「シルファ、おそらくこのケーキのことです」
考えこんでいる私へ、タシュアが説明した。
「このケーキって……これはチョコレートだぞ?」
間違ってもイカ墨を入れたりはしない。
だいいち、見れば普通は……。
「……チョコレートって、ケーキに使うんですか?」
――この子は例外だったらしい。
「ルーフェイア、チョコレートが何かは知っていますか?」
「携帯食のキットによく入ってる、黒くて甘くて四角いのですよね?」
問いにルーフェイアは、無邪気に答えた。しかも「美味しいから好きだ」と言う。
やれやれとタシュアがため息をついて、この子がきょとんとした顔になった。
「あの、違うんですか……?」
「間違ってはいないんだが……」
どう説明したものか。
悪気は無いのだが、どうもルーフェイアは一般常識に疎い子だった。
知識が必須だった戦闘関係と医療・語学、あとはなぜか歴史に偏っていて、その他の事となると不安なほどに知らないのだ。
「ともかくチョコレートは、もともとはお菓子だったんだ。
ただそれが非常食に向いていたものだから、キットに入れるようになっただけで……」
「あ、だからおいしいんですね」
とりあえず納得したらしく、この子がうなずく。
「その調子で、よく今まで平気でしたね」
――いけない。
せっかく泣き止んだルーフェイアが、また泣き出しそうになった。
「と、ともかく食べたらどうだ? お茶でも淹れるから」
慌ててまた間に入る。
「コーヒーにしていただけますか?」
「分かった。
――ルーフェイアは何がいい?」
「あ、あたしはなんでも……」
およそ自己主張とは縁のないこの子は、予想通りの返事だ。
「紅茶でいいか?」
「あ、はい」
それにしても保護者役のイマドがいない分、ルーフェイアを泣き止ませるのは大変だった。
なんでもこの子が言うには、いつもこの時期になるとイマドは、親戚のいるドールへ母親のお墓参りに帰るのだそうだ。
「そう言えばイマドは、いつ帰ってくるんだ?」
なんとはなしに訊く。
「えっと、今日の午後帰ってくるんです」
嬉しそうにルーフェイアが答えた。
当人は全く自覚していないのだろうが、やはりイマドの傍がいいらしい。
「じゃぁこのあと、ケンディクまで行くのか?」
「はい」
その答えを聞いて、私は少し考えこんだ。
「そうしたら……ケンディクまで一緒に行くか?」
ルーフェイアの表情が一瞬だけ輝く。
ただ遠慮深いこの子は、またすぐにうつむいてしまった。
「どうした?」
「いえ……その、迷惑、ですから……」
「いいんだ」
きっぱりと言い切る。
「今日はもともと、このあとケンディクへ出て、買い物をしようと思っていたんだ」
こう口添えすると、ようやくルーフェイアが安心した顔になった。
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