第1話 始まり
ねぇ…里乃…
隣に居てくれないか?
ねぇ…
僕が眠りに就くまで。
その間だけ
「水川 里乃を、愛してまぁ〜っす!!」
また…だ。
あっ、私、水川 里乃。ごくごく普通の大学生。
髪は少しウェーブのかかったロング
チャームポイントは漆黒の眼。
…と、私の紹介はこのくらいで良いかな?
さてと、次。
さっきのバカな声は、高校生のドアホ、山口 心
名前はなんか良い感じなんだけど、ホントドアホ過ぎて手を焼いています。
どうも彼…私にゾッコンみたい…
心と会ったのは、私の弟、秀哉(高校生)の体育大会の時…
私が秀哉を応援していた時…
心が私の横に座った。
「あったかいなぁ。」
って、心が言ったからびっくりして
「だって夏でしょ!!暑いの間違いなんじゃない?!」
私はあまりにも非常識な心に腹をたてて、罵声を放ってしまう。
「わぁ!?」
心は驚いた。
まぁ、初対面の人にいきなり怒鳴られたら、そりゃビビるわ。
「コホン…失礼致しました…今のは無かったと…。」
「あったかいなぁ。」
もう一度同じ言葉を放った心に
私は…理由をきく。
「何がそんなにあったかいなぁ…なのよ!!」
「わっ、また怒鳴られちゃった…てへ。」
心は頭をカシカシと掻いて、舌を出した。
そして、心は空を見上げる。
「確かに、夏は暑いよ…でもさぁ、どうして俺の居るこの場所だけは、暖かいのかな?」「そんなの、知るか!!」
私はプイッとそっぽを向く。
「もしかして、君の隣だからかな…?
なんちゃって!!」
心はアハハ…と気の抜けた笑みを浮かべた。
…それからだ。
それから心は、私に付きまとってきた。
心は秀哉と仲が良かったみたいで、秀哉から私の情報を聞いて…
何度となく、アタックしてくる。
私は心なんかに興味無いのにさ!!
今日も、私の家の前で叫んでやがる。
あぁ〜もう!!
勉強に集中出来ないじゃない!!
私はドスドスと、階段を降りて
玄関の扉を開け、叫んでやった。
「もう!!あんた、迷惑なのよ!!」
しーん。
そこには誰も居ない。
はぁ?
あいつ…
何で居ないんだよ!!
カァ…
私、馬鹿みたい。
思わずうつ向き赤面。
「やぁ、マドモアゼル!!」
妙な声が聞こえた。
紛れもなく、あいつ。
顔をあげると
タキシード、真っ赤な薔薇の花束…
馬鹿が居た。
「失礼、あなたは誰ですか?私は知りませんよ?」
私はその光景に飽きれ、力の抜けた声で言う。
「何を言うんだい、マドモアゼル!!
僕と君は愛を誓いあった仲なのに!!」
私はザッと歩みでて、心のこめかみを指で突くように
心を指した。
「あんたね、いい加減にいないと、殺すわよ?分かってんでしょうね!!」
「君に…いや、愛しい里乃は…愛しい僕に
そんな事をするわけないじゃないか!!」
「はぁ…もうどうでも良いわ…。」
私は長い溜め息を吐いた。
その仕草を見る心。
「お疲れのようだね、マイハニー!!今日はじっくり休みなさい。さ、この花束を持って。」
ほぼ強引に、花束を受け取らされ、私は家に入っていく。
私、バカだわ…
玄関の扉を閉めて、もう一度長い溜め息。
彼…あんなにも真剣なのに…
私ったら、彼の気持ちに答えたことない
ただ怒ったり
ただわめいたり
「私は貴方じゃ駄目なの…。」
こんな一言、私なら平気で言えるはずなのにね…
なんでだろ?
私はふと、貰った花束を見てみた。
メッセージカード?
中を開いてみる。
“お誕生日、おめでとう、里乃!!”
不意に涙が溢れてきた…。
心はね、ビックリマークをいつも2個書くんだ。
そっか、そういえば、私、今日
誕生日だったんだ。
心ったら、大切な事は覚えてるんだ!!
褒めてあげよう、なんて…
違うね…
私、心に感謝してるんだわ。
ありがとうって。
私は心に伝えなきゃいけないの
決意した私は、心の家の番号を回して受話器をごしに
“今から公園に来て”
と、呟いた。