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Chapter:01 日常
Episode:07
◇Rufeir
 ケンディクの街は穏やかだった。
 もっともこの街は年間を通して観光客で賑わうから、どの時期でも人通りはけっこう多い。

――あとで港で、海が見たいな。

 観光都市で景観のいい場所が多いこのケンディクで、あたしがいちばん気に入ってる場所だ。
 海は好きだった。
 港の桟橋の突端に座って潮騒を聞いていると、不思議と落ちつく。理由はわからないけど……抱かれているような気になって、とても安心だった。

 実を言えばゆっくりと海を見たのは、学院へ入学してからだ。
 もちろんその前も見たことがないわけじゃないけど、戦場から戦場へ渡り歩く途中でちょっと立ち寄る程度だったから、座りこんでながめているほどの時間は取れなかった。

「海の色はね、あんたの瞳と同じなのよ」
 そう母さんがよく言ってたけど、ケンディクへ来て初めてそれが本当だと知った。
 それに海は繋がってる。父さんや母さんがよくいるアヴァンの大陸にも、シュマーの本拠地がある大陸にも。

「ルーフェイア、何をしているのですか。遅れますよ」
「あ、はいっ!」
 船を降りたところで立ち止まっていたものだから、たちまちタシュア先輩に叱られる羽目になった。

――どうしてあたし、こうなんだろう?
 また悲しくなる。
 考えるだけなら後でもできたのに、今考えてるなんて……。

「泣く暇があるのなら、早く駅へ行きなさい。もう列車が着く時間ですよ」
「ごめんなさいっ!」
 こみ上げてきた涙をぬぐって、慌てて歩き出す。
 でも次の瞬間、あたしは思わず立ち止まった。

「どうした?」
「いえ、その……」
 シルファ先輩に上手く返せないまま、周囲を探る。

「なにをしているのです」
「いえ、今何か、気配が……」
「――? 何もないようですが」
 あたしと同じように戦場で育って、気配を捉えることが上手いタシュア先輩が、そう言う。

――気のせいだったのかな?
 確かに視線を感じたと思ったけど、勘違いだったのかもしれない。
 なによりもう、辺りにはなにもなかった。

「急ぎなさい。待たせるつもりですか?」
「すみません……」
「私に謝っても意味がありませんよ」
「………」
 もう、どうしていいか分からなくなる。

「ともかく駅まで行こう。イマドが待ってるかもしれないだろう?」
「あ、はい……」
 シルファ先輩にうながされて、あたしは歩き出した。
 連絡船が着く桟橋から駅までは、少し距離がある。

 初めてここへ来たのは、まだ一昨年の話だ。だけどその前と後とで、あたしの生活は言葉通り一変した。
 この穏やかなケンディクにいたら想像できないような――でもそういう場所で、あたしは育った。

――どっちが本当なんだろう?

 あの地獄が夢だったのか、それとも今が偽りなんだろうか。
 どちらも現実だとわかっていても、そう思わずにいられなかった。
 けどあたしは、いつかはあの場所に戻らなくちゃならなくて……。




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