挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
雅に時雨れる 作者:秋鹿光久
10/13

10

「どこですか女は」
「落ち着け」

 連れてきてしまった。
 騒がしくしている小雪にチョップをして、穂積さんを探す。
 僕はここに二度来ているが、どの時も静かでお洒落な空間だった。ここで小雪に騒がせるわけにはいかない。なるべく早く事情を説明して落ち着かせよう。
 とりあえず昨日の席を見てみると、そこで小説を読んでいた。

「ごめん穂積さん。遅くなってしまった」
「いえ、大丈夫です」

 本から目を離し、顔をあげると僕を見て嬉しそうな表情をする。
 だが、その表情はすぐに崩れることになる。

「え……小雪?」
「詩穂じゃないですか。もしかして時雨は詩穂に手を出したんですか。ロリコンですか。え、ロリコンですか」
「違うわ」
「なにが起こってるんですか……?」

 ただいま混線中。
 とりあえず僕と小雪がコーヒーを注文し、それを待っている間に事情を話した。
 どうやら小雪と穂積さんは小学生の頃からの友人で、中学はもちろん高校も同じところを受験するらしい。ちなみに穂積さんの本名は稲積詩穂で、僕が聞いたことのある名前だと口にすると、毎年年賀状が来ているからではと言われた。
 中学生だとは思っていたけど、まさか三年生だとは思わなかった。受験勉強の時間は取れているのだろうか。僕は無理だったから一時的に活動を辞めていたのだが、穂積さんは小雪と同じ天才の部類に入るのだろうか。
 穂積さんが小説を書いていることは言ってなかったが隠していたわけじゃないらしく、それについては何の問題もなかった。

「そうですか。時雨は詩穂にレクチャーしていただけなんですね」
「そうだよ」

 よかった。誤解は解けたらしい。
 しかし、今回は妹の愛を感じました。天野家兄妹の絆はそう簡単には切れないのですよ。ふふふ。

「時雨、顔きもいよ」
「小雪は僕と違ってかわいいよ」
「はいはい」

 その素っ気ない態度も照れ隠しなんですね。ほっこり。

「それよりびっくりしましたよ。ペンネームが天野なのは偶然なのかなって思っていたんですけど、まさか兄妹とは思わなかったです」
「そういえば詩穂が家に来るときっていつも部屋にこもってたよね」

 そうなのだ。小雪が家に友達を連れてくるときは決まってそうしていた。僕は人と話すのが苦手だから、いてもずっと黙っているだけになる。それじゃ空気を悪くするだろうなと思っていたのだ。

「気を遣ってたんだよ」
「コミュ障だもんね」
「うるさい」

 なんにせよ、穏便に事が済んでよかった。一歩間違っていたら僕は今頃死んでいただろう。
 穂積さんがはっと何かに気付く。

「あの、それじゃあそろそろ門限なんじゃ……」

 ポケットからスマホを出す。時刻は五時五十七分。あと三十分で夕飯の時間だ。

「うわ、時雨。帰らなきゃ」
「あ、でもまだ話してない」

 小説のことで話しに来たのに、そのことはまったく触れなかった。これでは穂積さんに申し訳ない。
 おずおずと彼女に視線を向ける。

「私はまた今度で大丈夫ですよ」

 確かに彼女が近所に住んでいることはわかったのだから、前よりも気軽に会えるだろう。それに小雪と友達だし高校も受かれば同じなのでコンタクトも取りやすい。必ずまた会うと約束して一緒に帰った。
 帰り道も途中まで同じだった。これなら昨日も送ってあげればよかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ