それはある師走某日。
とあるデパートのエレベーターで始まりました。
「げっ!エレベーター止まったー?!」
「最悪ー!いやぁ!!」
「まぁまぁ、みんな落ち着いてー」
「よく綾そんな平然と・・・」
応援を呼んでも返事はなし、と。
「うーわ!めっちゃ最悪じゃん!」
「せっかくこっち来たのにこれかー!!」
「まーしょーがねぇって。諦めろ」
「陽太の落ち着き屋!」
それは、偶然エレベーターに乗り合わせた男女の小さな小さな恋物語。
「あれー制服だ。じゃあ修学旅行生ねっ?」
「うん。ってことはそっちは地元民?」
「うん!偶然だね〜」
「ほんと。俺小泉陽太」
「あたし菅原綾ー」
そこで、運命の男の子と出会いました。
「もー綾はぁ。でもまぁ気分紛らわすのにちょうど良いかもね」
「そうだな。じゃあとりあえずお互い自己紹介でもすっか」
東京女子3人、福岡男子3人の計6人。
あたしたちは、何億分の1の確立で出会った。
「渡辺京子。趣味はプリクラでーっす」
「あたしは長谷川愛。編み物が好きかな」
「えーっと、あたしは菅原綾。趣味はー・・・」
「「まぬけなところ!でしょ」」
「もー!!」
俺たちは、この広い日本の中で出会った。
東京と福岡という離れた距離で、出会うべくして出会った。
一目見て思った。
この子、菅原綾・・・・なんかオーラが違うなって。
「俺は菊池亮!趣味はサッカー」
「田丸周介。趣味はー特にないっすね」
「俺、小泉陽太。趣味は・・・」
「「歌うこと!」」
「あっ、こら!勝手にっ・・・」
俺らのやりとりに、あの子が笑う。
ニコニコしてた顔がより一層微笑んで、声に出して笑うんだ。
思わずドキッとしてしまう。
そんなこんなで数十分がたったころ
ようやくドアの向こうに光が見えた。
「大丈夫かー?!」
「全員無事っす」
ようやく外へ出れた。
俺らは外の息を吸って、良かったなって笑いあう。
そして、デパートを出て6人で顔を見渡した。
「どーする?」
「俺らも今自由時間だしさー、せっかく知り合ったんだし」
「じゃあ6人で遊ぼうよ!」
「おー!!」
と、いうわけで6人で遊ぶことになった。
カラオケへ直行する。
みんな十八番の曲を歌ったり
アニメを歌ったりして、盛大に盛り上がった。
「いいぞー陽太!」
「うわ〜すっごく上手ー!!」
歌が得意な俺は、得意の曲をお披露目する。
これだけは誰にも負けない自信があるんだ。
歌い終わると、菅原さんの隣が空いてることに気がついた。
俺は菅原さんの隣へ行って、座る。
「すごいねー小泉くん!歌上手〜!!」
「ありがと〜っ」
「こいつ天使の歌声って言われてるんだぜー」
「へぇー!!」
ふと思った。
「菅原さん、まだ1曲も歌ってないっしょ?」
「あー・・・あたしは歌えないんだ」
「えっ?」
意外は答えに驚いた。
「部活で声出しすぎてノド弱くなっちゃってね〜。ドクターストップかけられてるの」
「じゃあカラオケなんか・・・・」
「あ、でもみんなが歌ってるの聞くの好きだから」
彼女は笑う。
ノド弱くなってしまったのに、笑ってられることに
自分が歌えないのにカラオケきて、でも文句もなにも言わないとこに
そして、なによりその笑顔に
俺は、全身全霊惹かれた。
嫌だって思わないの?
悔しいなとか、つまらないとか、思わないんだ。
この子は。
そういうところが俺にはとても眩しくて
輝かしくて
愛しく思えたんだ。
「じゃあさ」
俺は菅原さんの手をひく。
「2人で遊びに行っちゃおっか!」
「えぇっ?!」
同情なんかじゃなく
可哀想だからってわけでもなく
ただ単純に
彼女の笑顔が見たいと思ったから。
「楽しもうよ!」
店から出る。
目の前にある公園を通り抜けることにした。
とても大きな公園だった。
「あ、俺ジュース買ってくるよ」
「うん」
小泉くんは、自販機にジュースを買いに行く。
あたしは、ふと目の前にあるピアノに目を向けた。
「わ〜グランドピアノ!」
あんまり来ない公園だから、あるなんて知らなかった。
ピアノに近づく。
「弾いちゃおっかな」
少しなら弾けるんだよね。
昔習ってたから。
あたしは思い切って、曲を弾き出す。
♪〜♪〜♪♪〜♪〜
この前映画見て良いなと思ったんだ。
大塚愛の『恋愛写真』。
だから最近家で練習しちゃった。
「ただ君を愛してる♪ただそれだけで良かったのに♪」
弾いていると、小泉くんが戻ってきた。
そしてあたしのピアノに合わせて歌いだす。
恥ずかしかったけど
だけど、なぜかとっても心地が良くてついピアノを弾く。
「小さな部屋に飾られている♪2人の笑顔♪恋愛写真♪」
曲が終わる。
そして、2人で顔を見合わせて、笑う。
「すごいよ小泉くんー!ほんっとに上手い〜!!」
「菅原さんのピアノの方が上手だってー!まじびっくりしたよ〜」
上手って言葉に反応する。
「ほんと?」
「ほんとほんと!」
幾年も前の自分を思い出す。
忘れもしないよ、あの日。
「・・・あたしね、昔コンクールで大失敗しちゃったの。それ以来人前でピアノは弾かなくなっちゃったんだ」
「そうなの?もったいないってー!」
だから久しぶりに人前で弾いた。
ほんとは小泉くんが戻ってきたときやめようかと思ったけど、すっごく気持ち良かったから弾き続けた。
小泉くんの前で
小泉くんがあたしのピアノに合わせて歌うって、こんなに素敵なことなんだなー・・・って。
「ありがとう、小泉くん」
ピアノも弾かなくなって
ノドもだめになって
音楽関係を諦めきってたあたしにとって、小泉くんは天使のようだった。
カラオケだって、あたしを気にかけてくれたのは小泉くんがはじめて。
だから、すっごく嬉しいの。
「また一緒にできたら良いな!」
「うん!」
また、なんてあるか分からないのに
そんな不確実な約束、できるわけないのに
わずかな可能性にかけて
あたしは元気よく返事をする。
だって、また小泉くんと一緒に音楽やりたいって思ったから。
小泉くんに・・・惹かれたから。
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しばらくして、俺らはみんなのところへ戻ることに決めた。
周介が今ゲーセンにいるってメールしてきたから、菅原さんについてった。
「陽太〜突然いなくなるからびっくりしただろー」
「綾もだよー」
「「ごめーん!」」
ゲーセンで少し遊ぶ。
だけどすぐに俺らの自由時間は終わってしまった。
「やっべーそろそろ戻んないと遅刻だぜ」
「じゃあお開きにする?」
「だな」
あっという間だった。
菅原さんといられる時間が終わる。
俺らは戻らなければならない。
俺らはただの、修学旅行生だから。
「じゃーな!」
「なにかの縁でまた会えると良いねっ」
「可能性は低いけどな」
「じゃあ、ばいばい!」
亮と周介が女子にお別れを言う。
俺も、隣にいる菅原さんに口を開く。
「あの・・・さ」
だけど、上手く言葉にできない。
さよならとも言いたくない。
俺は福岡、彼女は東京。
飛行機に乗らなければ会えない距離。
もう会うことだってないに等しい。
だけど、それでもまた会いたいって願ってしまうんだ。
たった1日だったけど
たった数時間だったけど
それでも俺が彼女を想う気持ちに偽りはないから。
「もう・・・時間なんだね」
彼女が言う。
「うん・・・」
ここでくじけたって仕方がない。
よぉし、九州男児の意地を見せてやれ!!
「あのさっ・・・俺、俺は九州人で・・・ここを離れなきゃなんない。だけど・・・」
俺は持っていたペンで、紙切れに走り書きをする。
書き終わって、それを彼女に渡す。
「だけど、このままさよならなんて嫌だ!だから・・・だから、電話してほしい!また会いたいっ・・・!!」
「小泉くん・・・」
周介たちが俺を呼ぶ。
もう行かないと間に合わないと、言う。
俺も、歩き出す。
最後に彼女に最高の笑顔をしながら言った。
「いつかまた、一緒にコラボレーションしようよ」
そして、手を振りながら、帰る。
福岡へ帰らなければならない。
飛行機に乗らなければならない。
だけど、俺は絶対に忘れない。
「あれ綾、その紙なに?」
「これ?これは・・・」
あたしはその紙をぎゅっと握り締める。
「あたしと小泉くんをつなぐ、架け橋・・・」
小泉くんの携帯番号が書かれた紙。
あたしと小泉くんという距離をつないでくれる、唯一のもの。
福岡と東京。
こんなにも離れてるのに
会えるかなんて分からないのに
あたしは、その『いつかまた』という言葉を願う。
実現したいと、思うから。
確かに簡単には会えない。
お金もかかるし日にちもかかる。
だけど、そんなものも惜しくないくらいに会いたいって願うのは、あたしが小泉くんを好きだから。
その気持ちをなくしたくはないよ・・・・・
─────────1週間後
「なぁ陽太」
「ん?」
「お前さーこの前の修学旅行んとき菅原さんとなにしてたんだ?」
かかってこない携帯を見つめる。
「歌、歌ってた」
「は?カラオケ抜け出して?」
「そう」
もう1週間も経つ。
これだけ待って電話がこないってことは、もうだめか・・・・
確かに無理だよな。
こんなに離れてんだから。
だけど、俺はそれでもあの楽しかった日を思い出だけにはしたくない。
♪〜♪♪〜
電話が鳴る。
すかさず俺は手に取る。
「もしもしっ!」
『あ、小泉くん?あたし・・・菅原綾です』
それは、紛れもない小泉さんからの電話だった。
待ちに待った愛しい人からの電話。
『ごめんね、遅くなって。でも修学旅行のすぐ後じゃ疲れてるかなって思って』
「そっか。ううん、大丈夫」
『ほんと?良かったー』
笑う彼女の声に、懐かしさを感じる。
たった1週間だけど、俺にとっては何年も経ったかのように感じたんだ。
「・・・俺さ、菅原さんに会ってはじめて人を好きになるって、こういうことなんだなって思ったんだ。また会いたいなって、思う」
携帯を力強く握り締める。
『あたしたち、かなり離れてるよね』
彼女が言う。
「だけどそれでもっ・・・!」
『だけど、あたしもまた小泉くんに会いたい』
「えっ」
風が切る。
『小泉くんのおかげであたし、少しずつ気持ちが離れてた音楽とまた近づけた』
「うん・・・」
『・・・あたし、小泉くんのこと好き』
「ほんとに?俺たち・・・こんなに離れてるのに・・・・・」
『会いに行く。あのまま終わるなんて嫌なの』
涙が出そうになるほど嬉しかった。
俺が思っていたことを、同じように彼女も思ってくれていた。
「俺が会いに行くよ!」
ただ好きだと思った。
ただ・・・君を愛してると思ったんだ。
それだけなんだ。
君が笑ってくれるなら俺は何度でも歌を歌うよ。
君がピアノを弾くのなら
俺は隣でいくらでも歌う。
ただ、それだけで良いんだ。
いつかまた会いに行ったとき
きっとまた彼女はピアノを弾いてるに違いない。
だって俺らをつなぐのは、それしかないから──────・・・。
「そろそろ陽太くるかなー」
あれから何ヶ月か経った。
あいかわらずあたしはピアノを弾く。
だってピアノを弾けばきっと
あたしを救ってくれた天使が、またあたしの元に現れて
歌ってくれるに違いないから。
あたしがピアノを弾けば
彼は歌う。
あたしたちは、それだけ。
それだけだけど、それが一番愛しいことだと思うから。
♪♪〜♪〜♪〜♪〜
「ただ君を愛してる♪あなたがくれた幸せよ♪」
ほら
あたしのピアノに合わせて歌が聞こえる。
天使の歌声。
そして、懐かしい声がするの。
「久しぶり、綾」
あたしたちは
音楽をつないで、愛をつないだ。
fin |