしょ?」
「小雪が勝手に言ってただけだ」
「頷いてたじゃん」

 ええい、鬱陶しい。作業に集中できないじゃないか。
 本当のことなので否定はできない。信頼しているというより信頼できるようになりたいと思っていることは一応言わないでおく。
 さっきのように会話できただけでも僕にしてはいい傾向だ。この調子で徐々に彼と距離を縮めていきたい。

「今日はもう帰るよ」
「お、そうか。それはいい」

 是非帰ってくださいと出口へ促す。それを見て宮内は苦笑した。
 礼儀だと思って玄関まで見送りに来たが、早く小説の続きを書きたい。さっさと帰れや。

「じゃあ、また来るね」
「あいよ」

 あれだ。ライトノベル界隈で人気だというツンデレというやつです。でもですね。美少女に限るらしいです。
ネット小説大賞締め切られましたね。
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