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転校少年
作:菜田出ココ太



第一話 氷が融ける時 序〜三


 序

 ぐったりと横たわったベッドの後ろで、タバコに火をつける音が聞こえた。
 薄暗い部屋に一瞬ライターの明かりが灯ったが、吐き出した煙と共にまた元の闇に戻る。
 何度かタバコを吸う音が聞こえていたが、背中を向けて横たわったまま、山崎あきらはこのまま眠った振りをしようと思った。
〈……もういい加減にしてくれ……〉
 山崎は固く目をつむり、このまま朝になってくれないかと願った。また、もう二度とこんな夜を迎えたくないとも願った。
 その山崎の願いは、一つは叶えられたが、もう一つは最後まで叶えられなかった。
「やっぱりね……」
 山崎の願いの主は、そんな山崎の背中を見て何か感じたのか、吸っていたタバコをもみ消し、もう一度山崎の背中に抱きついた。
「あんた、渚ちゃんの事好きなんでしょう? 長岡な・ぎ・さ・ちゃん」
 最後の名前は一音、一音、ゆっくりと憎しみを込めて発音した。
 山崎は、いつか尋ねられると覚悟していた質問を、しかし答えられる筈もなく聞こえない振りをした。
「ふーん無視するの。もうあたしの言う事も聞きたくないんだ」
 そう言って背中から胸に移動し、胸から下腹部に移動させる手を、山崎は何も感じていない様に振舞った。
〈何も聞こえない。何も感じない。もう俺は眠っているんだ〉
 山崎は疲れた身体にまかせて、このまま眠りに落ちる努力をした。
 しかしその努力せいで、山崎は後ろから首に掛けられた紐に気付かなかった。
「許さないわ。あんたはあたしのものなのよ!」
 気付いたのは、絶叫と共に首を絞められる痛みと、息が出来ない苦しみが襲って来てからであった。
「死ねぇ!」
 絶叫の主は、後ろから細い紐のようなベルトを山崎の首に回し、思い切り左右に引いていた。
「うぐっ」
 山崎は声にならない。
「死ね。死になさいよ」
 山崎の首はさらに絞まる。食い込んだ紐に指も掛からない。
「死ね」
 山崎の意識はモウロウとして来た。
 そのモウロウとした意識の霧の向こうに、薄っすらと人の顔が浮かんだ。
「な、なぎさ……」
 息も出来ない口から言葉が漏れた。
 しかしその新しい恋人の名前は、この殺人者を逆上させるに十分であった。
「許さないわ。死ね!」
 今まで以上の力が、山崎の首に掛かった。
「死ね。死ね。死ね!」
 殺人者は、何度も何度も絶叫した。
「死ね!」
 ちぎれるほど紐を引いた。
「死ね!」
 窒息死するには十分な時間が経過した。
 やがて、殺人者は紐から手を離し、ベッドに両手をついて、肩で息をした。
 長い間、肩で息をする音が繰り返されていた。
 そして気が付くと、この薄暗い部屋で聞こえる音は、その一つだけになっていた。

 一

 朝の市内行きの渋滞は想像以上にひどかったが、ドライブスルーの朝食を諦めたおかげで、時間にはまだ余裕があった。
 何度か交差点を曲がった後、国道のほとんど流れていない流れに車を任せると、運転席の梅田俊松うめだとしまつは助手席に目を向けた。
 助手席では、何処かの学校の制服を着ている男子高校生が、さっきから履歴書のような写真付きのファイルを、何度もめくっては戻し、ぶつぶつ言っている。
 結局ファイルは、何やら建物が写っている最初のページに戻された。
「桃樹、それが今度転校する高校だ」
 梅田俊松は助手席の息子に声を掛けた。
 桃樹ももきと呼ばれた男子高校生は、ファイルをめくりその高校の制服を着た男子生徒の写真を指さした。
 写真の下に、「氏名・山崎やまざきあきら」と書いてある。
「ふーん。でオヤジ、こいつがどうしたんだ」
 信号が変わり、車の流れが少しだけ前に進む。運転席の父親はブレーキから足を離した。
「十日前に家族から捜索願が出された。家出人捜査だ」
 それを聞いた桃樹はファイルを閉じ、手を頭の後ろに組んでシートに深くもたれる。
 桃樹の態度はあからさまだ。
「なんだ、不満そうだな。つまらん事件に狩り出すなってな顔だ。わかりやすい。すぐ顔に出やがる」
 俊松はちらっと助手席を見た。
 桃樹は黙って窓の方を向いた。父親に顔を見られないためである。しかし、ドアミラー越しに直ぐに父親と目が合うと、諦めて父親の方を向いた。
「別に、初めてなんだから、そんなもんだろ……ただ、女なんだなぁと思ってね」
 桃樹は、失踪した山崎あきらの次のページから、パラパラとファイルをめくる。山崎から後の写真は、全て女性であった。
「桃樹。いい加減、男好きの趣味を変えて、ちゃんと女の子を好きになったらどうだ。健康的に」
「お、おれは別に男好きでも女嫌いな訳でもないっ。ふざけるなっ」
 桃樹は、父親のつまらない冗談に身を起こして睨みつけたが、すぐに冷静になってシートに深くもたれた。そして自分の手のひらを見る。
「おれは女嫌いな訳じゃない、女に嫌われてるだけだ」
「はっはっ。まあ、そう自虐的になるな。お前の能力が、女に対してほとんど使えないのはわかってる。だが、それは実験での話だ。今日からは実戦だ。実験では得られないものが、きっと得られる。だから……」
 桃樹は窓の外を見ていた。いや、目を閉じているようにも見える。とにかく、自分の話はもう聞いてないようだ。
 少し国道の流れが良くなってきたのか、梅田俊松はアクセルを多めに踏む。
 車は国道を左に折れ、住宅街に入った。
 もうすぐ目的の学校に到着する。俊松は気持ちを切り替えた。
「桃樹、お前が女嫌いなのはさくらのせいだろ」
 俊松は自分の娘、桃樹の姉の名前を口にした。
「あいつは特別の性悪女だ。あいつを基準に考えたら世の中の女性に対して失礼だぞ」
「そうだな」
 桃樹は顔を上げた。顔は少し、笑っている。
 姉のさくらは、今頃お約束のくしゃみをしているだろう。
 車は校門の前に着いた。
「桃樹、あまり能力に頼るな」
 俊松は冗談から一転、真面目な顔で言った。
「お前の仕事は、彼女達から失踪者の情報を引出す事だ。方法は何でもいい。俺たちがやるように、普通の捜査をすればいいんだ」
 いつも能力を試され続ける桃樹にとって、それは以外な言葉だった。
 一瞬父親の顔を見て、「ああ」とだけ返す。
「しかしお前、まだファイルの中身をちゃんと暗記してないだろう」
 桃樹は「その通り」の顔をした。
「俺は完璧に記憶している。俺の記憶を読み取れ」
 俊松は左手を差し出した。
「ちっ。今さっき、能力は使わなくていいと言ったばっかりだろ」
 桃樹は同じく左手で握手の形を取ろうとしたが、なんだか気持ち悪いので、右手で俊松の左手首を掴んだ。
 桃樹は触れる事により相手の思考や記憶を読み取る能力を持っている。それは、いわゆる心を読むという程大げさなものでなく、極々相手の表面の思考や記憶を読み取れる程度の能力であった。
 しかし彼は、目で見たり耳で聞いた事は人並み程度にしか記憶できないが、記憶を読む能力を使って得た情報は、ほぼ完璧に記憶する事が出来た。
 一瞬の後、桃樹は記憶を読み終え俊松から手を離した。
 運転席の父親に「じゃあ」と普通の挨拶をして車を降りる時、桃樹はふと、
〈本当のオヤジみたいだな〉
 と思ったが、つまらない考えを吹き消すように頭を振ると、そのまま後ろ手でドアを閉めた。
 車はそのまま走り去った。

 二

 もう新緑と言うほど青々とはしていないが、校門から校舎の入り口に掛けてのけやきの緑は、周りの空気を新鮮なものに変えてくれているようだ。
 桃樹はあくびなのか、深呼吸なのか、とにかく深く息をしてその空気をいっぱいに吸い込むと、左手に持った鞄を肩に担いで歩き出した。
 桃樹の心の中にも新鮮さはあった。新しい学校の門をくぐるというのは、期待や不安やらで、何やらどきどきするものだ。
 それが、他の生徒とは明らかに違う目的であっても。
〈さあ、何から始めるか〉
 桃樹が思った瞬間、始まった。
 記憶――ファイルにあった顔が横を通り過ぎたのだ。
「あっ、ちょっと待って」
 桃樹は考えるより先に言葉が出て、その女子の肩に手を掛けた。
 伏し目がちに歩いていた彼女が、振り向きながら顔を上げる。
 そして桃樹と目が合った。
 その瞬間だった。
 何かの映像が彼女から桃樹に伝わった。
 いや、桃樹はその映像の中にいた。

 薄暗い部屋。
 夕方なのか、早朝なのかわからない。
 誰かがゆっくりと彼女に近づいてくる。
 ゆっくりと。
 それは男だった。
 彼女は尻もちをついたまま後ずさりしている。
 叫ぼうとしたが声が出ない。
 近づいてきた男が、彼女が手に抱え持っていた物を奪いとった。
 それは衣服だった。
 彼女の上半身は何も付けていなかった。
 彼女は手で胸を隠そうとする。
 男は今度はその手を掴み、胸から引き離す。
 彼女は男から逃れようとして後ろへ下がる。
 その背中が部屋の壁に当たった。
 もう逃げ場はなかった。
 桃樹は動けなかった。
 まるで自分がその部屋にいるような感覚であり、大きなスクリーンで映画を見ているような感覚でもあった。
 男は彼女に襲いかかろうとした。
 彼女は必死で抵抗し、顔を横に向けた。
 そこに鏡があった。
 彼女は鏡の中に、恐怖で見開かれた自分の目を見た。
 そして桃樹の目が、その目と合った。
 ――気が付くと、それは振り向いた彼女の目だった。

 映像は消えていた。
 桃樹の手は彼女の肩から外れ、周りの雑音が現実に戻った事を教えていた。
 一瞬だったのか、どれだけ時間が経ったのかわからない。
 声を掛けた本人が黙ったままなので、彼女は少し迷惑そうに「何ですか」と聞いたのだが、桃樹はその声が現実の彼女のものだとわかっても直ぐには反応出来ず、やっとの思いで乾いた口を開き職員室の場所を質問した。
 桃樹は、その後彼女が「職員室はあっちの校舎です」と言って指差した方向に「ありがとう」と答えて歩き、その校舎の入口に来たはずなのだが、ほとんど覚えていない。
 桃樹は、触れる事により相手の思考や記憶を読み取る能力を持っている。それは、いわゆる心を読むという程大げさなものでなく、極々相手の表面の思考や記憶を読み取れる程度の能力である。
 しかし実験では、彼の能力は女性に対してはほとんど通じなかった。その理由はわかっていない。そもそも彼の能力が解明出来る物でない以上、その能力の適応性が解る訳がなかった。
 職員室側の校舎の入口は、日陰になっていて薄暗い。スリッパに履き替え廊下に上がると、桃樹はそのまま座り込んでしまった。
 廊下の空気はひんやりとしていた。
 この校舎の本当の入口は反対側にあるようで、出勤してきた教師はその反対側の入口からすぐの階段を上り二階の職員室へと向かう為、この辺りの廊下に今は人影はなかった。
 桃樹は座り込んだまま彼女の肩に乗せた手を見ていた。
 彼女は失踪した山崎あきらのクラスメイトの水無瀬青葉みなせあおばだった。桃樹が車の中で見ていたファイルで、山崎の次に写真が載っていた女子である。
 山崎はクラス委員長を勤めており、水無瀬は副委員長。二人は恋人同士だったらしい。
 彼女が山崎の失踪の理由を知っている確率は高い。だから桃樹は彼女に声を掛けたのだ。
 しかし彼に伝わったものは、あの映像だった。映像だけではなかった。あの時、彼女から桃樹の右手を通して冷たく氷のようなものが心の中に入り込んで来た気がしたのだ。
 桃樹の心の中では、今もその冷たく氷のようなものが、重くのしかかって桃樹の身体を動けなくしているようであった。

 三

 いつものように、ヒールを脱いでスリッパに履き替え校舎に入り、直ぐ横の階段を上って職員室のある二階へ上がる。
 そうしようとして階段に足を掛けた時、視界の端に誰かがいるのに気が付いた。よく見ると反対側の廊下に男子生徒がうずくまっている。
 淡路玲子あわじれいこはペタペタとスリッパをならして近づき、声を掛けた。
 ウチの制服ではなかったので、ピンと来た。
「あなたもしかして、今日転入の梅田桃樹くん?」
 桃樹は誰かが近づいて来たのがわかって、立ち上がろうとしたのだが間に合わなかった。
 壁に手を付き、体を起こしながら、「は、はいそうです」と言ったが、そのままフラっと来て倒れそうになった。冷たく氷のようなものは、今も桃樹の身体に乗り掛かっているかのようだったのだ。
「どうしたの。気分でも悪いの」
 淡路玲子は、そう言って桃樹の身体を支えたが、質問の返事は聞かなくてもわかる。桃樹の顔は真っ青であった。
「とりあえず保健室に行きましょう。すぐそこだから」
 桃樹は淡路玲子に支えられながら、廊下を歩き保健室に入った。保健室にはまだ誰もいない様で、淡路玲子は桃樹をベッドに座らせると自己紹介をし始めた。
「保健婦さんはまだ見たいね。ま、いいわ。私は淡路です。あなたの担任なの」
 桃樹はファイルを見て知っていたが「まあ偶然」見たいな顔をしようとした。もっとも、うまく顔の表情を作れる余裕は今の桃樹にはなかったが……
「あなたの制服がウチのと違うからわかったの。でもいきなり廊下で倒れてるとは思わなかったわ。あなた身体でも悪いの?」
〈別に倒れてた訳じゃなかったんだけど……〉
 桃樹は思ったが、何を言っていいかわからず黙ってると、玲子の方で自己完結した。
「ま、いいわ。今は何もしゃべらない方がいいみたいね。とりあえずここで寝てなさい。それで、保健婦さんが来たら事情を説明して。さっきも言ったけどあなたの担任は私、淡路で、クラスは二組だから。気分が良くなったら職員室に来てくれる。あ、でももうすぐ朝の職員会議があって、すぐ後に朝のホームルームだから、とりあえずそれが終わったらもう一度私がここに来るわ。それまで良い子で寝ててね。じゃあ」
 早口で言い終え、保健室を出ていった淡路先生が戸の向こうに消えると、
〈どうして女教師っていうのは、男子生徒の扱いが、小学生でも高校生でも変わらないんだ〉
 と、最後の「良い子で寝ててね」の言葉を思い出し、桃樹はぼんやりと思う。
 そしてしばらく、桃樹がぼーっと保健室の天井を見ていると、ガラガラと保健室のドアが開く音がした。保健の先生が来たのだと思い、ベッドから身を起こし入口を見た途端、桃樹の表情は固まった。
「あら、こんな所に居たの。どーしたのよいきなり、ケガでもした。誰かにやられたの? かわいそうに、お姉さんが診てあげる」
 その声の女性は、スタスタと歩いて来ると、桃樹のベッドに腰掛けて上半身を起こした彼の肩に手を回す。
 なんと保健室に入って来たのは、桃樹の姉、さくらであった。
「ねーちゃん。何で来たんだよ」
「何でって、桃樹が心配だからじゃない。初めてのお仕事だしね」
 桃樹は肩にある姉の腕を振りほどき、足をベッドから下ろしてさくらの横に座った。いつまでも寝てたら、何を言われるかわからない。
「心配ってなんだよ。おれは大丈夫だよ」
「何が大丈夫よ。いきなり保健室で寝てんじゃない。年増の女教師に抱きかかえられて」
「見てたの? ねーちゃん」桃樹は目を丸くした。
〈いったいどこから……でも別に年増じゃないと思うけど……〉そう思ったが口には出さない。この姉に口答えしても、勝てる見込みはないからである。
「それとも母性本能くすぐり作戦? この年増キラー」と意味もなくさくらは桃樹の腕をつねる。
「いててて」〈だから年増じゃないって〉と思いながら桃樹は少し溜め息をついた。
「そんなんじゃないよ。まだ何も始まってない。おれはスタートラインに立つ前に大転倒しちゃったんだよ」
「それで保健室に運ばれたの?」
 さくらは桃樹のわかりにくい例え話に答える。
 桃樹は諦めて、水無瀬青葉に触れた時の事を話した。
 しかし彼は全てを話せた訳ではなかった。まだ彼の心の中には冷たく重いものがあって、あの映像を思い出すたび何も話せなくなるのだ。
 ひと通りの話を聞いて、さくらは足を組んだ。
「ふーん。その青葉ちゃんっていう女の子、怪しいわね。だいたい自分の彼氏が行方不明になってんのに、なんか落ち着いてるし……」
「えっ、ねーちゃん。調べてたの」
「ちらっとだけよ」さくらは続けた。「それに失踪した山崎あきらって子は最近新しい女作ってたらしいよ。同じクラブの長岡渚ながおかなぎさって子。最近の高校生はお盛んねぇ。ちっとは勉強しろってんだ」
〈あんただって大学生だろ……〉桃樹は姉を見る。
「そんでもって、今朝の桃樹に対する反応……決まりじゃない。青葉ちゃんって子は絶対何かを隠してる。だからびくびくしてるのよ。それが恐怖心となって桃樹に伝わったんでしょ」
「そんなんじゃないと思う」桃樹は珍しく姉に反抗した。
「あれはもっと心の奥にある昔の記憶。と、思う……」
 桃樹はまた手を見ていた。
「ふーん」さくらは立ち上がった。「まあいいわ。とりあえずあんたの好きなようにやりなさい。これはあんたの仕事なんだから……でもね」
 さくらは座ってる桃樹の頭を抱いて、顔を自分の胸にあてた。
「記憶って、全ては自分の中で作られる物なの。ビデオカメラの記録じゃない。目や耳や感じた事が、自分の中で勝手に変化してその断片だけが残る。後から感じた事で以前の記憶も変わっちゃうものなんだから」
 桃樹はわかったようなわからないような顔をした。
「あたしの心を読んで、桃樹……」
 さくらはさらに桃樹の顔を自分の胸に押し当てた。
 桃樹は日々の訓練によって、姉であるさくらの思考は読み取る事が出来た。それはこんな思考だった。
〈桃樹ぃ。ここでお姉ちゃんとエッチしていこうか。学校の保健室ってスリルあるじゃん〉
 桃樹は腕を突っ張ってさくらの胸から脱出し、ベッドの向こう側に飛び降りた。
「な、何考えてんだよ。ねーちゃん!」
「がははは。何赤くなってんのよ。ウブねぇ。冗談に決まってんでしょ」
 さくらは両手を腰に当てて大笑いした。そしてスタスタと出口まで歩いて振り向いた。
「じゃね。せいぜい頑張ってね。愛しの桃樹ちゃん」
 そういって出て行った。最後に投げキッスは忘れない。
 後には呆然と立ち尽くす桃樹が残された。
 気が付くと、心の中の氷は溶けてなくなっていた。












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