「なんだ、自分でもわかんねぇのか?」
「――うん」
「では、気のせいだったのでしょう」
あっさりとタシュアが切り捨てて、おしまいになった。
ただ例によって、彼は一言付け加える。
「だいいち、この世の中にあなたを気にする人が、そうそういるとも思えませんしね」
「ごめんなさい……」
また冗談?を間に受けて、この子がうつむいた。
――朝から何度目だろうか?
普通とは違う意味で、タシュアとルーフェイアは相性が良すぎる。
「ほら、泣いてっと置いてっちまうぞ?」
「や、やだっ!」
イマドの言葉に驚いたのだろう、この子が泣くのを止めて慌てて走り寄った。
「ば〜か、ウソだって」
「もう!」
それにしてもイマドも、案外意地が悪いような……。
「ほら、怒るなって。向こう着いたら、めずらしいチョコでも買ってやっから」
「……♪」
さすが保護者を買って?出るだけあって、対応が見事だ。ルーフェイアが、嬉しそうな表情になる。
「チョコレートひとつで釣られますか」
「………」
こっちも対応が見事だ。今嬉しそうにしていたこの子が、たちまち悲しそうな表情に変わる。
それにしても、大人しいなりに表情がくるくると変わるルーフェイアは、見ていて飽きなかった。
「そんなに……悲しそうにするな。
新しい材料が買えたら、またケーキを作るから」
「シルファまで一緒になって甘やかして、どうしますか」
例によって忘れずタシュアが突っ込んできたが、私は切り返した。
まるっきり言われっぱなしというのも、なんとなくつまらない。
「別に、いいじゃないか。それに作れば、タシュアも食べるんだろう?」
「それとこれとは別でしょう」
――やっぱりかなわない。
なにしろタシュアの毒舌を躱せる人間は、数えても片手で十分こと足りるのだ。
これ以上何か言うと、それこそ収拾がつかなくなりそうで、結局私は言うのを止めた。
「ルーフェイア、行こう。もうすぐそこだから」
「あ、はい」
案の定タシュアはもうなにも言わなかった。
自分に矛先が向けば話は別だが、基本的に彼はあまり他人に興味を示さない。自分は自分、他人は他人という態度がはっきりしている。
――ルーフェイアだけは、別らしいが。
いじめ易いのがことのほか気に入ったのだろう、この子が寄ってくるとタシュアは、ほぼ必ず相手をしていた。
しかもルーフェイアのほうも「泣かされる」ではなく「自分が悪いから叱られる」と思い込んでいるから、嫌うことがない。
まぁそのうちに、気が付くだろうが……。
「そこの角を……左、だよね?」
ルーフェイアが通りの先を指差した。イマドと行ったことがあるらしい。
だが店を良く知っているはずのイマドの方が、訝しげな表情になる。
「どうしたの?」
「いや、なんか……休みみてぇだぜ?」
「?」
まだ店が見えているわけでもないのに、この後輩がそんなことを言い出した。
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