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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
21/33

天井が見慣れてきた今日この頃

 加藤さんから貰った案件は、候補スタッフもほぼ決まり… 最終選定をやっていたときだった。


「西東京から電話です~!」

 カナコが取り次いでくれた電話を半信半疑で取り次いだ。珍しいな、西東京事業所といえば、東京圏最果ての事業所。あんまり絡みが無…あ、この前、ピンチ打開のために こっそり忍び込んだ以来だわ。

 なんの連絡だろ??


「ハイ、権田でーす」

 電話にでると、相手はなんと

「久しぶりね、元気?」

 西東京事業所の超ベテランお局様 牧瀬お姉様だった。あの一発逆転 超S級OBを引っ張り出す手伝いをしてくれた…恩人の一人。そもそも、ここに忍び込んだのも、この人に会いたかったから。


「きゃー!お久しぶりですぅ~」

 この前、お礼のメールは打ったんだけど、直接話すのは、勿論、忍び込んだ時以来!

「元気なのね。」

 牧瀬さんは、電話の向こうで苦笑いしてる気がした。

「あの、帰ってきて早々申し訳ないんだけど…」

 急に牧瀬さんの歯切れが悪くなる


「ウチ、大林さんのトコが繁忙期来ちゃって…」

 あー、助けてってことね?やっぱりその件か…

 薄々知ってたけど、手に負えそうもなかったから、静観してたのよね。電話きたか。

へいたいが足りませんか?それとも車両あし?」

 聞くだけ聞くけど、こっちは… 視界の端で所長が「断れ!断れ!」サインを送ってる。


「ふふ、聞こえたわ。…困らせちゃったわね」

 牧瀬さんがまた、静かに笑った。


「スミマセン…いま、首都圏近郊営業所は、例の新案件でバタバタしてるんですよ…」


 牧瀬さんには言いづらかったことがある。

 実は今、本社が取ってきた新案件が 手元にまだくすぶってるのだ。そこが片づかないと 営業所として、牧瀬さんの頼みを聞けない。


「本社案件じゃ勝てないわね、仕方ないか」

 そう、恩人に呟かせてしまう自分が歯がゆい。

 なんとか…してあげたいけど…


 手許には、会話の終わりを催促するかのように、カナコが取った電話のメモが回ってきた

「折り返しにしておきましたあ」

 ちらっとあたしを見るカナコ。


…流石のアンタでも、分かるんだ…


 いきなり降り注いだ本社案件。実はこれ、実務の責任者はカナコ彼氏。成功すれば、カナコ彼氏の手柄に勿論なる。

 仕事に興味のないカナコといえど、親愛なるダーリンの仕事は、優先して片づけて欲しいらしい


 いや、だな。この力関係。

 あたし個人なら、牧瀬さんを取る。だって恩人だもん


 でも、会社の売上とコネクションを考えれば…カナコ彼氏案件なんだと思う。


 苦しい。苦しい。何とかしたい。なのに、言葉が…出てこない!!


 そんなことになっても、牧瀬さんはまた笑った。

「一旦、大林さんたちに相談するわ。悩ませてごめんなさいね」

 そうやって颯爽と電話を切るんだこの人は。牧瀬さんの強さと優しさに甘えてしまったんだ、あたしは。


 受話器を置くなり、身体が椅子へ溶けてしまいそうなくらい…動かなくなった気がした。


 なんか… 一気に疲れたな… 

 こんな力関係で 仕事が決まっていくなんて…グッタリする

 

 牧瀬さん、楽にしてあげたいな…

 どうすればいいんだろう


 机をみると、現場の最終日に皆で撮った写真たちがある

 この前の飲み会のメンバーとか、登録作業員の皆とか、加藤さんほか出入りの協力会社ぎょうしゃとか…あっ!!

 武藤さん!!武藤さんがいるじゃん!


 そうだ。

 武藤さんなら、大林さんの上の上とかにいた人だ。もし、ゴメンナサイ沙汰になっても、口添えしてくれるかもしれない


 あたしは、思うよりも早くケータイに手を伸ばし…武藤さんのケータイに「(武藤さん、助けてっ!!)」念じながら着信を残した。


 

 本当は、加藤さんにも電話しようとは思ってた。でも、気恥ずかしくて、電話しづらくて…勿論、逃げてるのは分かってる。

 仕事なら、なりふり構わず突き進めるのに、恋とかオトコとかになると、意気地なしになる。


 ダメだなあ、あたし。


 協力会社 兼 客先としての接し方なら、バッチリ自信あるのに、好きになっちゃった人に「女」として見てもらえる…自信がない。


 せめて、牧瀬さんみたいな…理性的な人格形成があたしに出来てりゃ…悩む事もなかったのに。


 ダメだなあ、あたし。


 最近、悩んでばっかりだ…あたしは、天井がなんだか見慣れてきたなと、ぼんやり溜め息をついた


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