「どうぞ」
タシュア先輩が答えて、扉が開いた。看護士さんが入ってくる。
「あの時の……?」
「あら、よく覚えてるわねぇ。けど良かった、目が覚めたのね」
入ってきたのは、事件の夜に手助けしてくれた看護士さんだった。
今見ると、名札に「主任」と書いてある。
――それで、だったんだ。
あんな状況で、どうしてあれほど落ち着いてたのか不思議だったけど、病棟の偉い看護士さんなら納得できる。
「ずっと眠ってて、ちょっと気を揉んでたんだけど。
でも、思ったより元気そうだし」
わざとじゃないけど、ずいぶん心配させてしまったみたいだ。
「すみません……」
「いいのよ、謝らなくて。だいたい病気なんて、寝るのがいちばんの薬なんだから。
それより、気分はどぉ?」
言いながら手際よく、あたしの熱と脈とを計っていく。
「――うーん、小児のハートレートって、こんなだったかな?
まぁいいわ、あとでちゃんと、先生に診てもらおうね」
「あ、はい……」
あんまり気は進まないけど、嫌だとは言えなかった。
「大丈夫よ、うちのセンセ、別にヘンなことしないから。
それに学院の……なんだっけ? ともかく学院の先生も来て、一緒に診ることになってるし」
「ほんとですか?」
それだったら、いろいろと疑われずに済む。
「こんなことで、嘘言ったりしないわよ。
あ、そうそう、何か食べる?」
訊かれて困ってしまった。まだあんまり――食べたくない。
そんなあたしを見て、主任さんが笑う。
「食欲、なさそうね。
そしたらミルクと、何か口あたりの良さそうなもの持ってきて――あら」
言葉が途中で止まったのは、部屋に人が入ってきたからだ。
ムアカ先生とシルファ先輩と、それに……。
「――イマド!」
「よ。だいぶ良さそうじゃねぇか」
いつもと変わらない調子で、彼が入ってくる。
不意に涙がこぼれた。
「お、おい、いきなりどした」
「タシュア……また、いじめていたのか?」
「人聞きの悪いことを言わないでください。ただ本を読んでいただけで、どうやったらそんなことが出来ますか」
イマドと先輩たちとが、いつものやり取りを始める。
そう、「いつも」の。
あの時、思った。もし二度と戻ってこれなくても、構わないと。
でも……。
「ほら、泣きやめって。けどこんだけ泣けりゃ、帰れんじゃねぇか?
――ですよね、センセ」
「まぁ、大丈夫でしょうね」
イマドの言葉に、ムアカ先生が笑いながら答えた。
その様子に、よけい涙があふれる。
やっぱりあたし――今が、好きだ。
「あ〜あ、こりゃ重症だな」
なかなか涙が止まらないのを見て、イマドが苦笑しながらあたしを覗き込んだ。
光の加減で金色にも見える彼の瞳に、あたしが映る。
「――なるほど、そゆワケか」
「ごめん……」
自分でももう、何に謝っているのか分からない。
イマドがもう一度笑った。
「ま、怒るにゃ時効だしな。けどもう、ムチャすんなよ?」
「――うん」
優しい言葉に泣きながら……あたしも、笑った。
◇あとがき◇
長い話を最後まで、本当にありがとうございました。
なお現在、第11作目を連載中です。いつもどおり“夜8時過ぎ”の更新です。
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